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青鬼の昔の職場のこと

 ある日曜日。私とにゃんぱちは、小さなアパートの一階の部屋のチャイムを押した。

「どちらさまですか?」

 インターフォンの向こうから小さな声がした。

「京子だよ」

 そう言うと、たったったという音がドアの向こうからして、やがて、ドアが開く。そして、小さな鬼の子が顔を出した。鬼の小学生、三太である。最近、たまに遊んでいるのだ。

 部屋の中に通され、中を見ると、テレビに荒いポリゴンのゲーム画面が映っていた。元は私のものだったゲーム機の、対戦格闘ゲームの画面である。この前生産終了になったばかりの古い機種をあげたのだ。

「ちょっとは上達した?」

「まあまあ」

「じゃあ、にゃんぱちとやってみなよ」

「ぼく?」

「私と三太じゃ、まだ腕の差がありすぎる」

「ぼかぁ体格の問題でゲームはハンディがあるんだけどにゃあ」

「言い訳しないで相手をする」

「はいはい」

 こうして、三太とにゃんぱちの対戦が始まった。三太は反射神経と器用さはあるが知識が足りず、にゃんぱちは知識は豊富だが操作が下手くそだ。結果として、いい勝負である。

「くそっ、負けたにゃ!」

 そう言ってにゃんぱちは、コントローラーを叩いた。逆に三太は嬉しそうである。

「ま、まあ今のはキャラ差があったからにゃ。ゲー○ストダイヤグラムでいうと8:2って感じの組み合わせだしにゃ。接待でキャラ選んでやるのは終わりにするにゃ」

 それが嘘なことは私には分かっているが、まあ指摘しないでやる。ともあれ、私はふんぞりかえって二人の対戦を眺めていた。すると、後ろから、

「お、来てたのか」

 と声がした。三太の親父である青鬼、権助さんの声である。

「あ、権助さん、どうも」

「こっちこそ悪いな」

 そう言うと権助さんは、私たちのすぐそばに座った。

「今日は仕事ないの?」

「幸いにしてな」

 権助はビール缶を開けた。

「……ねえ」

「なんだ」

「なんで、前の仕事やめちゃったのよ」

「変なことを聞くなあ、お前」

「だって地獄づとめって天界下請けで安定感抜群の最高の親方日の丸みたいなもんでしょ? こっちで土方やるよりもいいと思うけどな」

「まあ、肌にあわんかったんだよ、色々と」

「職場の雰囲気とか上司とか?」

「そういうのもあるっちゃあるが……ちょっと待ってろ」

 権助さんは、そばにある押入れを開けて、中から一個のアルバムを取り出した。

「……いいか、覚悟して見ろよ」

 そう言って、権助さんはファイルを開く。

「うわ」

 私は思わず口をふさいだ。中には、人間が引き裂かれる写真や針の山に落とされる写真などの数々のグロ写真が山のように貼られていたからである。無論、それらの刑の執行者は地獄の鬼たちである。中に、権助さんの姿もあった。

「これを毎日やらされたんだ、嫌にもなるさ」

 権助はアルバムを閉じながら言った。

「でも、グロなんて意外と慣れるもんじゃないの?」

「見るだけならな」

「ああ。なるほど」

 自分でやるとなると違うらしい。

「ま、やるのも慣れる奴の方が多い。多いんだが……」

「権助さんは違った」

「そういうことだ」

「優しいじゃない」

「バカ! 変な褒め方はよせ」

 と、権助さんは叫んだ。

「京子姉ちゃん、父ちゃん、なんかあったの?」

 こっちの話を聞きつけたのだろう、三太が振り向いて言った。

「いや」

「別に、なんでもないわよ」

 私たちはごまかした。あまり、遊んでる最中の子供に言いたい話でもない。もちろん、既に親父の昔の仕事ぐらいは知ってるのかもしんないけど。


 その後、二時間ばかりゲームをしておいとました。流石にその日の晩はいまいち食が進まなかった……ってほどでもなかった。私って意外とグロ耐性があるのかもしれない。まあ、ネットでいくらでもその手の画像なんて遭遇する世の中だし。

 この世の方がよっぽど地獄に近いのかもしれない、色んな意味で。

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