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淫魔の生き方

「で、そのお坊さんに五百円盗られたってわけ? あっはははは……」

 と、真澄は笑った。二階堂真澄。私の大学時代の同窓生で、淫乱サキュバス。まあ、サキュバスが淫乱なのは当たり前だけど。

 私はその真澄と、彼女のお気に入りのバー「クロノス」で飲んでいる。今、私は、例の寺で銀杏の精の坊さんに説教されて五百円だまし取られた話をしたところであり、それへの反応が冒頭の笑い声である。

「説教強盗に会った気分よ」

「それにしてもたかが五百円じゃない」

「あんたと私じゃ生活水準が違う」

「そりゃあ男の子と遊ぶだけでお金が転がる私とあなたじゃねえ」

「で、どう思う?」

「どうって、なにが?」

 私が同道してきたにゃんぱちの頭をさすりながら、真澄は聞く。

「その坊さんの言うこと」

「私はもう、そのお坊さんのいうところの実践者だから」

「実践者ねえ」

「自分が気持ちいいことしか考えないもの。それで先の不安もないし」

「求めるものは全てあるってわけね」

「そういうこと。あなたにはないみたいね?」

「あったら悩まないっつーの」

 私はそう言い、ストローに息を送り込み、手元のサワーをぶくぶくと泡立てた。

「でしょうね。まあ、あなたみたいな凡人が自分の将来と現状に悩むのは分かるには分かるわ」

「凡人で悪かったわねっ」

「私みたいに絶世の美女なわけでも、老いないわけでもない以上、女の武器でのし上がるのはもう難しい年齢よね。なにかを始めるにも遅い。特技は……ケンカと体力くらいかしら?」

「まあ、そんなもんかな」

「こりゃあ真澄さまと違って苦労しますにゃー」

 と、真澄になでられながらにゃんぱちは言った。このバカ猫、ご主人様をなんだと思っていやがるのかしら。

「うるさいっ。ねえ真澄、あんたが私の立場だったらどうする?」

「今の私の場合と同じね。楽しむわ」

「さんざん人の境遇くさしといて、その答えはないでしょ」

「そうとしか言いようがないもの。……私はあなたよりも遥かにカードに恵まれてるっていうのは認めてあげるわ。でも、あなた並の手札だったとしても、自分にくさってばっかりはいないわね」

「まるで今の私がそうみたいじゃないの」

「自分でわざわざそう言うってことは、自覚があるってことよ」

「んぐ」

 私は答えに窮した。

「別に人生を賭けた大勝負や大変革をしろなんて言わないけど、手札のマシなところに目を向けてもいいんじゃない?」

 そう言うと真澄は、立ち上がった。

「どこ行くの?」

「今日の相手が来たの」

 そう言って真澄は、バーのドアを指した。そこには、一匹の豆狸がいる。豆狸とは、化け狸の一種であり、とてつもなく大きな金玉袋を持った種族である。玉袋の方が体より大きいので、それをかついで歩いているようにしか見えないほどである。実際、この時も巨大な玉袋が置いてあるようにしか見えないほどであった。

「……あれは仕事? 趣味?」

 私は聞いた。

「趣味よ」

「袋じゃない方もでっかいわけ?」

「最高よ」

 真澄はそうウィンクすると、豆狸の方に向かって立ち去った。


 残された私は、サワーをすうすうと吸いながら、真澄の言ったことを反芻していた。一方にゃんぱちは、自分のイチモツを眺めながら、なにやらブツブツ言っている。

 ……このアホ猫。

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