第45話 誘拐事件顛末記?
「つまり……、どーゆー事?」刹那が首を傾げる。
「だーかーらぁー」と、小野真理がみんなに話してくれた内容をもう一度永遠が刹那に噛み砕いて説明する。
真理の父親は海外にも進出している大手企業に勤めていて、現在は東南アジアの支社へ単身赴任中だ。そして今、正に現地民と雇用問題で揉めに揉めている真っ最中。
依然として交渉中なのだが、数回に渡る話し合いはいつも平行線。そんな中、痺れを切らした一部の過激派グループが、重役の一人娘である真理の誘拐を計画した。しかし事前に拉致計画の情報を掴んだ部下が真理の父親に進言し、計画は未然に防ぐことができた。
元々は東京のお嬢様女子校に通っていた真理だったが、この事件を受けて父は(先の部下の提案もあり)雇用問題が解決するまでの間、大事な一人娘を神奈川の片田舎の高校に転入させる事にした。
小野家で引き取っていた孤児・的部士郎は都内の男子校に通っていたが、万が一の時のボディーガードとして一緒の高校へと転入させられた。
「……のだけれど。流石に今回は未遂でなかったから、この学園ともおさらばね。短い間だったけど貴方達に会えて楽しかったわよ」永遠の説明にそう付け加え締め括った真理の表情は少しだけ寂しそうに見えた。
「……つまり、どーゆー事?」
「刹那、これ以上はもう」刹那のあまりにもな頭の弱さを見て、もはや同情を通り越して憐れみの目を向けた那由多が刹那の肩をポンと叩き首を横に振る。
「全っ然わかんないわよっ! 何で被害者の真理がまた転校しなきゃなんないのよっ! 戦え真理っ!」那由多の手を払いのけ、腕を真理の方に突き出し拳を握りしめる刹那。
刹那のその言葉に唇を噛みしめる真理。
「あんな騒ぎが起きたのよ? 警察も動いてるし、幾ら田舎だからって父の耳に話が入ったならもう終わりなのよっ」と叫ぶ真理。
刹那はおもむろにスマホを操作してリダイヤルする。
「おっじさーん! 今日のって揉み消せる? え? さすがに無理? そこを何とかさー」交渉が難航しているようなので永遠が横からスマホのメモ画面を使いアイデアを提示する。
「そうだ、高校生が無許可で学祭用の映画撮ってたとかで……」
「ちょっと、誰と話してるの?」真理が訝しげな顔で永遠に聞く。
「刹那の父親の友達、この街の警察署長。友達ってのもあるけど、実は刹那の親父さんは無償で署員の一部に近接戦闘の指導をしてんだよ。だから割と頭が上がらないっていうか。そんなんで刹那の起こす問題も結構有耶無耶にしてくれてるんだよね。ま、刹那の相手が大体脛に傷の有る奴ばっかってのも大きいけど」
「え、刹那のお父さんってそんな凄い人なの?」
「アメリカで特殊部隊にいたとかいなかったとか。ガキの頃から親しいけど、あんま詳しくは話してくれないんだよね」
「え待って、刹那ってハーフなの?」
「あいつの顔みたら何となくわかるだろ? 別に隠すようなことでもねーけど、わざわざ話すようなことでもねーしな。知らなくても当然っちゃ当然か」
「……ありがとっ! サンキュー!」と口元には無い髭をつまむ仕草をして通話を終える刹那。長々と続いた交渉は成功した様子だが、少し浮かない顔をしている。
「署長なんだって?」
「警察としては永遠のアイデアで惚けてくれるって。だけど出来るのはそこまでって。あとは私たちで火消しに回れって」
「火消し?」永遠が聞き返す。
「Twitterやら5chなんかである程度情報撒けってさ。永遠も私もそっち関連ダメダでしょ」両の手の平を見せて肩をすくめる。
「……そう言う事なら的部に任せて」真理の発言に的部が静かに頷く。
「私と妹のフォロワー数もなかなかの物よ」と那由多がウインクする。
「ゲーム愛好会の奴らも確かそっち方面詳しかったよな」と永遠。
「よーし、チーム〝刹那が大いに学園を……〟」
「そのネーミングはダメっ!」
「ちょっと! 私は別にあなたたちとチームを組んだ覚えはないわよ」真理の抗議で和やかになりかけていた空気がぴりりと張り詰める。皆の視線が真理に注がれる。
「ま、まぁ、でも。……刹那っ!」今度は真理が腕を真っすぐに伸ばして刹那を指さす。刹那の両肩がぴくんと動く。
「地元警察の件は感謝するわ。本当に上手く行くかどうかはまだわからないけど、貴女の望み通り最後まで戦ってやるわよ。
それと、永遠くん! 今日のことは本当に恩に着るわ。特別に私の騎士に任命してあげても宜しくってよ」そう言うと悪戯に口角を上げて微笑んだ。
こうして刹那と永遠に彼女なりの謝意を伝えた真理は、肩にかかった髪をまるでマントでも翻すようにふわりと背中へなびかせて歩き去った。的部は永遠と目を合わし、柔らかな笑顔を一瞬だけ覗かせて軽く会釈をした後、真理の後を追った。




