第54話 ジャックナイフ!
「永遠っ! アレだよ、品川ナンバー!」
二〜三台の車をすり抜け、刹那が指さしたバンに追いつき横に並ぶ。
「刹那ナイス! 一気に前に出るぜ!」
と、永遠が息巻いた矢先にバンとは反対側の車両の間から追っ手のスクーターが割り込んできた。バンに追いつく事に集中し過ぎていたようだ。
「わっ、危ッ」
慌ててフロントブレーキをかけた永遠だったが、加速しようとアクセルをラフに開けていたのと後ろに乗せた防弾チョッキ付き刹那の重しの影響で地面から数センチ浮き気味になっていたフロントタイヤが空中でロックしただけだった。
「やっべ」
すぐに違和感に気付いた永遠だったが、身体に染みついた習性でブレーキ時にアクセルを戻していたため後輪は急減速。
地面から離れていたフロントタイヤは空中でロックしたまま着地!
その結果……。
「きゃっ」
エイプは前輪を軸にして後輪が跳ね上がり、いわゆるジャックナイフという状態に。刹那はタンデム席から前方に向けて勢いよく投げ出された。
永遠も為す術なく前のめりになり、スピードメーター兼タコメーターに激しく頭をぶつけた。
頭で押したのか手で押したのか、偶然にもハンドルに設置されているキルスイッチが押されエンジンは止まった。かろうじて両脚を踏ん張り転倒を免れた永遠は慌てて刹那の方を見る。
一方、タンデム席から放り出された刹那はそのままの姿勢で奇跡的に一回転前宙してアスファルトに着地。この時少しだけお漏らししたことがバレないようにしないとと気を引き締めて周囲をキョロキョロしながら立ち上がった。
すぐ隣を走るバイクから人が放り出され、白いバンも急ブレーキをかける。後続車から激しくクラクションが鳴らされる。
「刹那大丈夫かっ!」
「見たぁっ? 私の華麗なキャット空中三回転っ!」振り返ってヘルメットを脱ぐ刹那。しかし脚は震えているし、ヘルメットと一緒にロングウィッグもずれてしまっている。
「バカ刹那っ、髪っ!」永遠が注意したその時、バンのスライドドアが勢いよく開いた。
「刹那っ、大丈夫!?」車から一歩踏み出して声を張る真理の方へ、永遠と刹那とスクーター組の四人の視線が集中した。
男たちが刹那と真理の顔を交互に見比べた後、スクーター後部座席の男が真理に向かって駆けだした! が、刹那の横をすり抜けていく際、何かに躓きバランスを崩して盛大に転んだ。その足元からアスファルトの上をカラカラと音を立て回転して滑るように転がっていくハイキャパ5.1R。
「え、ウソ? やだぁっ」刹那がブレザーの上から空になっているショルダーホルスターを何回も確かめるように触る。
「真理さん乗って!」車内から年配の男性のような声が聞こえ、永遠も「逃げろ真理ちゃっ!」と叫んだ。
心配そうな顔をこちらに向けていた真理だったが、すぐに車内に引っ込みドアが締まりきるのも待たずにバンは高速入口を目指して再び走り出した。スクーターの外国人も起き上がり、また二人乗りをして今度はバンを追いかけて行った。
「永遠っ、マギーがっ!」
「危ねーって」駆け出そうとする刹那の腕を掴み引き留める。
永遠と外国人のスクーターのトラブルにより一時的に詰まってしまった交通はすぐに復活し、刹那のハイキャパ5.1Rは車に轢かれ無残にも砕け散っていった。
「あー、私がホルスターのホック止めてなかった所為だ……」と小さく呟いた後、周囲からクラクションを鳴らされながら永遠と一緒に路肩まで避難していく刹那だった。
「永遠、私たちも真理を追跡しよう……」と気持ちを切替えようとする刹那。
「いや、もういいだろ」とタンクに肘をついて落ち着いている永遠。
「何でよっ? 結局、あのバンだって味方かどうかわかったもんじゃ……」
「第一に俺たち高速乗れないし、第二にバンの中から真理を呼びかける日本語の声が聞こえた。第三に俺たちが転んだ時にバンも止まって中から真理が出てきた。ってことは間違いなくあのバンは敵じゃないこと。そして最後、あそこに外国人の一人が被ってた半ヘルが落ちてる。ノーヘルタンデムなんてほっといても高速で交通機動隊(※)に捕まるだろ。なんだったら俺達が通報しときゃいい。戻って士郎と合流して真理からの連絡を待とう」
※正確には高速道路での取り締まりは高速道路交通警察隊、通称「高速隊」になりますが高校生の永遠は勘違いをしています。




