なんでこうなったのよ!
流れる地面を歩きゆく。
自分が現在どの地点に位置しているのかを理解できないまま私はゆらりゆらりと歩きゆく。
視界はすべてが白でおおわれており、普段から灰色ばかりを視界に入れている私にとってはまぶしすぎるぐらいだ。
その影響で目が開けきれないのか、はたまた視界が本当に歪んでいるのか。
意識すら形成できないこの空間内部で私は何をしているのだろうか。
溶けゆくものをつかむ私、透けていく先が見えてく私。
待ち受けるものが何であろうとどうでもいい。
大切なものが、そばにあれば…
「…あれ?」
「おお、ようやく起きたか。内心失敗したかと思って焦ったぞ」
確か…そうだ、あのボス戦みたいな予定調和で毒やられになったのだ。
「あの子は無事かしら?」
「もちろんだ、と言いたいが多分無事かな?正直あれがどういった事象であるかを私は把握していない」
「寝起きの私には少々重すぎる話ね。もっと分かりやすく話しなさい」
「外傷は無しだ。だが抽象部分にダメージが入っているかもしれん」
「考え方でも変わったのかしら?」
「どうなんだかね。まあ起きたんなら会ってきたほうが早いだろ。今はリビングにいるから行ってきな」
「ありがとう」
さて、変なことになっていないといいわね。
個人的にも今すぐあの子に抱きつきたかったから足早に入室する。
引き戸を引くと同時に自然体を発動して気配を消しつつ更に索敵を避けるため下から飛びかかる。
「うひゃぁ!?」
「ただいま帰還したわ」
おっと、勢い余って持ち上げてしまったようだ。
華奢な腰に手を回していたので何だか宝を手に入れて掲げているみたいねいや宝なんてレベルでは表せないけれども。
「おかえり相棒。飯食ってたから降ろしてくれないかい?」
「え?」
なぜだ、え、なんでだ?
思わず手から力が抜けてこの子が床に着陸する。
嘘だありえないそうよね私は毒やられで幻覚を見ているのよね。
「か、禍雪?」
そんな訳ない、というのは分かっている、いるけれど…
本当に全身の力が抜けたかのように膝から崩れ落ち、この子に支えられた。
「大丈夫?まだ寝ていた方がいいんじゃない?」
「寝る?寝てるのはあなたよ!」
「え!?」
思わずこの子の手を振り払ってしまいすぐに失態を表情に明確に表す。
落ち着け。
「…ごめんなさい。嫌で振り払ったわけじゃないの」
「それは顔を見てすぐにわかったよ。なにか別の点に対してだよね」
「あなたは、いいえ。雪眼は今何を締めて何を媒介に空けているのかしら?」
「…ごめん。直接言ってもらっていいかな?」
「感情はどこに置いてきたのかしら?」
「…」
ああ、目覚めたばかりから最悪だ。
見えていた道がなくなったのではない、崩れ落ちて停滞を余儀なくされたのだ。
これはとりあえずエンジニアをぶん殴ってやらないと気が済まないわね。
この子に、私の愛しの恋人に特大の治療法がわからぬ病を与えたのだから。
「ふぁーあ。あら、禍雪じゃない。私急用あるから出るわn」
「待ちなさい」
「ひっ…」
逃がすかこの小娘。
雪の肩をがっしり掴んで力を込める。
「私は今とても機嫌が悪いのよ。でも手伝ってくれるならダメージは与えないわ」
「何すればいいのk」
「分かってるわよね?その首きり落とすわよ?」
「はい!!!今すぐエンジニアをぶっ飛ばしに行くので助太刀いたします」
本当に分かっていたのか…
武装の確認を手早く済ませてエンジニアの下へ向かう。
とりあえず殴る、本当は殺したいけれど負ける戦いは仕掛けられないわ。
時間にして約一分、扉を開けるとエンジニアが先程と変わらない場所で座っていた。
「話は分かっている。気が済むように一発ぶん殴ってくれ」
「言われなくとも」
腹部に手の平を合わせて脱力を開始。
煮えたぎるという生温かい表現では表せない思いをはめつつ、その他持ち合わせている入り混じった感情を注いで涙と共にエネルギー放出。
「ぐっはぁ…」
普段とは違い足場に大きなへこみができたが、本番はこれからかな。
「なんでこうなったのよ!あの子ばっかり枷を掛けられて不自由な自由の供給しかされないのよ!私がどんなにサポートを入れても必ずあの子が先に被害を被る。なによこの世界!!!」
「…」
隣にいる雪が視線をそらして虚空を見始めた。
予想していた通り崩壊が近くなってきたね。
まあここから展開される色ばかりが濃くなった物語というのも面白いだろうから読ませてもらおうか。
次に死ぬのは誰なのか。
おっと、この表現は良くないか、正しく言い換えるなら次に死ぬのは何なのか、になるね。
死する条件には有機物と無機物が入っているわけじゃないからね。
さあ、一緒に読んでいこうか、変わりゆく世界の容貌を。




