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第49話 安心スパッツ

永遠(とわ)、本開いたまま聞け。あの女の後ろ、グレーパーカーの男の荷物の置き方が不自然だ」

 永遠の隣に立ち自然な仕草でバイク雑誌を手に取った的部士郎が、殆ど唇を動かさずに呟く。永遠がスマホを取り出してカメラ越しに見てみると確かに変ではあるが、上着と同じでグレーゾーンだ。

「確証は?」

「無い」

「お前、それどうしようもねーだろ?」

「悪党に遠慮してどうする?」

「士郎、お前刹那(せつな)と気が合うぜ。だけどそれは正義じゃねーよ」

(けど、あいつを守るのは俺の役目だよな……)

 士郎の気遣いも虚しく、ミニモト誌を閉じておもむろに刹那の方を向く永遠だったが、刹那に背を向けていたパーカーの男が永遠の挙動に気付いてすぐに鞄を拾い上げて足早に立ち去っていく。


「あっ、ちょ待てよ!」走り出す男に声をかける。

「永遠! 見て見て! このホルスターがさ……」

「刹那っ! そいつお前のスカートの……」

 永遠の言葉を最後まで聞かず雑誌を置いた刹那がショルダーホルスターからハイキャパ5.1R(マギー)を抜こうとするが、永遠がその腕をブレザーの上から押さえつける。

「おま、こんなとこで抜くなって! お前の脚なら追いつくだろ?」


「なんだぁ?」「きゃ」

 走っていく男に肩をぶつけられた人や、近くを通るときに腕を引っ張られた女性が転びそうになったりと店内に怒声や悲鳴が響く。

「永遠! お前慎重って言葉知ってるか⁉︎」犯人を追いかけながら永遠を追い抜きざまに士郎がボヤく。その後ろには刹那が続く。

「足りないモン(身長)は持ってない! 苦情は後で聞くっ!」こちらも追いかけているが、体力×体格の模範解答にはかなわない永遠。

 しかし体格で勝っていそうな士郎も身体能力で勝っていそうな刹那すらも盗撮犯はぐいぐいと引き離していく。逃げていく男の脚が異常に速い!

 結果、騒然とした店内から逃げていく盗撮犯に誰一人追いつけないまま入り口自動ドアが罪人に対しても平等に開かれていく様を見送るしか出来ない永遠たち。

「置き引き先生かよ……」諦めて膝に手をついた姿勢で肩で息をしている永遠がぼやく。

「クソっ!」悪役のような台詞を吐き捨てながらも追跡を諦めない士郎。

「あーもうっ! 士郎邪魔ぁっ!」と士郎に追いつけず悔しそうな刹那。


 ピンポーン。

「ぅわっ!」ドチャッ。

 ドアが開いたと同時に入退店のチャイム音に合わせ盛大に転ぶ犯人。

 すぐに追いついた士郎が犯人の腕を後ろ手に()めて押さえ込む。次いで刹那が念の為男の背中をローファーで踏みつける。

「カナちゃん!」

「咄嗟に足引っ掛けちゃったけど、悪い人ですよね? 永遠さん?」

「多分ね」永遠が男の鞄を拾い上げ、遅れてやって来た店員に事情を説明して鞄の中を確認してもらう。

 そこには士郎の睨み通り録画中のままインジケーターランプが赤く光っているビデオカメラがあった。すぐに店員が店長を呼びに行き速やかに警察に連絡がなされた。


「あ、カナ! これ見てー! やっぱツカサウケよねーっ!」レジを済ませた那由多(なゆた)がほくほく顔でやってきて彼方(かなた)に話しかけた。状況把握はこれからのようだ。

「ほんと、貴女達といると飽きないわね。まさか本当に盗撮犯に出くわすなんて」

 呆れた様子で真理が永遠と刹那に冷笑ともとれる微笑みを向ける。

「ま、私を盗撮しても意味ないんだけどね。いつもスパッツ履いてるし」と言いながら刹那が自らスカートをめくり、真ん中に小さなリボンの付いた純白の木綿パンティをセルフ開示する。その少し下、太ももの内側には刹那が彼方に頼んで作ってもらったバリスティックナイロン製ホルスターに収まったコルトディティ(ジョン)クティブスペシャルが鎮座していた。

「ば、バカ刹那!」と言い放った永遠の顔を隣にいた那由多が買ってきたアンソロジーコミックで覆い、真理は学生鞄で士郎の顔を隠しながら「そのお子様パンツ、早く仕舞いなさい!」と刹那に忠告した。

 真顔になった刹那がゆっくりと視線を自分の下半身に向けると、めくられたスカート生地が手から離されハラリと本来あるべき位置に落ちついた。

「ぷっギャー! 忘れてたー!

 ジョンの位置替えたからスパッツ履けなくなったんだったー!」

 顔を真っ赤にしながら刹那が叫ぶ。


「刹那さんのスカートの中を盗撮しても映るのは鉄砲だったんですね」彼方が指で鉄砲の形を作って刹那の太ももを撃つ仕草をした。

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