第34話 彼方七変化
「はじめまして、刹那先輩。お姉ちゃんから関わるなって言われてたけど、忘れ物取りに来たらうちの教室に先輩がいたんだから、しょうがないよね?」
「って、ホントに那由多の妹なの?」
撃ち尽くしたスモルトのシリンダーをスイングアウトし、ポケットから出した装填済みのカートリッジと入れ替えながらカナタと名乗る少女に話し掛ける刹那。
「はいっ」と言って制服のリボンをクイクイっと触ってみせる。
不真面目な刹那はつけていないが、刹那たち現二年生は赤、現一年生は緑、今年卒業する三年生と来年入学してくる一年生は黄色とその色は学年毎に決められている。
彼女が着けているリボンは緑色。
「いやいや、那由多の変装って可能性も……」とやはりもう一度疑う刹那に対して、カナタと名乗った少女は自分の右目の下を指さす。
「黒子、お姉ちゃんには無いでしょ?」
「う〜ん。あるのが無いより無いのが有る方が、あれ? どっちが本物?」と腕を組んで首を傾げる刹那に、カナタは自分のスマホを刹那に向け、地味女メイクの那由多とカナタが同じ制服を着て並んで写っている画像を見せた。
「刹那ー、こっち早くなんとかしろよー」と外から永遠が叫ぶ声が聞こえた。一年生の教室は一階だが、教室フロアの方が少しだけ高くなっている為、永遠からはカナタが見えない様だ。
あ、忘れてたという文字が顔に書いてある刹那の横からカナタがひょこっと顔を覗かせる。
「あれ、那由多じゃん? ほんとに邪魔しに来たのか?」と永遠も刹那と同じ反応。カナタは永遠を吟味するようにその顔から足元までをじっくりと眺めた後「妹の彼方です、永遠先輩!」とリボンを摘んで見せながら自己紹介した。
と、その彼方の横を窓枠に手を掛けた刹那が軽やかに跳び越え外に出る。スタッと華麗に着地し体操選手のように両手をYの字に拡げたポーズをとってクールに決めている。……が、彼方側から見えないその表情はドヤ顔を通り越したニヤケ顔、完全に悦に入っている。その間抜けな顔を見て、永遠は網を地面に押し付けたまま溜め息をつく。
すると「ズダンっ」と音を立てて、刹那の隣に彼方が同じ様に飛び降りてきた。思わず「えっ」と声を出す刹那。
永遠の顔をじっと見つめて「先輩見たでしょー?」とスカートを上から押さえる仕草をする彼方。
「いやいや、見てねーって!」
ビシッ! 「痛てっ」「鼻の下伸ばさない!」「伸ばしてねーって」
……と、刹那といつも通り夫婦漫才をしている永遠の手が緩み、地面と網の隙間から一匹のスズメバチが出てきた。
「先輩っ、ハチ!」
「わっ、やべっ」という永遠の手前で小ぶりなハチが不気味な羽音を出しながら空中で静止した。
しかし、永遠が緊張して唾を飲み込む間もなく、一瞬だけハチの胴体が赤く光るとバシュっという射撃音と同時に地面に真っ二つになりながら墜落した。刹那が静かにスモルトSSをホルスターに収める。
「先輩スゴっ!」と彼方が驚くが「こんな至近距離なら外さないわよ。あと刹那でいいから」というと「俺も永遠でいいよ。那由多と同じ顔で先輩って言われると違和感あるし」と永遠も続いた。
「じゃあ、刹那さんに永遠さんで」と永遠に握手するように右手を出す。咄嗟に応えようとする永遠と彼方の間に割って入り彼方と握手する刹那。
「手、離しちゃダメでしょ」「あ、そっか」
「こっからどうするんです? 刹那さん?」
「なんか巣落として捕まえたら、あとは先生呼んできたら何とかしてくれるって言ってたから……」
「じゃあ、ボク帰るついでに先生に声掛けてきますよ。うちの担任でいいんですよね? あ、永遠さん握手出来なかったから、これボクの名刺。フォローしてね」と言い残し永遠のシャツの胸ポケットにQRコードの並んだ名刺を入れて、彼方は職員室の方角へと消えて行った。
「那由多って妹いたんだ」と言いながら動けない永遠のポケットから名刺を出して眺める刹那。先生が来るまでの間、特にすることも出来ることもなく名刺に印刷されたQRコードをスマホで読み込む。
ブラウザが立ち上がり、すぐにTwitter(現X)アプリに切り替わり、ピンク色のウィッグをつけてアニメキャラのコスプレをしている彼方のヘッダー画面とアイコンが目に飛び込んでくる。
「コス歴3年! 姉妹レイヤー〝なゆかな〟のカナの方です! コスプレはキャラ愛重視、衣装は自作派、合わせやお仕事の依頼はDMにて……」と読み上げる刹那だが脳内で処理が追いついていない様子。
刹那の頭から湯気が出始めた頃、学年主任の数学教師が生物の教師を連れてやってきた。
「さすがだなー、お前ら! 本当に駆除出来るとは思わなかったよ」と言って網の持ち手を変わってくれて、あとは任せろとジュースを二人分貰った永遠と刹那だった。




