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35 悪役令嬢流、ヒロインの恋活応援計画! ロイヤルデスマーチクッキー作戦!

 

 放課後、チャイムとともに教室の生徒たちが挨拶や雑談を交わしながら帰り支度をし始める。


「フランチェスカ様、ごきげんよう」

「おほほ。ごきげんよう」


 フランチェスカはNPCの級友たちに優雅に挨拶をしながらも、心の中は焦燥感に満ちていた。


「悪逆値0%……このままじゃ、リブートしちゃう」

 学園の創立記念の夜会で悪役として断罪されないと、再びNPCクラリスにタイムループしてしまう。


 本来の悪役令嬢フランチェスカは、夜会で断罪された腹いせに禁忌魔法を発動する。そしてクラリスは、毎回その巻き添えになっていた。


「何とか断罪されて、本来の役割を果たさないと……ん?」


 ふと、廊下を歩いていると窓の外に桃色の髪が揺れるのが見えた。


「あれは、ヒロインちゃんじゃない?」

 原作のヒロイン、アネットがそわそわした様子で中庭にいた。


「そうだ! ヒロインちゃんが攻略対象と親密度を上げればいいのよ!」

 閃いたとばかりにフランチェスカは、はやる気持ちを抑えながら、中庭へ向かった。


 そこでは、ヒロインアネットがベンチに座り、憂鬱な面持ちでため息をついていた。


「はぁ……なんでこんな……」


 ベンチの裏の草むらに身を隠したフランチェスカは、そんなアネットの深いため息に胸を痛めていた。


(ああ、ヒロインちゃん……やっぱり限界社畜のため息をついているわ……)


 その時不意に、アネットが勢いよく立ち上がる。その視線の先を辿ると、渡り廊下にセドリックが歩いてくるのが見えた。

 アネットは揺れる瞳で彼を見つめ、そしてその手には水筒を持っている。


(……はっ! このイベントは!!)

 フランチェスカは前世の原作ゲームのイベントを思い出した。


 生徒会業務に加え、聖騎士としてレオンハルトの護衛や学園警備まで担うセドリック。

 そんな彼が魔力汚染され、その異変にヒロインだけが気づく——それが、原作のセドリックルートの重要イベントだった。


『あの……セドリック様、これを……』

『アネット嬢、これは?』

『ハーブティーです。浄化の効果がある薬草が入ってます……』

『おや、貴女にはバレてしまったようですね。……ふふ、興味深い』

『え?』

『いえ、ありがたくいただきますよ、アネット嬢』


(こうして、我らがヒロインアネットちゃんの手作りハーブティーがセドリック様の魔力汚染を浄化。これがきっかけでセドリック様がヒロインに執着しだすんだよね。……ヤンデレ目と声がめっちゃ色っぽい神イベント!)


 フランチェスカは見逃すまいとばかりに、目を見開いてそのシーンを待った。


 何故かアネットは怯えた様に震えていた。しかし、背中を押されるようにつんのめりながらセドリックの前に出た。


「ひっ! ……あ、あのセドリック様、これ……」

 アネットがうつむき加減にセドリックへハーブティーの入った水筒を差し出す。


「……」

 セドリックの瞳には何の感情も浮かんでいない。

 だが一拍後、彼は張り付いたような聖人の笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。ですが今日は生徒会業務がありますので。お気持ちだけ頂戴しますね。」

 そう言って、セドリックは振り返る事なくその場を去っていった。


 後に残ったのは、水筒を前に差し出したまま固まったアネットと、予想外の展開に凍りつくフランチェスカだけだった。

 中庭の木々を、冷たい風がヒョォォッと揺らす。


(ま、まずい……ヒロインイベントが停滞してるわ……! 何とかしないと……!)


 困惑しながら、額に指を添えてうんうんと唸りながら考える。


(セドリック様と言えば……昔、うちの料理長のクッキーを美味しいって言ってたわよね……?)


「そうだ!」

 フランチェスカはカッと目を見開いた。


(私が悪役令嬢として、セドリック様に激辛クッキーで嫌がらせをして、ヒロインがハーブティーで介抱する流れを作って背中を押してあげるのよ!)


 名案だ、とばかりにフランチェスカは草むらから抜け出し、足早に寮へ向かった。



 ◇◇◇



 寮の自室に戻ったフランチェスカは、ふと立ち止まった。


「あ、忘れてた。……私、クッキー作れないじゃない」

 厨房へ向かおうとして、フランチェスカはぴたりと足を止めた。


 かつて魔塔で受けた魔力判定では、水晶玉が一度も光らず、挙げ句の果てには周囲の魔力まで消す始末。魔導士たちからは「逆方向に規格外」と太鼓判を押された。


(魔力ゼロどころか、歩く処理落ち認定だったのよね……)

 当然、魔導オーブンも動かせない。

 十歳の頃、一人でクッキーを焼こうとして完成したのは、鳥ですら食べなかった伝説の消し炭クッキーだった。


「……うん。今回も自力はやめておきましょう。料理長に相談ね」

 ただマズいだけの代物は、食中毒という名のコンプラ違反になりかねない。


「ビジネス悪役令嬢としては、コンプラを遵守しながら、相手の胃袋と精神にだけダメージを与えなくては……」

 フランチェスカは部屋をうろうろしながら思案した。


「見た目は王室御用達レベルで美しく、中身はカプサイシンの地雷祭り……これだわ!」


(これなら衛生面はホワイト、味はブラック。完璧な労基案件ね!)


「名付けて、ロイヤルデスマーチクッキー!! 」

 そうと決まれば、行動は早かった。フランチェスカは厨房へ直行する。


(ふふ、これでセドリック様を涙させて、アネットちゃんのハーブティーイベントを強制起動してあげるわ!)







コンプラ遵守型悪役令嬢、フランチェスカ。

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