死神との雑談
にゃんぱちと街を歩いていると、死神の卓造さんと会ったので、一緒に喫茶店に入った。というより、向こうから入ろうと誘われたのだが。卓造さんというのは、私の家に間違えて入ったり、霊探知機を落としたりした例の死神さんのことである。どうやら、人にコーヒーをおごるのが好きな人であるらしい。
喫茶店の席に座ると、卓造さんは、
「最近、なにか面白いことでもありましたか?」
と言ってきた。
「面白いことねえ……」
特に大したことも思いつかなかったので、とりあえず、この前あったゴードン・トレットメントさんの話をしてみた。吸血鬼の警備員さんが、夜な夜な警備員仲間にからかわれていたというあの話である。
「そりゃ感心せんことですねえ」
「でしょ? おかげでゴードンさんはノイローゼで飲んだくれるわ、その世話で娘のさつきちゃんはかわいそうなことになるわで酷かったんだから」
「やる方は軽い気持ちでもやられた方にとってはおおごとっていうことも多いですからねえ」
と言い、卓造さんはずずとコーヒーをすすった。
「そういうことよ」
「ま、死神の私が言えたことじゃないかもしれませんが」
「そうなの?」
「お迎えに行くとよく言われるんですよ。あんたにはただの仕事かもしれんがこっちは命がかかってるんだぞ、見逃せ、こっちの気持ちが分からんのかってね」
「だからって見逃すわけにはいかないでしょう」
「もちろんです。魂ひとつ持ち帰らないだけで実際のところ大目玉ですからね。大体、ただの仕事と言ったって出来ないのが積み重なればこれですよ」
と、卓造さんは首を切るジェスチャーをする。
「私のようなものがリストラになったら死ぬのと同じですよ」
「でも、地獄の鬼なんかは最近やめて地上に来てる人も多いっていうけど」
私は、青鬼の権助さんを思い浮かべながら言った。が、卓造さんは首を振り、
「鬼の人たちは地上での働き口が多いからいいですよ。プロレスラーだの肉体労働だの。私のような生まれつきの死神は、死神をやるしかないようなものです。それほど力があるわけでなし、見せものに出来るような特技もなし、おまけにこのガイコツの見た目ですよ」
「かもねえ」
「とにかく、色々言われましても仕事で命をつないでるようなものですからね。ましてこの仕事しかないとなると、どうにも責められると辛いですよ」
「同情するわ」
「あんたは同情できるほどの環境じゃにゃいじゃん」
こう言ったのはにゃんぱちである。
「京子さんは、どんな仕事を?」
「ボブってブラウニーに雇われて清掃をやってるわ。まあ、今のところは」
「ご満足を?」
「別に。まあやれる仕事ってだけ」
「そんなもんですよねえ」
「そんなもんよ」
と、お互いにハアとため息をついた。
その後は、言葉少なにコーヒーを飲んだ。




