第35話 那由多、だいぶハード
蜂の巣駆除に那由多の妹彼方の登場にと内容の濃い一日を過ごした永遠。
ベッドの上でバイク雑誌をだらだらと読み、後は寝るだけ。バイク少年の永遠にとってそんな一日の終わりは至福の時間だ。
記事と記事の間に挟まれた広告ページをペラペラと捲っていると、どの広告にも出てくるQRコードを見て、彼方から渡された名刺の事を思い出した。
(そーいや刹那が何か言ってたな。コスプレがどうとか。……もしかしてエッチぃやつじゃ?)
はやる気持ちを抑えてスマホで彼方から貰った名刺のQRコードを読み込む永遠。しかしTwitter(現X)のコードと並んで印刷された隣のQRコードを読み込んでしまいLINE友達追加画面が現れる。焦って閉じようとしたが間違えて追加ボタンをタップする。
「あっ」と慌てている内に、恐ろしい速度で友達承認と同時にメッセージが届いた。
『永遠先輩じゃ、じゃなかった!永遠さん登録ありがとう!Twitterもフォローお願いします!』
『ごめん、かなたちゃん。まだツイッターはチェックしてないんだけど…』と生真面目に返信する永遠。
『カナでいいですよ。友達もみんなそう呼んでるし』
そしてそんなやりとりが朝まで続いてしまうとはこの時の永遠は知る由もなく。
彼方からのメッセージに永遠が返信メッセージを打ち込んでいる内にさらに次のメッセージが爆速で届く。途中まで打っていたメッセージを消してもう一度打ち直す。しかし彼方が放つ永遠の二倍から三倍の速度と量のメッセージに返信が追いつかないでいると今度は彼方からの着信。
永遠が通話ボタンをタップすると、マシンガンのように話し始めた彼方から色々なことを聞いた。というか一方的に聞かされた。そしてその話のほとんどは那由多に関することだった。
二人は中学から姉妹コスプレイヤーとして活動していたこと、主に那由多がメイク担当で彼方が衣装制作。しかし那由多が高校に入る頃、ハマっていたアニメの影響で科学や物理の実験に興味を持ちはじめ、次第にコスプレやアニメ好きなことを恥ずかしく感じてコスプレをしなくなっていったこと。
那由多が地味メイクをしている理由についても、レイヤー時代に二人に言い寄ってくる男が多くて、そういう男を避けるために高校から始めたとのことだ。余談だが彼方はそんな事は気にせず、現在もモテ期を謳歌しているとか。
「お姉ちゃん最近は刹那さんや永遠さんやローリーさん? の話ばっかで。なんかどんどんコスプレから離れてく気がして……」
「カナちゃん、那由多とまた一緒にコスプレしたいんだな」
「……うん、と言うよりオタク趣味を恥ずかしがってるのが一番寂しいかも」
「明日、俺から話してみるよ」
「……嬉しいけど、明日土曜日ですよ? もう金曜ですよ」
「え? あれ? いつのまに日が変わってる? もうこんな時間?」
「あは、楽しかったデスー! じゃ永遠さんおやすみー」と言うと通話が終了し、瞬く間に彼方から『おやすみなさいませ』と見たことのないアニメキャラの音声付きスタンプが送られてきた。
——昼休み、屋上。
習慣とは怖いもので。相変わらず不機嫌な那由多だが、結局いつものメンツと一緒にお弁当を食べている。
刹那はローリーのお弁当のおかずを虎視眈々と狙い隙を見ては箸を伸ばし、ローリーは刹那の攻撃をかわしながら二人は箸でチャンバラをしている。
永遠は欠伸をしながらまるで赤ちゃんの様に食べるか寝るかを行ったり来たり。
「そういえば、昨日彼方ちゃんに会ったよ」と刹那。
「えぇーっ!」弁当を食べてた那由多がまたしてもローリーの顔を米粒だらけにする。
「ぁあーっ、そそういえば言って無かったっけ? 妹もうちの高校に通ってたんだよね」
「そうそう、彼方ちゃんのツイッターの〝なゆかな〟って……」と刹那が言ったところで米粒を取り終わったばかりのローリーの顔に新しい米粒が追加される。
「んばぁー! せせセツナ何言ってんの? イミワカンナインダケド?」
「だからー。永遠が彼方ちゃんの名刺貰ってそのQRで……」
「トトトトワキュン? 彼方のツイッター見たのっ?」
「俺は見てないけど、間違ってLINEのQR読んじゃって。彼方ちゃんと明け方まで電話してて、ふわぁ」うつらうつらと船を漕ぎ一際大きな欠伸をする永遠。
「ちょ、彼方のやつ永遠くんと話したの? あの子何か変なこと言わなかった?」
「べつに普通の、ふぁ」と半分寝言の様に答える。
その間、刹那は横でずっとスマホ画面をスワイプしていたが、やっとお目当てに辿り着いたのか一度行きすぎて慌てて少し戻してからスマホを那由多の方に向けた。画面にはまるで石器時代の様な布の服を着た金髪ロングヘアの那由多と金髪を一纏めに縛って石槍を構えている彼方のコスプレ姿。
「ほら、コレ那由多でしょ?」
「ヴァッアアーッ」と叫び刹那に飛びつきそのまま押し倒してスマホを奪おうとする那由多。押し倒されたままの姿勢でバンザイのポーズでスマホを死守する刹那。
キャットファイト状態から執念でマウンティングポジションを取った那由多が上半身をゆっくり起こしたかと思うと、今度は刹那のたわわなバストにその顔をバフッと埋めた。
「ちょ、ちょっと那由多……」
不意を突かれて赤面している刹那の懐に手を突っ込んでハイキャパ5.1Rを奪い、ツーハンドホールドと言えば聞こえはいいが見るからに素人な構えで銃口を刹那に向ける。
「コレでも喰らいなさい! 牛乳女!」と引き金に指をかける。
慌てて奪い返そうとした刹那の手から放られたスマホが滑って行き永遠の下に。それを拾って半開きの眼差しで画面を見る永遠。
「那由多と彼方ちゃ……」と言う永遠の言葉に、もつれあったまま視線を向ける二人。
「もうダメ、さよなら」と那由多は自分のこめかみに銃口をあてて引き金を引いた。
グッと指に力を込めるがセイフティのかかったままのトリガーは動かない。
「実銃じゃないんだからさよならにはなんないわよ。
あと冗談でも人に向けない! 何そんなムキになってんのよ」と立ち上がった刹那がマギーを奪い返してホルスターに収める。
「刹那に私の黒歴史がバレただけでも耐えられないのに永遠くんにまでバレて、もうお終いよっ!」
「なーんだ? そんなこと?」と刹那。
「別に黒歴史でもなんでもねーだろ」と永遠。
「え?」と那由多。
「ガンマニアにバイクバカにプラモ好きだぜ、ふわぁ」と言う永遠の台詞に刹那、永遠、ローリーとみんなの顔を順に見渡す那由多。
「それよりも彼方ちゃん寂しがってたぜ。ふわぁっ。昔みたいに一緒にコス……」と話しながら途中で完全に寝てしまった。
「ちょっと、せめていい話にしてから終わらせてよ」とハモる刹那と那由多だった。




