第36話 ビックルするほど無駄な放課後2
「そろそろボクの出番かなっ!」
と元気一杯な声が聞こえ屋上の扉が勢いよく開くと、そのまま反対側の壁に当たり重厚な金属音が響いた。絶賛爆睡中の永遠以外の三人が音の鳴った方を向くと、そこに立っているのは那由多の妹、彼方だった。
もったい付けるようにゆっくり歩みよってきた彼方が爆睡する永遠の様子に気付き、目を泳がせながら両手をブレザーのポケットに突っ込んで立ち止まる。
「えーとぉ、永遠さんがお姉ちゃんに美しい姉妹愛を説き終わってる頃?」
「導入部で寝落ち」と刹那が教えてやる。
「あ、そういえば私、手芸部の部長に呼び出されてるんだった!」と踵を返す彼方に大きな溜息を吐いて那由多が話かける。
「もう、いいわよ。いきなりは無理だけどたまに〝合わせ〟くらいなら付き合うわよ」
ぱぁっと明るい顔になり「お姉ちゃん!」と駆け寄りハグしてくる妹に「あと〝ボクっ娘設定〟忘れてるわよ」と優しくハグを返す那由多だった。
「彼方ちゃんもお昼まだでしょ? 一緒に食べようよ」彼方が腕に小さなポーチをぶら下げているのを見つけたローリーが優しく声を掛ける。
「こいつはロリコンの〝ローリー〟ね」と刹那が他己紹介する。
「ちょっと、刹那ちゃん! 第一印象って大事なんだけど……」
「フフッ、はじめましてローリーさん。彼方です! お姉ちゃんからお噂はかねがね」
「ほんと那由多ちゃんそっくりだね。那由多ちゃんもチー牛メイク止めればいいのに。モテそう」とローリー。
「モテたく無いんだよね、お姉ちゃんは」
「だって見た目で寄ってくる男ってペラいんだもの」
「えー、見た目イイだけでも充分なのに」
「彼方ちゃんはモテテそうだね」
「その言い方キモいですよ、ローリーさん! 確かにボクは常にイケメン彼氏五人はキープしてますけど!」
「あ、刹那ちゃん湯気出てる」
使えない主人公二人はそのまま放置し、お弁当を食べながら歓談を続ける三人。
「……それで那由多ちゃんメイク上手いんだね。彼方ちゃんは?」
「わた、ボクは衣装製作担当。家庭科の成績は常にトップクラス。将来はパタンナー目指してるんです!」
「裁縫とか得意なのっ?」と急に覚醒した刹那が食い付く。
「今のところ自己流ですけど。少しずつちゃんとした方法も勉強しながら……」
「制服とか改造できる?」
「刹那ちゃん、まさか……」
「全く同じ生地は見つからないかもですけど、内容次第なら」
「スリーブガン計画再開よっ!」と立ち上がりガッツポーズを取る刹那。
ローリーは彼方を(巻き込まれてしまったか……かわいそうに)といった目で見る。
「そろそろお昼休み終わっちゃうしね。続きはまた放課後!」と言いながら永遠に「起きろー!」と軽く往復ビンタをする刹那だった。
——放課後、次の舞台は家庭科実習室。
この部屋は手芸部と料理研究会の共同部室となっている。
鼻息の荒い部外者刹那がピシャーンと入室し、後ろから堂々と正部員彼方、控えめに地味女那由多と続く。永遠とローリーは女子率の高さがそのままハードルの高さとなり付き添い辞退。
室内は手芸部と料理研究会の部員が合わせて10人前後。漫画のように強面の不良男子が実は手芸好きで部長だったりとかそういった事は現実には皆無で、みんなおとなしめな見た目の女生徒ばかり。だがいくらおとなしいとは言えどもそこはやはり女子社会。なので永遠とローリーの選択は正しかった。
しかし一応女子ではあるが刹那がその女子社会に入っていくのは間違った選択だったかもしれない。場の空気がそう伝えているのを那由多だけは感じ取っていた。
他の女子と比べて、顔の造形もスタイルも見栄えが良すぎる刹那はクラスだけでなく学園全体で見ても浮いていた。また、刹那の内弁慶な性格と特殊な趣味のおかげで話題の合う友達もいなかったので、女子同士がテレビやネット配信の話などで盛り上がっている時にも、彼女は輪に入れず一人で過ごしていた。入学当初はその態度もお高く止まって気に入らないと一部の女子グループから嫌われる元となっていた。
同じ学年内では、半年もしないうちに刹那がガッカリ系の残念な痛い娘ちゃんだと知れ渡ることとなり、刹那のイメージは女子達の中でマイナスからゼロくらいまでは戻ったのだが、カースト上位グループが数ヶ月だけ広めていた『いけすかない』と言う印象をそのまま鵜呑みにしているグループは少数だが未だに残っている。
どちらかというと社交性低めのこのコミュニティはまさにそうだった。
二年生の女生徒は不自然な程に刹那の方を見ようともしない。それどころかひそひそと感じ悪く話す生徒もいた。
「部長は?」と彼方が同級生の女子生徒に話しかける。まだ来ていないと聞いて、二年生の先輩に声を掛けるが反応がそっけない。
首を傾げる彼方だったが、気にせずに刹那と打合せを始めた。
「んで刹那さん、制服お直しって? スカート短くとかですか?」
「袖を広くしたいんだよね」と刹那。
「姫袖みたいに?」と彼方。初めて聞く単語に首を傾げる刹那。
彼方がノートを出して、ササっとだが丁寧に袖口にレース生地まであしらわれた姫袖のイラストを描いて見せる。
刹那はイラストをじっくりと眺めて首を振り、上着を脱いで鞄からスリーブガンのギミックとつけっぱなしのクラウン製レミントンダブルデリンジャーを出しブラウスの上から自分の腕に装着してみせた。
「これがこう、」と言って腕を振り上げるとカシャンと音を立てて手首の辺りに固定されていたデリンジャーが手の平辺りまで移動した。
「これがブレザー着ると袖口で引っ掛かるのよね」と彼方に説明した。
姉から普段の刹那の様子を聞いてはいたが、いざ実際に関わってみるとやや閉口気味な表情になった彼方がメジャーを出してきて袖周りのサイズを測る。
「刹那さん、これ制服だと無理ですよ……。もっと小さくならないんですか?」と一言。
「えー、やっぱだめー?」
「今のままだと見た目結構変わっちゃいますよ。先生に何言われるか」
「ちょっとぐらいわかんないわよ、こないだの先生に聞いてくる!」と言って走って職員室に向かって出て行った刹那。
「彼方ちゃん、ちょっと」とその隙に二年生の先輩達に呼ばれた彼方は教室の隅で小さな声で話をしている。その様子を椅子に腰掛けたままうんざり顔で眺める那由多。
那由多は小声でだが明らかに揉めている様子の彼方の傍に行き、こちらも小声で「廊下で待ってるから」と告げ、刹那の荷物と一緒に家庭科室をあとにした。
暫くして戻ってきた刹那が廊下で待つ那由多に気付いて開口一番。
「ダメだったよ〜。金髪染めろとかリボンつけろとか説教されて……」と笑いながら話したが、那由多に荷物を渡されてトーンダウンした。
「永遠くんたちのとこ行こ。彼方にはメールしとく」




