えにし
昼である。私は公園のベンチに座っている。隣にはにゃんぱち。逆側の隣にはさつき・トレットメントちゃん。更にその横には鬼の子の三太が座っている。
照りつける太陽がまぶしいが、暑さにやられるほど強烈というわけでもない。
「父がお役に立てなくてすいません」
さつきちゃんが言った。なんでこんな言葉が出てきたのかというと、私が、数日前の事件を――ノーブル・クラブのジェームズの館に行った時の話をしたからである。
「別にいいのよ。私の方こそお父さんに無理させちゃって悪かったわ」
「いえ……」
「で、ジェームズたちはどうにゃったにゃ?」
「竜のおじいさんに叱責されたのがよほどこらえたらしくて、前ほどは過激なことを言わなくなったみたいですね。クラブ内でも殺人に手を出そうとしたことは相当問題視されてると父が言ってましたし――」
「私にもやっと日常が戻ってくるってわけかしら」
「ええ、多分」
「よかったね、京子姉ちゃん」
三太が言った。
「ん、まーね」
「お父さんが言ってたけど、京子姉ちゃんは、近所の妖怪の間じゃスターだって」
三太は、前よりは、だいぶよくしゃべるようになった。かといっておしゃべりってほどでもないけれど。
「スターねえ、なんでまた」
「三角帽子の危ない奴らや、高級ぶった嫌な吸血鬼をやっつけたからだって」
「私だけで倒したわけじゃないわよ。特に吸血鬼の方はね」
「でも、すごいよ」
と、三太はキラキラした目で私を見る。ま、悪い気はしない。しないが、あんまりそういう目で見られ続けるのも照れくさい。
「ねえ三太。さつきちゃんと一緒に、箱ブランコでも乗ってきたら?」
私は促した。
「そりゃいいにゃ。前にこのおばさんと乗った時よりもっと楽しいにゃ」
にゃんぱちが言った。
私はにゃんぱちをぽかりとやりつつ、
「ね、せっかくだからさ」
と続けた。三太はモジモジと顔を赤くする。
すると、さつきちゃんが三太の手を取って、
「行きましょう、三太くん」
と立ち上がった。三太はさつきちゃんに手を引かれ、箱ブランコの方に歩いていく。顔は赤いままだ。
私はそれを見送りながら、
「これで仲、進展するとかって思う?」
「んなアホにゃ」
「そりゃそーよね」
流石にブランコに一緒に乗ったくらいでは、仲がどうにかなることもあるまい。キューピッド役をやってやるにも限度はある。ま、そんなことはどうでもいい。
「若いもんは若いもん同士にさせた方が楽よ」
「おっと、おばさんを認める発言だにゃ」
「うっさい。……それはともかく。あんまりヒーロー扱いされるのもなんかね」
「そうきゃ?」
「私はどっちかっつーと助けてもらった側だしさ。特にジェームズの件では」
「しかしその縁を作ったのは汝であろ」
何度か聞いたことのある声がした。ふと見てみると、二等身の巨顔と黄色い肌を持った坊主が、そこに立っている。例の銀杏坊主だ。
「あら、久しぶり」
「吸血鬼の娘を助け、鬼の子を助け、老いた竜を助け、殺し屋の命を救ったからこそのお主の今回の顛末があったのじゃ。そう思えば、お主自身の力でなくても、お主の業とは言えるかものお」
「あんたが私を褒めるなんて珍しいじゃない」
「てゆうか、にゃんでそんにゃにキョーちゃんの最近の話に詳しいにゃ」
「かっかかか」
銀杏坊主は私たちの言葉を意に介さないように笑った。
「所詮この世の生き物は、縁なしでは生きれぬものよな。縁縁、これも縁」
そう言うと坊主は、チーンと、持っていた鐘を鳴らした。
体が揺れ、いつものように姿を消した。
「エニシね……」
私はつぶやいた。
箱ブランコの方を見ると、さつきちゃんと三太が、楽しそうにブランコを揺らしている。夏の終わり際に懸命に鳴くセミたちの声がする。その声が、この夏に知り合った連中の顔が次々と思い出させる。
そろそろ、私の身の上に色々あった一つの季節が終わろうとしているようだった。
……五百円を、また回収しそこねた。




