夜の町で
夜、にゃんぱちを連れて繁華街を歩いている。
いい男を見つけるためである。ここのところ、三角帽子だのノーブル・クラブだのくさくさするようなことばかり起こってどうにもいい感じじゃないので、ボーイ・ハントでもして気晴らししようと思ったのだ。が、
「いない」
と、一時間ほどさまよった後、私はつぶやいた。
「にゃにが」
「私にふさわしい男よ」
「え、いくらでもいたじゃん」
「それはあんたの主観」
「あんた本人の自己評価よりは、他人であるぼくの主観の方が当てになるにゃ」
……やかましい。
「あーあ、ゴードンさん辺りに頼んで美形の吸血鬼でも紹介してもらおうかしら。もちろん、ジェームズみたいに性格が腐ってないの」
私は垣根に座り込み、ため息をついた。
「お、人間との結婚を諦めるのかにゃ?」
「優しくて美形で金持ちなら人間かどうかなんてどーでもいいわよ」
「あんたの場合、そりゃそうかもしれんにゃあ」
「真澄みたいに悪食する気はないけど、人間に近ければそこまでこだわらないし」
「じゃあ真澄様にインキュバスでも紹介してもらったらどうにゃ?」
「インキュバスって男の淫魔。精力吸うから実害あるでしょ」
「……酷い会話をしとるな」
と、頭上から声がした。見ると、青鬼の権助さんが、息子の三太を連れて立っている。
「あ、権助さん。こんばんは」
「ああこんばんは。なんだ、京子ちゃん、男に飢えてるのか?」
「いい年だしねえ」
と言うと、権助さんは苦笑する。
「そういや、権助さんの奥さんってどうしたにゃ?」
にゃんぱちが聞いた。
「三太が物心つく前に死んだよ。それ以来、父子家庭だ」
「ふーん……再婚のめどはあるにゃ?」
「別にないな」
そこまで聞くと、にゃんぱちは私の方を見、
「……どうにゃい京ちゃん、権助さんの後釜になっちゃ」
「ぶっ」
私は吹き出した。あまりにも唐突すぎる提案である。権助さんは笑って、
「俺と釣り合うってえのは、流石に京子ちゃんに失礼だろう」
と受け流した。
「それに、俺は昔のことを忘れられないタチでね」
権助さんは少し遠くを見るような目をした。
「前の奥さんのこと?」
「そういうことだ。……ところで京子ちゃん、こないだ三太を助けてくれたらしいな」
この前、三太が三角帽子の福音主義者に襲われたのを助けた件のことを言っているようだ。
「行きずりの偶然よ。あんま気にしないで」
私は手を振った。
「とはいえ、礼の一つぐらいはしたい」
三太も、後ろでうなずいている。
「先ほどの会話からも分かるように、この人が欲しがってるもんはいい男にゃ」
と、にゃんぱちが勝手に言う。
「残念ながらそいつは心当たりがない」
権助さんは笑った。
「かといって金もな。そこでこいつを渡すことにした」
と、権助さんは耳かきより小さな一本の棒を取り出した。
「なにこれ」
「伸び縮みする鋼の棍だ。俺が地獄にいた頃使ってたもんで、この大きさから三メートルぐらいまでは自在に大きさを変えて伸びる。それでいて重さは変わらん」
「……くれるっていうなら、もらっとくけど」
私は、棍を受け取った。
「でも、なんでこんなのくれるわけ?」
「ヴァンピールとのケンカに負けたそうじゃないか」
「……どうして知ってんのよ」
「俺だって、君たちが通ってる川下屋には行くからな。君の雇い主のボブやゴードンの旦那もそうだ。あの店の常連の大体が知ってるさ」
「まったく、恥ずかしい話を……」
「あんなバカらしいことをするべきだと思わんが、君はどうせまたするだろう」
「悪かったわね」
「そういう時に多少は役に立つと思ってな。福音主義者にも目をつけられてるだろうしな」
「三角帽子の連中のこと?」
「ああ。例のカルトの連中がこの町にも来てるってことを、最近小耳に挟んだんでな。邪魔したあんたは間違いなく目をつけられてるだろう。気をつけろよ」
そこまで言うと、権助さんは、三太を連れて帰っていった。
私は、渡された棍を見ながら、
「なんか思ったより面倒な立場になってるみたいね、私」
「福音組織にノーブル・クラブ。この町にある面倒な連中両方にケンカ売ったらそうなるにゃあ。この町で一番危険にあいやすい女になってるかもしんにゃいぜ、あんた」
「やれやれ」
私は肩をすくめた。
夜の町を歩く人々の雑踏の音がした。




