第57話 コーヒーショップへ
「犯人は犯行現場に戻るって、あれドラマや小説の中だけだからっ」
永遠の叫びも、エイプ100のタンデムステップに立って辺りを警戒中の刹那には届かない。……或いは聞こえないふり。
永遠はここ数日というもの放課後になるや否や刹那に駆り出され、件の数学教師から聞き出した犯行現場を時間軸に沿って巡回させられているのだが勿論収穫はゼロ。
「どーすんだよ刹那? 今日ので現場最後だぜ?」
「次は最近出来たコーヒーショップに行って」
「いや、近いっちゃ近いけど、なんで」
基本的に永遠は刹那に逆らえない。理由は彼の恋愛感情に起因する。仕方なく黙って注文の難しい珈琲店へと向かった。
「ご注文は……」
「コーヒー」
「レギュラーブレンドで宜しいでしょうか?」
「アイスかホットか……」
「サイズはどうなさいますか?」
「トッピングは?」
「……」
「…」
コーヒーを受け取り、注文だけで精神力を削られてテーブルに突っ伏している刹那。対照的に指差し確認で適当に順応した永遠は精神的に削られてはいないが、タンデム中にずっと肩を掴まれていた所為で体力を消費した様で、痛む肩と首を回している。
「私そもそも紅茶派だし」刹那が顔だけ起こしてぼやく。
「嘘つけ! いつもコーラのくせに」
そんないつも通りのやり取りの後、永遠が尋ねた。
「で、紅茶派のお前が何でここなんだ?」
「ここのサイト」刹那がスマホの画面を見せる。
「『都成野中(秘)掲示板』? なんだこりゃ?」
「この辺りが学区の中学の俗に言う裏掲示板ってやつ。ここ数日でチェックした所は過去にこの掲示板で誰かしらが文句を書き込んでんのよ」
「偶然じゃねーのか?」
「少し遡ってみて。流石にゴミ漁りのカラスは居なくなって無かったけど、そこの生徒が何人か通ってる塾の駐輪場で自転車のサドルに座ってる猫は居なかったし、小型犬をリード付けずに散歩してるのも見かけなかった」
「電車は?」
「あそこ辺り通過する電車からのゴミのポイ捨てが酷かったらしいんだけど、窓閉めて走ってたね」
「てか、ここいら民度低いな」
刹那からスマホを受け取りゆっくりスワイプしていく永遠の指先が止まった。
「これか」
「そ。ここはテラスも禁煙なのに、外だからいいだろうって言う迷惑な喫煙者が出るって。割と最近の話題」
「なんかどっかで聞いた話だなーそれ」
「けど凄いな刹那。これで犯人現れたら大手g……」
「あ、いたいた。やほー! 永遠さん!」
元気な声で見るからに甘そうなドリンクを持って登場したのは彼方。後ろには那由多と真理、士郎もいる。
「そうか、士郎の入れ知恵か……」
「ち、違うわよ! 私の華麗な推理にたまたま士郎が相談の検索で真理を……」
「もうよせ刹那」
店内で一番テラス席に近い席から観察を続ける刹那と永遠。あとからやってきた四人はその隣テーブルに腰掛けた。その後、最初の30分くらいは歓談していたが、外を警戒して反応の悪い刹那につられるようにそれぞれ思い思いにスマホをつついたり本を読み始めたりして一時間が経過しようとしていた。
「いらっしゃいませ」何回も聞こえていたその声の調子がいままでと違い、少しだけ震えているのに気付いたのは永遠のみだった。顔は俯いたままでスマホのカメラアプリを立ち上げる。動画モードにしたレンズをレジカウンターに向ける。モニターに映ったのは以前刹那がハンバーガーショップで揉めたチンピラ。
「やっぱりか」半ば諦めのような声をため息と共に吐き出す。
男は外側を睨んでいる刹那の背中を素通りしてテラス席に着いた。気付いた刹那が「あっ」と声を出しそうになり、すぐに永遠が刹那のスマホにメッセージを送った。
『顔割れてるから慎重にしろ』
メッセージを読んでぐぬぬって表情をしながら鞄から取り出した変装用の伊達メガネをかける刹那。二人の様子を見て那由多もチンピラに気付き、こちらはいつもつけている伊達メガネを外して三つ編みを解く。
案の定、席に着いた男は我がもの顔でタバコを吸い始める。周囲の人は何も言わずに立ち上がり店を後にしたり、咳払いをして男に睨まれて慌てて出て行く等々。店員も見て見ぬふり。
二本目のタバコに火をつけた頃、時間にして15分程。我慢の限界に達した刹那が、当初の目的を忘れて立ち上がった。
椅子が床に倒れて大きな音を出す。いつでも抜けるようにスモルトのグリップを後ろ手に握り構える刹那が声を張る。
「ちょっとアンタいい加減に……」
ウィッ、ポポポポッ!
「いたたタッ! テメぇあん時のッ!」タバコを持つ手にBB弾をフルオートで喰らった男が叫んだ。




