第2話 天使降臨
ごめんなさい
あの日、それだけ書き残して、高校を卒業する直前に、ヒカリは叔父夫婦の家を出た。
あんなに思いやってくれた二人を、苦しめてしまった。
私が居たせいで。
私さえ、居なければ。
親友の日向にだけ事情を話した。
彼女が調べて渡してくれた“女性シェルターの連絡先”を握りしめて、ヒカリは夜のバスに乗り込んだ。
(ここからが、私の本当の人生……そう思えるのなら、それでいい)
十八歳のヒカリは、車窓に映る自分にうなずいて見せた。
ひざの上のかばんを握りしめる手に視線を落としたとき、また、あの人の温もりを思い出してしまった。
高志叔父さんは、亡きお父さんの弟。
亡き父と同じように、音楽の世界と、タクシー業と、二足のわらじだった。
本当の娘みたいに、思っていてくれたはずなのに。
あの日、ヒカリのお父さんの話をしたら、叔父さんが激高した。
私は、お父さんの亡霊を運んでくる存在だった。
あんなに、強くてしっかりしていた七海さんが泣きくずれた。
きっともう三人とも耐えられなかった。
――シェルター、ネットカフェ、カプセルホテル……。
居場所を転々としながら、昼間の店員、夜の倉庫の作業。
ダブルワークで、半年がかりで「住所不定」から抜け出すことができた。
「いらっしゃいませ――」
二十歳になったヒカリは、コンビニのレジに立っていた。
日本中、無数に点在している二十四時間営業のゆりかご。
時に激務ではあるが、都会の断片的な人間模様に触れていられるのは、ヒカリにとってわるいものではなかった。
多種多様な存在が、入れ代わり立ち代わり、すれ違う小箱の中で、感情を介さない、マニュアル通りの接客が最適解。
保護色みたいな制服が、私を風景にしてくれる場所だから。
帰宅は大抵終バスで、暗くて静かな自分の部屋に帰宅すれば、昼間の喧噪がむしろちょうどよくなる。
孤独にどっぷりひたる間もなく、朝を迎えるルーティンも。
日向とは安否を気遣うやりとりがあったが、彼女の大学生活の報告メールを二回スル―してそれっきり。
生活苦もあった。
もう少し貯金が安定して、自分に自信がでてきたら、友人に会い、昔話も、心の底から笑ってできる気がする。
今はただ、誰にも必要とされず、誰も必要としない――それでいい。
孤独か――生まれたときからだ。
コンビニの裏口から大きなごみ袋を持ち出しながら、ヒカリは灰色の空を見上げた。
いつか、この空に虹がかかって、白い翼の天使が迎えに来る。
一人ぼっちの子どもに、必ず天使は気づいてくれる。
幼いころ読んだ、虹の天使の童話のワンフレーズとともに……
孤独は、すっかり彼女に染みついていた。
――その時。
どんよりとした夜空を切り裂くように、ありえないほどの眩しい七色の光が差し込んだ。
え、嘘、本当に虹……?!
口を開けたヒカリの目の前に、光の粒子をまとった「それ」が、派手にバサァッと音を立てて舞い降りてきた。
背中には、まごうことなき真っ白な翼。
どこか中性的な、銀髪&銀の瞳――
漂うオーラは聖職者か何かのように神々しい……はずなのに。
着地した瞬間に足をもたつかせ、泥をハネ飛ばしたその美少年(?)は、ヒカリをジロリと見上げてこう言った。
「――って、誰? 何やってんの?」
(つづく)
天使降臨……いかがでしたでしょうか?
自分の不注意、あるいはドジ で盛大に泥水へ突っ込んで転んでしまったのに、「なぜか周囲のせい、あるいは理不尽な世界に対して全方位にめちゃくちゃ不機嫌! 完全にキレている」というのが彼の可愛い(めんどくさい)ところ(;^_^A
天界の、エリート天使で、地上での仕事は弁護師という超越的な存在が、あろうことか下界の裏通りで盛大に泥まみれになった」……プライドの高さと、その現実を受け入れきれずに八つ当たり気味に怒っているギャップが、このキャラクターの持ち味です。
ぜひ、続きが気になる方がいらっしゃったら、つっこみコメント&ブックマークで知らせてください☆彡
お知らせ頂き次第、翼を広げて即行で更新しにやってまいります。
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