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道端の吸血鬼

 昼日中のこと。にゃんぱちと道を歩いていると、一人の少女がふらついているのを見かけた。少女は十六、七歳ぐらいで色白の美形。どこかしら日本人以外の血が入っているのだろう、西欧系とのクォーターのような美しさがある。

 が、その美しさよりも、つらそうな表情の方がよほど目についた。歩き方はふらふらとし、すぐにも倒れそうである。実際、しばらく観察していると、

「あっ……」

 と言い、少女は本当に倒れた。放っておくわけにもいかないので、抱き起こす。

「大丈夫?」

「……ち」

「ち?」

「血が欲しいんです」

「吸血鬼なの、あなた?」

「はい……」

 どうやら、吸血鬼が血液欠乏症で困っていたようである。人間の貧血と飢餓をあわせたような症状で、とにかく辛いものだと、話に聞いたことがある。

「血液型は?」

「Oです」

「それだと私の血は吸わない方はいいわね。不適合症になっちゃう」

「だいたい、吸血鬼が直接人間の血を吸うと法律に引っかかるにゃ。傷害罪の他にも色々ついてくるから」

 こう口を挟んでくるのはにゃんぱちだ。

「そうなの?」

「そうにゃの。だって吸血した人間は思いのままに操れるんだぜ」

 なるほど。だから単なる傷害よりも罪が重くなるってわけか。

「んじゃ、病院に運びましょう。一番血があるだろうから」

 私は吸血鬼の少女をお姫様だっこして立ち上がった。病院までは遠くはないし、救急車を呼ぶまでもないだろう。


 病院に着いてからはスムーズにことがすすんだ。少女はちゃんと保険証を携帯していたので、すぐさま輸血が行われ、彼女の栄養失調状態はことなきをえた、らしい。らしいというのは、病院に着いたあとは、少女と医者の間でことが進められ、私たちは待合い室で待つばかりだったからで、直接見たわけではないからだ。

「ありがとうございました」

 少女は、病室から待合室に出てくると、そう、お礼を言った。

「別に、気にすることないのよ。人が倒れてたら誰だって助けるわよ」

「すいません」

 少女は頭を下げた。その顔から先ほどまでのつらそうな色が失せた分、どきりとするような可憐さが印象に残るようになっている。

「しかし、にゃんで昼間から吸血鬼が外をうろついてたにゃ? 肌が焼かれて命に関わるぞ」

 にゃんぱちが言った。

「私は純血じゃないから、日光は平気なんです。学校も夜間じゃなくて普通の時間帯に通ってます」

「……そういうもんなの?」

「吸血鬼は人間との混血具合によって、能力が失われる代わりに弱点も減るんですよ」

「ふーん」

「私の場合、日光と十字架は平気ですね。ただ、血液を補給しなきゃいけないのはやっぱりどうしても変わりませんから、結構不便で――」

「今日みたいなことになった、と」

「はい」

 と少女は苦笑した。

「今日はほんとうに、ありがとうございました。あ、そうだ」

 少女は携帯電話を取り出した。

「いつかお礼をしたいので、電話番号、教えていただけます?」

 特に信用のできなさそうなところもない。私は少女とアドレスと番号を交換した。少女の名前は、さつき・トレットメントといった。父親は純血の吸血鬼で、母親は人間の日本人だという。


 その後しばらく話して病院を出、少女とは別れた。別れたあと、歩きながらにゃんぱちが言った。

「おい、もしかしたらラッキーかもしんにゃいぜ」

「なにが?」

「純血の吸血鬼ってのは名家が多いから。お礼はマジで期待できるにゃ」

「なるほど」

 金持ちと知り合いになって、悪いことはない。当然のことだ。人助けはしておくものである。

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