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妖界の階級

「つまりお前さんは、西洋妖界の階級差別って奴を目の当たりにしたわけさ」

 タツじいさんはそう言うと、手元のおちょこに手酌で熱燗をついで、飲んだ。私は今、居酒屋の川下屋にいる。一角のボックス席で、にゃんぱちと、和竜のタツじいさんと飲んでいるところだ。竜といっても、タツじいさんは人間の姿を取ってはいるが。

「階級差別ねえ」

「知恵のある生き物同士の間じゃ、どこにでもあるもんだ」

 私は今、こないだのホテルでのヴァンピールとの一件を愚痴っていたところで、タツじいさんはそれへの感想を述べていたところである。

「東洋の妖怪にもあるわけ? そういうのは」

「気にする奴の間ではな」

「たとえばどんな?」

 そう聞くと、タツじいさんではなくにゃんぱちが答えを返した。

「ぼくとタツじいさんがこうして飲んでるのすら許さにゃいだろうにゃ」

 にゃんぱちはちょっと自虐的に笑った。

 そういうもんか。まあ、猫又と竜では妖怪としての「格」に差があるというのは分からないでもない話ではある。

「でもさ、そういうのって現代的じゃないわよね」

「だから今、こうしてにゃんぱちとわしが飲んでるじゃないか」

 つまり、トータルの傾向としては時代が最近に近づくにつれて是正されてきているというわけらしい。

「しかしまあ、にゃかにゃか簡単ににゃくなるもんじゃにゃいけどにゃ」

 と、にゃんぱちは手元の焼き鳥を食べながら言う。

「そういうもん?」

「おたくらのことを考えて見りゃ分かるんじゃにゃい」

 おたくら。つまり、私たち人間のことを言いたいようだ。

「ま、そりゃ、問題はいくらでもあるわね、私たちの場合でも」

「人種間の個人個人を見たら明確な力の差がない人間同士ですらそうにゃんだぜ。まして妖怪とにゃったら」

「余計に格差意識は消えないってわけか」

「そういうことにゃ。だってタツじいさんがその気になれば、ぼくが千人いようが一瞬で焼き殺せるんだからにゃ」

 にゃんぱちにそう言われ、私は竜になった時のタツじいさんの姿を思い出す。確かに、あの数十メートルの巨体ならば、にゃんぱちにしろそこらの妖怪にしろ簡単に殺すことが出来るだろう。

「つまり力がある連中が特権意識を持つのが当然ってわけ?」

「当然、とは言わん。わしだってそのヴァンピールは気に食わん奴だと思うさ。ただ……」

 タツじいさんは続ける。

「差異が明確な分、出自に恵まれた連中が、妙な意識を持ちやすいってことだ。他の妖怪に対しても、人間に対してもだ」

「面倒な話ね」

 私はそう言い、焼き鳥を口にした。

「しっかし、あんたも無茶するにゃあ」

 にゃんぱちが言う。

「なにがよ?」

「普通、人間が夜の高級吸血鬼にケンカ売らにゃいぜ?」

「だって、腹立ったんだもの」

「あんまりケンカっぱやいようだとそのうち大怪我するぞ」

 と、タツじいさんも諭すように言う。

「そりゃそうかもしんないけど……」

「今度そのジェームズって奴にケンカを売る時は、せめてニンニクの一揃い程度は用意しとくんだな」

「そうするわ」

 と、私は肩をすくめた。ま、できれば、もう二度と会いたいようにしたいもんだが。

 ……いや、本音じゃないかな。実のところ、一泡吹かせてやりたいという思いはある。でも、住所を突き止めて襲撃してやりたいってほどじゃない。

 ともあれ、今はあんな男のことを考えるのはよそう。

 ――酔おう。

 そう思い、私はビールのジョッキを持ち上げ、傾けた。

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