第60話 噂の新入生!
神奈川の片田舎。永遠たちの通う私立御名治高等学園にも、桜舞い散る季節がやってきた。
「おーい、永遠ー」
教室の入り口から窓際に座る永遠まで届く声が発せられた。
ただでさえざわついている始業前のこの時間。しかも今日は春休み開けの最初の登校に加え、さらに入学式まで行われるのでいつもよりざわついている。
そんな喧騒の中なので、声がする方を向いたのは呼ばれた本人である永遠と幼馴染の刹那だけだった。
呼ばれた当の本人よりも早く刹那が立ち上がり、一年中羽織っているブレザーのポケットに手を突っ込んで声の主に歩み寄る。
「何? 依頼? それなら永遠じゃなくって最初に所長であるこの私を通してよね」
「いや、あれ? やっぱ刹那ちゃんいるよね?」
「はぁ〜? 何言ってるの? 依頼じゃないのね?」
高校生活も三年目ともなるとクラス毎の縄張り意識など疾うの昔になくなっており、永遠を訪ねてきた彼も堂々と教室に入っていき窓際の席までやってきた。
「永遠! 今さっき校門の近くで新入生の男子たちに囲まれてた娘がさ、刹那ちゃんそっくりで負けるとも劣らない、いやどっちかというとお淑やかそうな点が……」
「痛っ」刹那のひざ蹴りが臀部に決まる。
「おしとやかで無くて悪かったわね!」
「いや、刹那ちゃんはそのSっ気もまた魅りょ……」
ガッ。
今度は頭を押さえてうずくまる学友を尻目に肩を並べて窓から身を乗り出す二人。狭く感じた刹那が永遠の肩をぐいぐいと押しやる。
すでに校門の近くにその該当者はいなかったが、男子数人に一定の距離を取られながら囲まれて体育館の方へと移動する謎の円の中心に二人の女子? を発見した。
「まるでカメコさんがつくる撮影サークルじゃない」一つ隣の窓から顔を出している那由多の声。彼女も昨年度同様、永遠たちと同じクラスの様子だ。
「「あーっ、アレ(あいつ)ね。受かったんだ」」とはもる二人。
「なんだよ、あの娘知り合いか? 今度紹か……」
「男の子よ、アレ」食い気味に刹那が被せた。
「いやどちらかと言うと男の娘?」と永遠が訂正する。
「え? 刹那ちゃん今なんて?」
「アレ男」
「いやいや、永遠ぁ今刹那ちゃんが……」
「アレ男」
「ええーっ!」
断末魔の様な悲鳴をあげながら後退りして教室を出て行く彼を刹那と永遠は死んだ魚の様な目で見送った。
「一期うちの学園受けるとは言ってたけど、何で女子の格好してんだ⁇」
「まぁ割と校則緩いっちゃあ緩いけどさ、うちの高校」
「お前が言うなって!」
昨年度、金髪騒動を起こした張本人の刹那。それに関して、永遠も教師に説得を任されたりと実害を被っているのでここは当然の突っ込みだ。
「おーい、席に付けー! とっととホームルーム終わらせて始業式に移るぞー」
そう言って教室に入ってきた担任がモニターをいじりながら始業式の準備を進める。永遠と刹那は、馴染みのある数学教師が担任なので安堵の表情。
担任が操作し終わったモニターには、学年主任の教師がスタンバイしている画面が映る。何か喋っている様子だがまだ音声は拾われていない。
担任教師が数枚のプリントの束を最前列の生徒に配り、そのプリントが全体に行き渡る頃合いを見計らい出欠を取り始める。
プリントを受け取り後ろの生徒に渡しながら、見出しに大きく書かれている〝進路〟の文字を見い出した永遠は小さく「うへぇ」と呟いた。




