第43話 XX、X?
「ジャリッ」
駐車場入口で足音がした。同時に耳に飛び込んでくるのは、小声だが聞き慣れない言語。
永遠が覚悟を決めて身構えると、遠くからヒューンという音が近づいてくるのがわかった。普段なら嫌な気持ちになるサイレン音が今日この瞬間だけはとてつもなく頼もしく感じられた。
「停車中のナンバーXXのYYのプリウスの運転手、エンジンを切って両手を頭の後ろに組んで降りてきなさい」と、相変わらずの聞き取りにくい呼びかけがスピーカーから流れた。先ほどの発砲についても情報が伝わっているようだ。
異国語の怒鳴り声が聞こえたすぐ後、ドアが乱暴に閉められ車は急発進した。
そのエンジン音を追いかけるように鳴り響くけたたましいサイレンが、永遠たちのお遊戯とは違う本格的な追走劇の幕開けを告げた。
永遠と真理は静かに顔を見合わせた後、大きく安堵の溜め息を漏らした。
「戻んないとな。的部が心配だ。ヘルメットもう一つ持って戻ってくるから30分くらいここで待っててくれ」と言う永遠の提案に即座に首を横に振る真理。
「ダメよ! あいつらの仲間が他にいるかも知れないじゃない」
もし他に協力者がいるのなら真理が車から飛び出して永遠と逃走を始めた段階で追手が増えていただろう。真理の言葉を間に受けたわけではないが、那由多の心配そうな顔が頭に浮かんだ永遠は、真理をこのまま置いていくのも良くないだろうと考えなおした。
(みんながみんな刹那みたいに強い訳じゃねーよな)
即席鈍器として手にしていたヘルメットを真理に渡す。
「近場にちょっとだけ当てがある」と言い、永遠はエイプを押しながら道路に出た。
「ねえコレ、どうやって被るの?」少し遅れてついてきた真理がヘルメットを永遠に差し出す。
受け取った永遠が顎紐を目一杯広げながら真理のおでこからヘルメットを被せた。続けて真理の顎を掴んでそっと上を向かせた。一瞬、悪態をつこうと構えた真理だったが、極度の緊張から解放されたばかりの精神状態がいつもの高慢ちきな彼女の性格を抑え、そっと瞼を閉じてゆっくりと唇を尖らせた。
真理よりもやや身長の低い永遠はそんな真理の仕草に気付く筈もなく、当初の目的通りヘルメットの顎紐を丁寧に締めた。
「これでオッケ!」という永遠の台詞に真理が慌てて目を見開く。
「こ、こんなもの被ったことないんだからっ……」と赤面しながら取り繕う。
「追われずに走るバイクは気持ちいいんだぜ」いつの間にかエンジンをかけてエイプ100に跨った永遠が真理の方を向いてビリオンシートをポンポンっと叩いた。
今度はスカートを気にしながらお淑やかに横座りした真理が永遠の背中にもたれ掛かり腰にそっと腕を回した。
「ちょ、ここ掴まるとこあるから……」と振り向いてタンデムベルトを指さす。今度は永遠が赤面している。
念の為、パトカーのサイレンの聞こえる方角を気にしながら永遠は工業団地内のある建物を目指した。




