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三角帽子の十字架

 日曜日の昼。私は、にゃんぱちとさつきちゃんと歩いている。

 さつき・トレットメントちゃん。そう、例のヴァンパイアハーフの女の子である。最近仲良くしているのだ。私も、恋人は出来ないにしろ、死神とか淫乱サキュバスばっかりじゃなくて、華やか爽やかな女友達の一人ぐらいは欲しいのである。

 商店街の店々を軽くひやかした後に、家まで送ろうと住宅街へ続く道に入った。すると、

「助けて!」

 という声が曲がり角の向こうからした。なにごとかと思い、走る。にゃんぱちやさつきちゃんも同様なようで、私の後から走ってくる。

 角を曲がった。すると、顔までをすっぽり覆った三角帽子をかぶった一人の人物が、一人の鬼の子を壁に追い詰めているところだった。三角帽子の中央には、大きな十字架がデカデカと記されている。

 そして、三角帽子に追い詰められている鬼の子にも見覚えがあった。出稼ぎ青鬼の権助さんの子、三太である。知り合いのピンチとあっては放ってはおけない。

「ちょっと! あんた、なにしてんのよ」

「正義を行っている。お前には関係がない。ひっこんでいろ」

 と三角帽子はいい、手に持ったガラスビンを開けようとする。

「にゃにゃ。あれ、多分聖水だぜ」

 と、聖水のにおいをかいだにゃんぱちが言う。

 聖水。妖怪にかけると、火傷に似た傷害を引き起こす液体である。合成は難しいが科学的に調合方法が知られており、材料さえあれば誰でもが作れる。よっぽどの量をかけない限りは重傷にならないが、しかし危険であることは代わりがない。

 三角帽子は、ビンのふたを開け、そんな液体を、三太にかけようとしていた。

「危ないっ!」

 私は三太と三角帽子の間に駆け込む。間一髪、間に合った。

 聖水はびしゃ、と私の顔にかかる。もちろん、人間である私にはなんともない。

「なにをする?」

 三角帽子は驚いた声を出す。

「友達に変なもんかけられたくないだけよ」

「友達? 霊長たる我々の存在を脅かす妖異だぞ?」

「にゃんだ、いまどき福音主義者がこの町に出るとはにゃあ」

 と、にゃんぱちがうんざり顔で言った。

 福音主義者。人類至上主義を唱えて妖怪悪魔を排斥するっつーアレだ。

 三角帽子は、訴えるを続ける。今度はさつきちゃんの方を見て、

「な、そこの娘。お前もそう思うだろう? 我々人類はこの異形どもから――」

 さつきちゃんは三角帽子にツカツカと近寄ると、その肩をつかんだ。そして、軽々と宙に持ち上げる。

「なにをする?」

 さつきちゃんは無言で三角帽子を投げ捨てた。三角帽子は数メートルの距離を飛び、地面に叩きつけられる。

「……貴様もバケモノか」

 三角帽子はそう言い捨てると、よろよろと這うように去っていった。

「大丈夫?」

 三角帽子が去ったのを見極めた後、さつきちゃんは壁際で震えていた三太のことをひしと抱きしめた。三太は顔を赤くしながらも、

「う、うん」

 と答えた。

「……悪いことしたわね」

 私はなんとなく、言った。なにしろ、この場にいる人間が私一人なのでそうでも言わないと決まりが悪い気がしたのだ。

「別に京子さんが謝ることじゃないです。ああいうのは人間に限らず――」

 そこまで言って、さつきちゃんは口をつぐんだ。なにやら思うところがあるのかもしれない。まあ、それを聞くのも野暮だろう。


 三太に怪我がないのを確認したあと、まず、三太を彼のアパートに送り、その後、さつきちゃんを家まで送った。なにも起きなかった。


 どこにも面倒な連中は出るものだ。

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