第63話 一重疾走る!
「入部もなにも、存在しないんですよね? 学園探偵部?」
一重が呆れ顔で刹那に問い詰める。
「ま、まぁ、入部希望ってんなら助手として働かせてあげてもいいわよっ。そもそも私たちに勝とうだなんて百年……」刹那の上から目線は何処までも続く。
「じゃあ、私と一期が勝ったら学園探偵部を作ってください! 万が一負けたら助手でも何でもやりますよ」と一重も刹那に負けず劣らず勝ち気な性格のようだ。
「永遠はわかんないけど、私が一期に負けるわけないわよっ!」と鼻息の荒い刹那の発言にしょんぼりと肩を落とした一期が小さく「そうですよね」と呟く。
「絶対?」
「絶対!」
「ホントに?」
「ホントのホントにっ!」
「じゃあ、もし私と一期両方が勝ったら先輩、一期と付き合ってくださいね!」
「そんなのお安い御用よっ!」と、啖呵を切った傍から、アッとした顔で刹那が口を抑える。
「バカ刹那っ」永遠が呆れて突っ込みを入れる。
「ちょっと一重さん!」と一期が赤面しながらも一重に突っ込む。
「だって絶対勝つんでしょ?」
「だーもうっ! 行くぞ永遠っ! 返り討ちだっ! あと、士郎も来てっ、審判よっ」
「申し訳ないが、今日もこの後バイトだ」
「じゃあローリーっ!」
「はいはい」
しかし面白そうだと思ったのか、結局ラジ研の二人もゲーム愛好会の二人も、そしてナユカナこと那由多と彼方までも見学の為、ぞろぞろと教室を後にした。教室の入り口には『ゲーム研究会・ラジオ愛好会・模型部は不在のため本日の見学は無し、学園探偵部はデマ』と書かれた貼り紙がされた。
一同はぞろぞろと永遠がエイプ100を隠している公園へと向かう。
入り口脇の数台しかキャパシティのない駐輪スペースに堂々と一重の愛車、カワサキKSR-1が停められていた。
「おま、流石に少しは隠しとけよ……」永遠があちゃーと言わんばかりに手のひらで目を覆いながら新米隠れバイカーにアドバイスする。
永遠が茂みからエイプ100を出し、器用に侵入防止用ポールを避けて公園入り口まで押してくる。そしてそのままバイクに跨ってヘルメットを被った。
その横に既にヘルメットと肘と膝にプロテクターをつけて準備万端の一重がKSR-1を並べる。その車体を隅々まで観察した永遠が一言溜息混じりに感嘆する。
「こりゃあ……かなり」
川崎重工製KSR-1。
排気量は永遠のエイプ100と比べると半分の50cc。2ストローク独特のまるで胃袋のような形をしたチャンバーと呼ばれる排気管はピカピカのステンレス仕上げで容量の多い社外品、前後ブレーキホースも効きがダイレクトになるメッシュホースに変えられており、フロントブレーキは金色の塊でbremboの文字。ホイールも軽量化の為ホンダNSR50のものが流用されている。小石が幾つも引っ付いていることからタイヤもかなりハイグリップなものを履いているようだ。
公園入口から左回りに90度の第一コーナーを過ぎると下り気味の緩い左第二コーナー、続く第三コーナー・第四コーナーまでは全て90度未満、最終の第五コーナーは90度以上ありヘアピンまではいかないものの鋭角に回り込むコーナーで、全て左コーナーというレイアウト。
「勝負は公園の周りを先にぐるっと三周回った方が勝ち! 用意はいーい?」
暖気も終わりアイドリング中のバイクに跨っている二人がこくりと頷く。
刹那が二台の真ん中に立ち両腕を高々と上げる。永遠はジェットヘルメットの、一重は顎の尖ったフルフェイスヘルメットのシールドを下げる。永遠がクラッチを握りギアを一速に入れる。
「よーいスタートォッ!」
刹那の両腕が振り下ろされる。
永遠のエイプが勢いよく飛び出して第1コーナーに差し掛かる。
「ヨッシャ、頭取った!」ここで念の為バックミラーを確認した永遠は驚くべき光景を目の当たりにする。
なんとスタート地点の公園入口では……。
「ちょっと、一重さん、何してんの⁉」腕組みしたままスタートしていない一重に一期が声をかける。
「うちのKSR-1が2ストやから勝ったなんて言われとーないやろ? せやさかいこんくらいはハンデが必要や、ほな行くでー!」
語るや否やハンドルに覆いかぶさるように前傾姿勢をとった一重がロケットの様な加速で飛び出す。
コース上では「なんで?」と戸惑いながらも腰を落としたハングオンの姿勢でコーナーに突っ込む永遠。
スタート地点では一重が巻き散らした白煙の中「なんで? ……なんで関西弁??」と呟く刹那。
「一重さんは一昨年転校してきて、バイクに跨ると地元の言葉が出ちゃうイタい人なんですぅ」と、一期が答えた。




