そこにはただ、見続けているという事実があるだけだ
いよいよやばくなってきたな。
どこか傍観者になったかのように私はそんな事を頭に浮かべる。
他人事ではないどころか一番の変化があった人間として今回のキーパーソンになるのが私だというのに。
自身の後方から見ているかのような、全てがフラットにならされてしまったかのような気分だなぁ。
だからだろうか、相棒に先程抱きつかれた時も、それ以前に意識不明から回復したときも特段波を感じられることは無かった。
そして、この事象にイメージを当てはめられる人物がいる。
もしかしたら、雪梛はずっとこんな感じだったのだろうか。
あの声色がまるで変化しない透明な声。
雰囲気だっていつも読みづらいし会話すらも偏りを強くは感じられない。
偏見の無い、主観の無い知的生命体など存在が矛盾となるがそのように表現しなければ私の語彙では表せないだろうね。
さて、これからどうしたものか。
と、思ってはみたものの、事態は見た目よりもずっと軽微なものだ。
相棒は精神状態が不安定、雪とエンジニアがノーマルで私は感情がなくなった。
相棒が落ち着いてくれれば平常通りと変わらなくなるだろう。
この時点で既に影響を受けているがそれについては特段言及しなくていいかな。
おかしいことは自覚している。
だが半自動的に行われた思考の結果このようになってしまったので気にしてはいけないだろう。
ブラフというのは虚実だけでは成り立たないからね。
「落ち着いてもらいたいんだけど、流石に無理かな?」
「……大丈夫よ。いえ大丈夫じゃないけれども」
「こうなってしまったのは仕方ない、過ぎたことを議論するな。なんていう気持ちの悪いセリフは無し。経験のベースである過去を除外したら存在が揺れるからね。まあ、あんまり深刻に見なくても大丈夫だよ。一種のプレイだと思って楽しんでね」
「なるほど。つまり寝室に連れて行けと」
「やめたほうがいいよ?私いま何も感じないから」
「私は武器の確認してるわね」
「私は…どうすればいい?」
「もういいわ。あなたがいなかったら事前知識が無くなるから間違いなく死んでいた。でも次からリスクがあるならきっちり報告なさい」
「分かった。本当に申し訳なかった」
エンジニアは深々と頭を下げてから退室していく。
この感じであれば今日は向こうに出ず亜空間で休憩だなぁ。
腰の刀を抜いて切っ先を斜め上に向ける。
どこまでも灰色が続く亜空間ではハイライトも影もできないがそうであるからいい。
ただ一点の、一色のこの世界だからこそ、私たちは心地よく感じられる。
色を抜くことは容易だけど、抜いた色を塗り直すことはできないのだ。
外界と接した時点で彩色に変化が起きてしまうから。
「そういえば記憶とかどうなのかしら?」
「ん?恐らく問題ないよ。毒やられの相棒を担いで帰ったわけだし。ただ一点不可解な点を挙げるならば、いつ感情が抜けたのかが不明、というところかな」
「というと」
「ほら、別に相棒みたいに意識が飛んだわけじゃないじゃん。だったら何で、いつどこでどうして感情が抜けたのだって話になるよね」
「予想はあるかしら?」
「あいにく分からないとしか言いようがないね。もしかしたら慢性的症状がトリガーを起点に急性化したかもしれないし」
原因が不明になると作者組が怪しくなるんだけどね。
どうやら三次元の作者の裁量で基軸が決まっているわけだし。
その点に関しては次に雪梛が来たら聞いてみるとしようか。
静寂に包まれた空間で互いに互いを見合う。
恐らく以前の私ならここで思うところがあったはずなのだろうが今の私にはそういうものがない。
そこにはただ、見続けているという事実があるだけだ。
「さて、そろそろ戻りましょうか。少しばかし整理をする必要もあるし」
「わかったよん」
いつもと変わらないスピード、歩幅間隔で退室するために扉を引く。
少しだけ重量感を感じられたのは気のせいなのだろうか…




