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第46話 母似なの!

 赤みがかっていた空がミッドナイトブルーに染まり始める頃。

 この時間帯は一番視界が悪くなる上、高齢者のソロ散歩活動も盛んになる。またその際の彼らの服装は都市型迷彩と言っても過言でないほど地味だ。

「今度こそ()ってくれよ……」

 永遠(とわ)はエイプ100を慎重に走らせながら愛車の上でぼやいていた。

 辿り着いたのは本日三軒目のレンタルビデオ店。

 店内に入り洋画のアクションジャンルコーナーの場所を確認すると一目散に向かう。頭の中で五十音表を呪文のように唱えつつ祈るような気持ちで棚に並べられたDVDパッケージの背に人差し指を滑らせた。


――二時間ほど前。教室は正に放課後に差し掛かろうとしていた。

 キーンコーン、カーンコーン。

 本日全ての授業の終わりを告げる鐘が鳴り、その音とほぼ同時に鞄を掴んで立ち上がった刹那(せつな)は教室の出口に向かって駆け出した。

「永遠、おッ先ー!」

「ちょ、また寺西となんか変な事してんじゃねーだろーな?」

「今日はカナちゃんに用があるのーっ!」

 ……が。

 刹那がピシャーンと扉をスライドすると担任教師が仁王立ちしていた。そのまま首根っこを掴まれて職員室に連行される様を見てクラスの全員が同じ事を考えていた。

(絶対に金髪の件……)


 永遠は教師の説教が終わるまで刹那を公園で待つか、ゲームラジオ模型連合会(仮)に顔を出すか数分程思案した結果、那由多(なゆた)と共に連合会に向かおうとするが……。

「永遠くん! 一緒に帰ってあげてもいいわよ」と上から目線で真理が登場した。

「へ? いや俺たちこれからクラブ活動だよ?」

 言いながらも自分たちの活動って何だっけか? という疑問で語尾を上げてしまう。

 俯いて黙っている那由多の頭の中では先日真理が永遠に言い放った言葉が鳴り響いていた。

(「特別に私の騎士(ナイト)に任命してあげても良くってよ……、良くってよ……、良くってよ……、良くって……」)

「だーっ! 良かないわよっ!」

 急に叫んだ那由多に「訳が分からないよ」といった表情の永遠と真理、堪えきれず噴き出す士郎。

「永遠、クラブって部外者も見学していいのか?」と的部が永遠に投げかける。

「全々オッケーよ、あんま正式なもんじゃねーし。つか俺ら教室使ってるどの部活にも属してねーし」

「おじょ……真理様は永遠と一緒にクラブ見学してきたらどうでしょう? 興味深そうなら入部しても良いでしょうし。自分は宮瀬さんと話がしたいので……」

「そうね。では後ほど」とロングヘア―を翻してツカツカと歩を進める真理の後を

「いや、場所わかんのかよ」と言いながら追いかける永遠。

「ちょっ! 待ちなさいよ」とさらにその後に続いていこうとする那由多の肩に的部が手を置いて引き留める。

「心配しなくても何でもない」と落ち着いた口調で話す的部の台詞に那由多は眉間に目一杯の皺を寄せて「はぁ~っ?」と睨み返した。


 一方、真理と一緒に連合会の活動教室前まで来た永遠だったが……。

「永遠! ちょっといいか?」と先ほど刹那を捕まえて絶賛説教中の筈の担任教師が呼び止めた。

「え、あハイ、ってか。どうなってんの今日?」

 真理の方を見やり、どうしようかと考える間もなく、クラブ活動教室の扉が開き中から彼方(かなた)が顔を出す。

「永遠さ……、えーっ! 何? お姉さまっ、凄い縦ロールっ! 見学ですか? どうぞどうぞ、私も部員じゃないけど」とみるみる内に真理が陽キャ系オタクに吸い込まれて消えた。その様子を呆れ顔で傍観していた教師と永遠が目を合わす。

「……もう驚かないんで。要件どうぞ先生」

「その、(せつ)……江口の事なんだけど。お前から言って金髪()めさせることはできないか?

 非常に言いにくいんだが……正直に話すと、教師達の意見は真っ二つに割れてて。刹那の奔放で明るい性格と、あとこれ言っちゃうのは教師側としては本当に不味いんだけど、あの容姿だろ? ファンが多いんだよ。それでそもそも学園(うち)の校則が時代に即してないって意見まで出てきて。とは言ってもさすがにアイツ夏前からずっと金髪だろ? そろそろ容認できなくなってきてるんだよ。そうそう、数学担当の先生とかあと生物の先生とかもお前たちのこと必死に守ってくれてんだよ。俺もどちらかと言うと刹那養護派なんだが。流石に今日のはちょっと……」

「あの、聞くの怖いんスすけど、刹那は?」

「たまたま職員室の窓が開いてて、そこから逃亡した」

「うへぇ、すんません。何とかしてみますー」

 そうして永遠なりに考えた作戦を遂行する為、レンタルビデオ店の梯子が始まったのだった――


「あった!」

 四軒目にしてやっと目的のレンタルDVDをゲットし、その足で刹那の家に向かいチャイムを鳴らす。

「Hi!」と刹那の父親が顔を出す。

(相変わらず陽気だなぁ。そういえば、おじさんはブロンドだな)

「あの、刹那帰ってます?」

「部屋にいるよ、上がって永遠くん」


 コンコンッ。

 嘗て知ったる刹那の部屋にノックして入った永遠は黒髪短髪女性が壁に背を持たれた姿勢でデザートイーグルを構えてしゃがんでいるシーンがパッケージのDVDソフトを見せながら入室する。

「おっ、懐かしいー! 借りてきたの?」

「久しぶりに一緒に見ようぜ」

「いいじゃんいいじゃん!」

「結構前に観た同じ監督のやつも面白かったけどあっちは超能力って感じだったしこっちの方が渋いよな」

「そう?」

「生身で実現可能なアクションだし、リアルだよ」

……


 翌朝。

 教室に下手なバレエダンスを披露しながら入室する黒髪ショートヘアの刹那。

 次いで刹那の様子を見ながら恥ずかしそうに入室する永遠。


 クラスメイトはみんなきょとんとしている。

 真理は彼方の相手で疲れきった顔で刹那を、那由多は赤ら顔で永遠を眺め、的部は一瞬だけ視線を向けたが彼と彼女には興味無さそうに『How to Kill』と書かれた洋書を読み続けた。

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