第38話 転校生はお嬢様探偵?
十一月。秋の紅葉も終わり、冷たい風が吹き冬の到来を告げる頃。
二学期も終わりになろうというこの時期。まだ生徒達もまばらにしかいない早朝、ここ私立御名治高等学園の校門に一人の少女と一人の青年の姿があった。
遠目からも一際目を引く彼女が着ているグレーの制服は、如何にもお嬢様校といった感じの凝ったデザイン。両サイドが縦にカールした艶やかで長い黒髪も彼女が上流階級の娘だと物語っている。
少女から一歩下がった位置にその身を置く青年の方は、こちらはこちらで日本全国何処でも見かけるであろう極々標準的な漆黒の学ラン。肘や膝のてかり具合、やや短めの丈などからもう何年も着ている事が窺える。
「ここね……」
「はい、お嬢様」
「士郎。ここでは〝お嬢様〟と呼ばないでと言ったわよね?」
「申し訳ございません、お……真理様」
「……同級生の貴方が私のことを〝様〟付きで呼ぶのも変でしょ?
まぁ、慣れるまでは仕方ないわ。尤も、ここに長居するつもりはないけれど」
その時、ビュウッ! と一際鋭い寒風が吹き荒れた。校内に植樹されている木々から黄色い落ち葉が舞い散り、小さな渦となって真理と士郎の前を通り過ぎていく。やや遅れてぼろぼろに風化した紙切れが真理の足元にふわりと舞い落りてきた。少女は眉をひそめて紙切れを拾う。紙飛行機の様に折り畳まれたその紙を拡げると中面には印刷された文字が。
「スクールディティクティブ? 学…内の……、困り事、な……ご相談……?」真理は微かに判読可能な部分を読み上げると、何か思いついたように不敵な笑みを浮かべた。
——永遠と刹那のクラス。教室内の喧噪が廊下まで漏れ聞こえている。
「ホームルーム始めるぞー、席着けー」
教室のドアがスライドし担任の顔が見えると生徒達はそれぞれ気だるそうに自分の席へと戻っていく。
担任は足音や椅子を引く音、少しずつトーンダウンしていくお喋りが収まっていくのを待った後、教壇の上にクラス名簿帳を置くとドアの向こうに視線を向けて口を開いた。
「さ、入って」
教師の呼びかけに開け放たれたままのドアから凛としたお嬢様が入室してきた。静かにドアを閉めると背筋をピンと伸ばしまるでモデルのような足取りで教壇の横まで歩く。その姿に男子生徒のみでなくクラス全体から溜め息にも似た歓声が零れる。
「今日からこのクラスに入ることになった小野真理さんだ。ご両親のお仕事の関係で東京の高校から我が校に転入することになった」
教師が軽く在り来たりな紹介をした後、少女の方に挨拶をするようにと視線で促す。
「ご紹介に預かりました小野真理です。
前の学校では生徒会の副会長を務めさせて頂いておりました。
今日、私と共に私の古くからの知人的部も隣のクラスに転入してきています。
皆さん、なにか学園生活で困ったことがありましたらどんなことでもいいから相談してくださいね。私たちがどんなことでも解決してあげますわ!」
自己紹介(?)を終えた真理は肩に掛かった黒髪を右手で後ろになびかせた。
見た目は大人しそうなお嬢様の思いがけない発言にクラスがざわめく。永遠と仲の良い数名の男子生徒が刹那をチラ見する。
刹那は刹那で窓辺の席に座っている永遠の方を見る。その視線に気付いた永遠と目を合わせた瞬間(マ・ニ・アッ・テ・ルッ! っつーの!)と口パクして見せたが、全く読み取れない永遠は首をかしげる仕草で応えた。




