第64話 市街地最速の技⁈
公園の入り口で二台のバイクの排気音を聞きながら最終コーナー出口を固唾をのんで見守る面々。低い排気音と共に先に姿を見せたのは永遠のエイプ100。
「やるじゃないっ! 永遠、あっ……」
声援を送る刹那の目に続いて飛び込んできたのはエイプの後ろにぴったりと貼り付いて走る一重のKSR-1の姿。こちらは乾いた金属の反響音が混ざった高音を奏で白煙を撒き散らしている。
「くっそ! 引き離せねーっ」焦る永遠のアクセルワークがラフになっていく。
実際はコーナー出口から次のコーナーへの進入のストレート区間ではやや引き離せているのだが、追われているという焦燥感と背後から聞こえてくる甲高い排気音が永遠にプレッシャーを与え続けている。
「なんか永遠余裕ねーな。いつもは楽しそうに走ってんのに」
二周目、第一コーナーに消えていく二台の背中を見た寺西が呟く。
「どうしよ彼方、永遠くん負けちゃうよ」
「お姉ちゃん、ここはアレじゃない? 正気を取り戻させる時の王道的な……」
一方、公園裏手の第二〜第四コーナーセクションでは、最終ストレートで開いた差をあっという間に詰めた一重が腰を落とし膝を出すスタイルの永遠をイン側、アウト側とどちらからでも抜けるぞとアピールをするように車体を右に左に振って並びかける。
ゴツンと接触音がして永遠が歯を食いしばる。
二度目の最終コーナー、イン側にある公園の柵に膝を打ち付ける程に気合いを入れてインベタギリギリまで攻める永遠。
「先輩やるやんか! せやけど街乗り最強王者は白バイなんやで!」
走行ラインを変えた一重が永遠のアウト側からワンテンポ遅らせてフロントブレーキをかける。
柔らかめにセッティングされたフロントフォークが一気に沈み込み、一重がコーナーイン側をキッと親の仇の様に睨みつける。
正に人馬一体となってマシンを倒し込み、車体を90度にぐりんと旋回させ、立ち上がりでアウト側に膨らんでいく永遠のインを刺しエイプと並ぶKSR-1。
「クソっ! 何でっ!」
「先輩! 峠やないんやで! 街乗りでウチのジムカーナに勝とうっちゅーんがそもそも間違いや!」
コーナー立ち上がり、そのまま並んだ状態での加速勝負。永遠のエイプがフロントタイヤ半分だけリードし始め、公園入り口を通過して行く。
「お姉ちゃん、今ッ!」
「永遠くんっ! こっち見てッ! 落ち着いてっ!」と那由多が叫びスカートの裾に手をかけると一気に捲り上げた。
スタートラインを通り過ぎて行く永遠と一重の目に純白の木綿お子ちゃまパンツが映る。
「ちょ、なんで私ィ?」急に那由多にスカートを捲られた刹那が慌ててスカートを押さえて叫ぶ。
「アホちゃうか! 漫画や小説やないんやでぇ!」
すぐに正面を向いてコーナーに飛び込む一重。
一方、驚いて緩めてしまったアクセルの開け直しで空気とガソリンを混ぜる為のキャブレター装置からボコボコと音を立てて大きくアウト側にはらんだ永遠が一重から一馬身遅れて第一コーナーに消えて行った。
そのままさらにペースを上げていく一重のコーナリングを後ろから眺めることしか出来ない永遠。その差はどんどん開いていく。
ゴールライン手前。
フルアクセルからガツンとフロントブレーキをかけた一重のKSR-1。
リアタイヤがふわっと浮いて、ジャックナイフと言うウィリーとは逆の姿勢になって一メートルほど走りゴールラインを通過。
上体を捻った一重が刹那を指差しながらフロントタイヤを軸に180度回転して止まり、ドスンとリアタイヤを設置させた。
決めポーズで「どやっ!」と言う一重とは対照的に「ぐぬぬ」と低く唸る刹那だった。




