フランケンシュタインの転職
夕方頃、にゃんぱちと町を歩いているとギョッとするような相手に会った。
三メートル近い巨体を持った、顔に縫い目を持つ男である。つまりはフランケンシュタインだ。
別にフランケンシュタインというだけなら驚かないが、このフランケンシュタインとは面識があった。例の私を殺そうとした吸血鬼、ジェームズの屋敷の執事だったからである。
フランケンシュタインは、今日はあの日と違って燕飛服を着ておらず、シャツとズボンのラフな格好をしている。
「こんにちは」
「こ、こんちはにゃ」
私とにゃんぱちはそう言って、通りすぎようとした。しかし、呼び止められる。
「お待ちください」
例によって淡々としたしゃべり方だった。
「な、なに?」
「私、失職しまして」
「失職?」
「あなた方を仕留め損なったのは私のせいだということで、クビになりました」
「無茶がある話だにゃあ」
にゃんぱちが言い、私も同意する。
「これだからあのジェームズって奴は……でも、それがなにか?」
「屋敷を追い出されたのですが、私は先代の頃からずっと、屋敷にお仕えするばかりが能でしたので、どうすればいいのかさっぱり分からないのです」
「んなこと言われても、私にも求職の心当たりなんてないわよ」
「川下屋に連れてったらどうにゃ?」
にゃんぱちが言う。
確かにあそこならば、誰かしらが仕事の伝手を持っているかもしれない。
私たちは川下屋に向かうことにした。
川下屋に着いた。
まだ営業開始直後で客は多くはなかったが、幸いにしてというか、青鬼の権助さんと死神の卓造さんが来て、飲んでいた。
「おう、どうした京子ちゃん。やけに早いな」
ビールを飲みながら権助さんが言う。
「ちょっとね……」
私は後ろのフランケンシュタインを紹介しながら、事情を話した。
「ふーん、なるほどねえ。そいつは困りましたねえ」
と、話を聞き終わって卓造さんが言った。
「ちなみに、お名前はなんと?」
「ユーゴーと申します」
「資格はなんか持ってるのかい?」
こう聞いたのは権助さんだ。
「ぼっちゃまのお迎えのために普通免許を持っております」
「ふーむ、普通免許か。重機ならもっとよかったんだが……」
「重機免許はつぶしが効きますからなあ」
卓造さんが権助さんに同意する。
「しかしまあ、こんだけガタイがよければ親方に紹介するのに問題はねえ。どうだ、ユーゴーさん。俺の現場で一緒に働いてみちゃあ」
「よく分かりませんが、よろしくお願いいたします」
ユーゴーさんは頭を下げた。どうやら、権助さんの働いている工事現場を当たってみるということで、話がついたようである。
さて、数日後。
川下屋で飲んでいると、ガラリと入り口の戸が開いた。
権助さんと、例のフランケンシュタインのユーゴーさんが入ってくる。
「いやあ、大当たりだな」
権助さんはそう言いながら、私の隣の席に座った。ユーゴーさんもそれに続く。
「よく働くよ。力はあるし、真面目だし、元執事だけあって気も利く。親方も大喜びさ」
「私も、とても楽しいです」
ユーゴーさんもそう言ってうなずいた。あいも変わらず表情はあまりないが、しかし、先日会った時に比べると、心なしか生き生きとして見えた。
「働くというのは、なかなか、面白いことですね」
と、ユーゴーさんは言った。
「これまでは面白くにゃかったにゃ?」
にゃんぱちが言う。
「あまり、よくはなかったです。はい」
「……ま、あのジェームズの執事じゃね」
私はそう言いながら、手元のビールをぐびりと飲んだ。
「それじゃ、クビになってよかったってことかにゃー?」
と、にゃんぱちが聞きにくいことを平気で聞く。
「ええ、まあ、そうなります。結果的には」
ユーゴーさんがうなずいた。そして、権助さんに薦められたチューハイを飲み干した後、言った。
「生きるというのは、こういうことだったのかもしれないのですね」
なんだか難しいことを言う人だ。
しかしまあ、人にはいるべきでない場所があって――彼は今まで、そこにいてしまったのかもしれない。そんな気がした。




