第27話 ストラトスキャット3
——斯くして迷い猫の捜索が開始された。
「にゃーお」
永遠が漕ぐ自転車の荷台に後ろ向きに座り猫の鳴き声を真似する刹那。
「にゃーーお」
その頭には那由多が持ってきた本格的な猫耳カチューシャが装着され、首元には黒縁模様の蝶ネクタイ。
「にゃーお」
スカートにも縞模様の尻尾がクリップで止められている。当然ながらその顔は不機嫌。しかし「絶対に勝てる」と自身満々に豪語して臨んだ那由多との真剣勝負であっさりと三タテを喰らったので後には引けない。
「にゃーーーお!」
後ろを自転車でゆっくりと追走しながら辺りを注視している那由多が笑いを堪えながらふざけて刹那の真似をする。
「ギャフベロハギャベバブジョハバ」
刹那が自転車の荷台からジャンプし、那由多の自転車に飛び移り前かごにしがみついた。
「ぅわゎっ!」「ちょっ! とっ」
急に荷台が軽くなった永遠は真正面から電柱に衝突。刹那に飛びつかれた那由多も当然転倒。
「宮瀬さん、パっ、下着ーっ!」那由多と並走していた有田がブレーキをかけて後ろを振り返り刹那に引っ搔かれている那由多に女子的アドバイスを飛ばす。
「ちょっと、悪かったって。冗談、冗談だから」と半笑いで謝る那由多だが、刹那は膨れっ面のまま攻撃を続ける。と、そこでやっと有田の声が二人の耳に届いた。
スカートが捲れ上がって全開になっている自分の下半身を見る那由多。途端に顔が真っ赤になっていく。
「イテテ。大丈夫か? 那由多?」と自転車を起こしてこちらを向こうとする永遠の声に被せるように「やだちょっと待って!」と尻餅をついたまま叫ぶ那由多。
刹那は那由多の自分のソレとは全く違い大人の女性が履いていそうな所謂ランジェリーと呼ばれる物を一瞥した後、素早い動きで露わになったままの下着を両手で押さえるように隠した。
「永遠っ! 見ちゃだめーっ!」
刹那の機嫌も那由多の自転車のカゴも直し全員が元通りの隊列に戻りさらに捜索を続けること一時間。
「あっあっあっ」と有田が指差した方を一斉に見ると数十メートル先をコンビニの廃棄弁当でも漁ったのか、鮭の切り身を咥えた三毛猫が歩いていた。
ストラトスを視界の端に捕らえるや否や、荷台から半身を翻し地面に着地し片膝をついた姿勢になりハイキャパ5.1Rを構える刹那の頭頂に「対応が違うだろっ、仕舞えって!」とチョップを入れる永遠。
「ストラトスー」と有田が呼んだが、迷い猫は一瞬こちらを向いただけでそのまま逃げるように去って行ってしまった。
ストラトスがキチンとこちらを見て有田を認識した上で逃げてしまった。その事実に有田は物悲しい顔で涙を堪えている。永遠はこういう時女子に掛ける言葉を知らない。那由多を頼り視線を投げるかけるが那由多も小さく首を振った。
「麻酔弾か……」ハイキャパ5.1Rをホルスターに収めながら呟く刹那の頭にもう一度チョップを入れる永遠だった。
「一旦状況整理しようぜ」
永遠の提案でコンビニのイートインコーナーに陣取った面々。
先程ストラトスを見かけた場所から今いる一番近いコンビニ、以前散歩中に見失った場所と見つけた場所、今回いなくなったと気付いた場所。
それぞれを地図アプリの上にマークしていき、その範囲内で猫が隠れそうな空き地や人が住んでいない空き家、廃屋などを近隣の土地勘がある有田が絞っていく。
いざ見つけた時におびき寄せる為にコンビニで『ちゅ〜る』も買っておいた。
そうして万全の準備をして近い場所から順番に当っていくと、三番目に向かった空き家の庭先で迷い猫は呆気なく見つかった。
今度ばかりはストラトスは逃げなかった。彼の後ろにいる身重の猫を護るように、有田以外の人間を威嚇するように立っていた。
その様子を見た有田が「ストラトスうっ……」と両手で口を覆って涙ぐむ。
お互いに顔を見合わせる永遠と那由多。
不要になった『ちゅ〜る』を開け、ずぞぞっと啜る刹那。
「ストラトス、赤ちゃん産まれたら教えてね」
「連れて帰らないのか、有田?」
「ちょっと味薄いわね……」
「うん。ストラトスはきっとちゃんと戻ってくるから大丈夫」
「いや、ストラトスって三毛……」と口を挟んできた那由多に永遠が被せるように大きめな声で話す。
「有田っ、今回依頼料はいらねーからっ! また困ったことがあったら学校でもいつもの広っぱでもいーからいつでも声掛けてくれっ」
「えー、でも悪いよー」
「いーからいーからっ! じゃ、俺ら帰るぜ」と刹那と那由多の腕を引っ張り強引に解散した。
那由多の家で頭に付けていた猫耳を返し、お互いの家に帰っていく永遠と刹那。
家に着いて自転車をしまう永遠に刹那が依頼料のことは「永遠が言い出さなくても私も言うつもりだったんだからね」と告げた。
永遠は「私たち今回役に立ててないからねー」と言いながら照れ臭そうに家に入っていく刹那の後ろ姿を優しい表情で見送った。形の良いお尻には那由多に返し忘れている尻尾がふわふわと揺れていた。




