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殺し屋と死神

 川下屋ににゃんぱちと行くと、見慣れない組み合わせの二人がカウンターで飲んでいた。

 死神の卓造さんと、殺し屋の舘武だった。

 死神と殺し屋。

 そう考えれば別におかしな組み合わせでもない。とはいえ、この二人が一緒に飲んでいるのは初めて見たから、意外に思ったのも事実だ。

「珍しい組み合わせね」

 私は言いながら、そばの席に座った。

「ああ。ちょっと仕事場で鉢合わせしてね」

「仕事場にゃ?」

「つまり殺しの現場ってことさ」

「うっかり早く着きすぎまして……魂の回収を始めた時にはまだ舘さんがいらっしゃったんです」

 卓造さんはそう言って身を縮めた。

「俺もちょっとノンビリしてたのさ。いい眺めだったんでね、シゴトのあと少し見てた」

「いい眺め、ねえ?」

 この町でいい眺めというと、どこぞの高級ホテルか、あるいは山の手の屋敷か。

「おっと、場所までは言えんぜ」

 舘が言い、卓造さんもうなずく。そりゃそうだ。

 殺しの現場を言えるわけがない。

「ま、とにかく、俺は生き残りか追っ手かと思って、鉛弾を何発かぶっこんだ。ところがこちらのおじさんはびくともしない。流石に背筋が凍ったね」

「死神は死ねませんから」

 卓造さんは照れるように言った。こんな頼りないようであっても、この人は正真正銘の完全な不死者なんだと思うと、なんだか変な感じがする。

「話を聞くと死神だっていうからな、後学のためにおしゃべりでもしようかと思ったのさ」

「で、この店に来たってわけ?」

「そういうこと」

「にゃんかいい話は聞けたかにゃ?」

 舘は、全然、という風にジェスチャーを取った。

「機密事項が多いらしくてな、なかなか俺にとっておいしい話は聞けないさ」

「申し訳ありません」

「謝ることはないさ、旦那。近日中に誰がどこで死ぬかなんて、殺し屋に教えるわけにゃいかないよな」

「殺し屋さんでなくてもお教えできませんよ。それに、お教えしても恐らく結果は変わりません」

「そういうもんなの?」

 私は聞いた。

「そういうもの、らしいです。誰かが運命を変えようと介入しても、定められた死に方の運命からは逃れられない、と」

「ふーむ」

 舘は考え込んだ。そして言う。

「となると、俺の仕事の価値ってもんが怪しまれるな。レゾンデートルの消失ってやつだ」

「そうにゃるかにゃあ」

 にゃんぱちは、運ばれてきた焼き鳥を口にしながら言う。

「そうなるさ。こっちの死神さんの言うようにどのみち誰がどう死ぬか決まってるとしたら、俺は家で寝てようが働こうが意味がないってことだ。ターゲットはどのみち死ぬんだからな」

「それはそうでもないんです」

 卓造さんは手を振り、そして一杯ビールをごくりとやってから続けた。

「運命として発現してしまったものを「運命を変えようとして」変えることは出来ませんが、未確定の未来を「運命」と認識せずにただ自己の意志で動くことによって「運命」は揺れ動くのです」

「なんだかえらくややこしいわね」

「つまり、我々のあの世で把握している人々の運命はそれほど長期的なものではないわけです。たとえばここ数百年中に核戦争で人類が滅亡するかどうかなどというのは、我々にも把握できません。京子さんや殺し屋さんの享年さえも分かりません。しかしあなた方の行動の結果として浮かび上がってくる、ごく短期スパンでの「生死の運命」は把握でき、それは把握できる運命として浮き上がった時点で「確定」の事項となるのです。その確定した魂を取りに伺うのが我々です」

「にゃんだか禅問答みたいになってきたぞ」

「つまりは、死神のおじさんは俺を慰めたいわけさ、キャット。たとえば俺が殺しを請けるかどうか、働くかどうかって段階じゃ運命ってやつはまだ見えてないんだろう。ところがある段階で「運命」というやつが確定し、そうなると誰にも止められないってわけだ」

「ええ。ですから、意志を持った行為というのが無意味というわけではないんですよ」

「そりゃ結構」

 舘はそう言い、卓造さんのグラスにビールを注いだ。


 少し経って卓造さんの友人である甚六さんがやって来たので、卓造さんはそちらに行き、私たちの方から席を外した。

「……あの話、どう思う?」

 私は舘に聞いた。

「死神さんの話か?」

「どこまでが嘘か本当かってさ」

「気になるにゃ?」

「そりゃね。もしあんなのは慰めで、私たちの運命なんて本当は決まってるんだとしたらよ、」

「俺たちの自由意志なんてもんは実際のところ意味がないってことになるな。運命の操り人形ってやつだ」

 舘が笑う。

「でしょ?」

「しかしな、信じるしかないぜ、京子ちゃん」

「そうかなあ」

「行動の結果論で考えてみよう。もし運命の操り人形でなかった場合、人生を投げちまったら終わりになる。操り人形だった場合は、まあご愁傷さまだが、それでも死ぬ寸前までは、人生を生きた「つもり」は味わえるさ。だったらどうするかはハッキリしてるだろ?」

 私はうなずいた。

 結局は、本当のところがどうであれ、自分で生きていくしかない。そこまで含めて操り人形だとしても、それはそういうもんなのだろう。

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