夏休みの終わり
「ね、そろそろ終わりよね」
私は、さつきちゃんに言った。
「なにがですか?」
「夏休みよ、夏休み」
本日は八月の三十日。小中高校生の夏休み最終日の目前である。
私は、ハーフヴァンパイアのさつきちゃんとにゃんぱちと一緒に、評判の広島風お好み焼きを食べに来ているところである。ちなみにこちらのおごりだ。家が貧しい高校生が相手となっては、流石の私もワリカンは求めにくかった。
「ああ、そういえばそうですね」
お好み焼きをほおばりながら、さつきちゃんは答える。
「ね、どんな気分?」
「嬉しいのと悲しいのが半分ですね」
と、さつきちゃんは例の屈託のない笑顔で答えた。
「半分?」
「友達に会えるのが半分で、悲しいのが半分です」
「それって嘘じゃないわよね」
「え?」
なんでそんなことを言うのかしら、という表情が返ってきた。
「いや。私だったら嬉しいのが〇割で悲しいのが十割だからさ」
「あんた友達いにゃそうだもんな」
にゃんぱちがからかうように言う。
「休みが好きなだけよっ」
まあ友達が少ないのも図星ではあるが。今も人間の友達は多くない。
「……つまり、さつきちゃん、学校ではうまくやってるんだ」
「はい」
「じゃ、宿題は? そろそろ始めた?」
「いえ、とうに終わってますけど」
「あっそ」
私はため息をついた。
「あんたとは住む世界が違う人間にゃんだよ」
とにゃんぱちが言う。
「かもね。……親がああな分、逆にしっかり育ったのかしら」
「たしかに父は頼りないですけど」
と、さつきちゃんは笑った。彼の父親、ゴードン・トレットメント氏は、純血の吸血鬼でありながら、実に頼りない人物なのである。
「お父さんはどうなの?」
「職場は問題ないみたいですよ」
「んじゃ通信空手は」
「やめました」
「あらま早いこと」
「基礎練習の途中で腰をやられてしまって……もう二度と空手には近づかないそうです」
「その方がよさそうね」
と、あの頼りなげなゴードン・トレットメント氏の顔を思い浮かべながら、私は言った。
お好み焼きを食べ終わった私たちは、商店街へと出た。歩いていると、向こうから青鬼の親子が歩いている。知っている顔だった。
「あ、権助さん、三太ー!」
私は手を振った。
「京子姉ちゃん」
と、三太は手を振り、権助さんも言葉はないが手を振っていた。
「お知り合いですか?」
と、さつきちゃんが聞いてくる。
「まーね」
「青鬼の権助に三太だ。よろしく頼む」
と、寄ってきた権助さんがさつきちゃんに頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願いします。……よろしくね、三太くん」
「…………」
三太は無言で、さつきちゃんのニコニコした顔を見る。
「どうした、三太?」
「な、なんでもない。よろしくっ」
と、三太は頭をめいっぱい下げた。
「権助さんたちは、なんか用にゃ?」
「息子の自由研究だよ。適当なキットでも買って間に合わせなきゃいかん」
と権助さんは言う。どうやら三太は、夏休みの宿題に関しては私の世界に近い住人であるようだ。
私は、三太を見た。もじもじとして、下を向いている。本来ならば真っ青なその顔に、ちょっと赤みが差している。が、そんなことを知ってか知らずか、権助さんは、
「んじゃ、三太、行くぞ」
と、三太の手を引いた。
「ん」
三太も逆らわず、権助とともに歩いていく。二人を見送った後、さつきちゃんが言った。
「あの三太くんっていう子、人見知りするんでしょうか?」
「そういうとこもあるけど……」
「あるけどにゃー。あれはにゃー」
にゃんぱちも私と同じことに気づいたようで、にやにやとしている。
「どういうことです?」
「鏡を見ながら自分で考えなさい。それが私からさつきちゃんへの宿題」
「……変な京子さん」
さつきちゃんは、首をかしげながら歩く。鈍い子は、鈍いもんだ。




