第33話 那由多<恋(ナユタコイミマン)
——昼休み、いつもの屋上。
刹那は頬っぺたをリスの様に膨らませ、米粒を飛ばしながら先日のバーガーショップでの武勇伝をローリーに聞かせている。
永遠は刹那に話を振られる度に相槌を打ってはいるが、チンピラに殴られた際に口の中が切れている所為で上手く弁当を食べられず、話は殆ど頭に入っていない。
「ねー! 那由多も見たでしょ? スモルトセツナスペシャルでの華麗なショット!」
しかしそっぽを向いて刹那を無視する那由多。黙ってお弁当をつつく。
「ちょっと那由多聞いてんのー?」
「うるさいっ! バカ刹那の所為で永遠くん怪我したんじゃないの! 何無神経に話してんのよ!」
「いや、俺は大丈夫だよ。殴られたっても脳シントウだけですんだし、バイク用のプロテクター着てたから身体も平気だし……」と永遠。
「もーっ! そういうとこだよ永遠くんっ! 刹那がつけ上がるでしょ!」
「なに那由多ー? そんなにこいつの事が心配ー? えー? 好きなのー?」と刹那が火に灯油をかける。
「そっ、そんなんじゃないわよっ!」と顔を真っ赤にして立ち上がり、食べかけの弁当箱を乱暴にしまって那由多は教室に帰っていってしまった。
「……今のは刹那ちゃんが悪いよ」と刹那と那由多が飛ばした米粒を顔から一粒づつ取りながらローリーが叱る。
刹那がローリーに何か言い返そうと口を開いた所で、屋上の扉が開き珍しい客が刹那と永遠の元にやってきた。
「永遠と刹那に折り入って相談があるんだが……」
「何で屋上に先生が⁉︎」永遠と刹那がハモった。
「いや、ここ校内だからな」
永遠と刹那に依頼を持って来たのは一年生の学年主任をしている教師。担当教科は数学。二年生の永遠たちも数学の授業ではお世話になっている。
その教師から持ち込まれた依頼は、一年の教室の窓の外にスズメバチが巣を作り始めていてその駆除をして欲しい、という内容だった。
ハチ駆除用のスプレーが微妙に届かない高さで業者を呼ぶかどうか悩んでいた所、そのクラスの女生徒の一人が刹那と永遠なら何とか出来るかもと進言してきたと言う。教師も半信半疑だが、その生徒の意見を無下にするのも申し訳なく思い、ダメ元の軽い気持ちで二人のもとにやって来た。それにいざとなったら業者を呼ぶつもりらしい。
「それならスモルトセツナスペシャルでぇ……もがっ」と話す刹那の口を慌てて両手で塞ぐ永遠。
その様子を見て「まぁ小耳に挟んではいるが、ある程度は目をつむってやるから。せめて教師の見てない所でな……」と、スモルトと言う単語の意味を知って知らずか。もしかすると刹那のガンキチっぷりも何となくは一部教師達の耳に聞き及んでいるのかも知れない。
二人は今日の放課後に駆除ミッションを実行すると教師に告げた。
報酬については流石にお金を貰う訳にも刹那のブロマイドを販売する訳にもいかず、刹那のおもちゃと永遠のおもちゃの事がもしこれから学園内で問題に上がる事があったなら、その時は全力で庇ってもらうという約束で手を打った。
「あと、くれぐれも怪我だけはしないようにな」と言い残して教師は去っていった。
――そして放課後。
ローリーは役に立てそうにないと言って不参加、不機嫌那由多にも一応声をかけたが勿論不参加。
教師に頼み該当クラスの一年生には早々に教室を開けて貰って、目撃者がいない状況で刹那は窓から身を乗り出し堂々とスモルトSSを構える。
外では予想落下地点で永遠が貯水池の掃除用ネットを構えて待機。
ハチの巣は既に入り口が閉じられていて、徳利を逆さまにしたような形。
ハンマーを起こした刹那の顔から表情が消え、レーザーサイトのスイッチに触れて引き金を絞っていく。
しかし刹那がトリガーを絞りきる正にその瞬間、教室のドアが騒々しく開き派手目な女生徒が一人慌てた様子で入ってきた。
「ヤバーい、最悪! LINE来ないと思ったらスマホ忘れてるしっ!」
「ええっ? 那由多?」女子生徒の方に顔を向けた刹那が、驚いてバランスを崩し半身乗りだしていた窓から落ちそうになる。
「わわ、あぶねっ!」外で見守っていた永遠が叫ぶ。
何とか落ちずに済んだが、同時に放たれたBlade弾は狙いを大きく外れて巣の真ん中に風穴を開けた。
「やばいやばい、出てくるぞ刹那っ!」不気味な羽音が聞こえ焦る永遠。
刹那はスモルトSSをダブルアクションで5連射し巣の根元に集中砲火を浴びせる。
ハチの巣は落下して1~2匹小さなハチが出てきたが、永遠が網を被せてひとまずの安全は確保できた。
「なにやってんだよ刹那っ!」
「いや、那由多が邪魔して……」
「ボクはカナタだよ。ナユタは姉。ボクは妹の方」と言って、忘れ物を取りに来た女生徒が窓辺にいる刹那のそばに来てウインクした。




