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死神と喫茶店で

 夕方頃、商店街をにゃんぱちと歩いていると、見慣れた相手に出会った。鎌を持って、上からフードをかぶったガイコツ男。そう、死神である。その首には、死神であることを示す免許証が下げられている。

「こんにちは」

 私は挨拶した。

「あ、どうも。このあいだは失礼しましたな」

 と、向こうも挨拶を返してくる。このあいだとは、隣の工藤さんの家と間違えて、私の家に「お迎え」にやってきた事件のことである。

「別にいいけど。工藤さんは無事に送り届けられたの?」

「おかげさまで。もし、お暇でしたらそこの喫茶店で一杯どうです。このあいだご迷惑をかけたお詫びに、おごりますから」

 おごりというなら断る理由もない。私たちは、死神に連れられて喫茶店に入った。端の方のボックス席に座る。

「コーヒー三つ」

 と、死神はウェイターに言った。

「仕事帰り?」

 私は聞いた。

「ええ。魂をあの世に送り届けてきて、家に帰るところです」

「家はこっちにあるんだ」

「ええ、まあ。管轄がこの辺ですからね。普段も地上で暮らした方が土地勘がついて具合がいい」

「なるほど」

 そこで、コーヒーが来た。各々、自分のコーヒーをすする。

「こないだの夜はドアのすきま越しだったから気づかなかったけど、その免許証、いつも首にぶらさげてるの?」

「これですか?」

 と、死神は、免許証を掴んでひらひらとさせた。

「そう、それ」

「なんかイメージ壊れるなあ」

「イメージよりも実益優先ですよ。これをつけてないと非常に仕事がやりにくい」

「そんなもんなの?」

「こうした免状を証拠としてすぐ見せられるようにしておかないと、公的な死神なのかコスプレなのかが非常に納得されにくいんですよ。どこの役所も同じです。それに、死神であることを証明できないと、この大鎌なんて職質の対象です」

 と、死神はそばの大鎌をさすった。

「……その大鎌って、なんのためにあるのよ」

「魂と体を切り離すためです。たまに霊質的に肉体との繋がりが強すぎる方がいらっしゃって、この鎌でちょんぎってやらないとなかなかしっかり離れないことがあるんです」

「ちょんぎらにゃいとどうなるにゃ?」

「地縛霊になるとかなんとか聞いてますがね。どちらにしろ死者の方には恐ろしいことで」

「ふーん」

「あと、昔は護身用に使ったとも聞いてますねえ」

「護身? 誰に襲われるってのよ」

「今みたいに世間様にシステムが理解されてる時代じゃなかったですから、死神となれば追い払いたがる坊さんやら陰陽師やら牧師やらはいくらでもいましたよ」

「じゃあ、その連中を鎌でばっさり?」

「死神は人を殺しちゃいけません。この鎌で定命の方をぶっ叩くと仮死状態になるので、少し眠っていただくわけです」

「なるほど」

「ま、今は昔の話ですよ。今じゃ魂を切り離す専門です」

 死神はそう言って、コーヒーをすすった。そして、つぶやく。

「ま、今でも退治まではされなくても、あまり歓迎まではされない仕事ですよ」

「前は独居老人に歓迎されるって言ってたじゃない」

「そういうケースもあるっていうだけのことです。基本的にはあまり……」

「京ちゃんだって追い払おうとしたもんにゃー」

 と、にゃんぱちが言った。それもそうだ、と私は肩をすくめる。

「別にあんたが悪いわけじゃあないんだけどねえ」

「頭ではそう分かっていても、いざ不利益が執行されるとなると、人はシステムそのものよりも、私のような実行官に当たりたくなるものですよ」

「ストレス貯まりそうね」

「ま、適当に発散してます。今みたいに話を聞いていただいたりしてね」

「おごってくれるなら、またいつでも聞くわよ」

「おねがいしますよ」

 死神はそう言って、はかなく笑った。


 結局、二時間ばかり話して、店を出た。外はすっかり暗くなっていたので、それぞれ別れて、家に帰った。

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