この子が生き続ける限り、わたしはナイフを振り続ける
あれからは特に何事もなく入浴は終わった。
私と相棒の下着が入れ替えられていた件については雪の頭を湯船に沈めることでチャラにしといたわ。
「ふぅー、さっきは死ぬかと思ったわ…」
「おかしいわね。一分は沈めていたのに」
「殺意が高すぎないかしら!?」
「多分途中からサディストが入ったのでは?」
「それだ」
「それだじゃないわよ私で気持ちよくなってんじゃないわよぉ!?」
ちっ、外したか。
投げたナイフが完璧に雪の頭部に飛来していたがすんでのところで避けたようだ。
「さて、寝るまで三十分位あるけど何する?」
「カード、ボードゲームは梛木が強すぎるから…わりばしでいいんじゃないかしら?」
「わりばし?なにかしらそれ」
え…ああ雪はボッチだから…
「いるわよお友達!そう!まさに今目の前に!」
いや、今ホームベースみたいな陣形だから位置的に雪の正面は無人よ?
バッチリ虚空を指していた手がグッドマークに変化して頷き始める…いや誰かしら?
「ああ、ようやく侵攻が進んだのですね雪」
「ちょっと待ちなさい。今のはジョークよ!イマジナリーフレンドはいないわ!」
「大丈夫だよ。お前がそういう奴って知ってるから」
「やめろ逃げ場をなくすんじゃなぁい!!!」
そんな茶番の最中に、玄関先で何やら音がした。
即座に全員が臨戦態勢へと移行して私とこの子が先頭となり移動する。
「速いね。追記で私がやったわけじゃないから」
「ああ。死んだのね。処理だけ頼んでいいかしら?」
「いいよ。じゃあ、後四人だから頑張ってね」
なるほどそう来るか。
やはり予想通り復活スキルは無くなっているらしい。
そして無無が死ぬレベルには相手が強いと。
「じゃあまたねー」
「さて、確認も済んだしわりばしやるわよ!隙を見せた瞬間にルールは調べさせてもらったわ」
「お、話が早くて助かるよ。対戦はいつものペアでよろしく」
雪梛と無無がいなくなったのを確認して、私たちは部屋へと戻る。
あーあ、十分ぐらい消費されたわね。
ルール説明と雪の相手とを考慮すれば案外妥当な時間かもしれないけれども。
「行くわよ梛木!その指へし折って完全勝利よ!!!」
「させませんよ!」
…本当に私がしっているわりばしよね?
扉を開けて部屋に入るとマジで指で指を狙っている二人が目撃された…
「…どうする?」
「どうすると言われても…落ち着きなさい二人とも。切り殺すわよ」
「私は一向にかまわん!!!」
めんど。
無論止める気どころか割って入るつもりすらないため私と相棒は家を出ていった。
こうなったらあそこは使えないわね、大浴場の休憩室で寝るとしようかしら。
「風呂場の待合場所で寝るわよ。下手したら家より快適かもだし」
「まあ設備は当時からずっと変えていないからねぇ。とはいえ当時のエンジニアが一枚噛んでるから悪くはないけど」
騒々しい背後をよそに先ほどいた大浴場へと移動をして椅子に座った。
「いやぁ、快適だね。何でか知らないけど漫画とか再生機無いのにBlu-ray置いてあるし」
「え!?なんでこれが置いてあるのかしら!?」
嘘よねだってこの小説たしか初版が2009年よ?
あ、最終巻だけない…
まあ時間も悪くないしそろそろ寝ようかしら。
読みたい作品があるなら明日読めばいいし。
そうなると読むために生還するみたいな異質の目標になるけれども。
畳のような材質の床に寝そべって天井を見上げる。
前の状態でも特殊な人生だと思ったけれど比にならないレベルで歪んでいくわね。
どんなに変形を行われようと、空間の飽和上限が底無しで上昇してしまうため終わりが見えない変化に弄ばれている。
もしくは内部に存在する事象の柔軟性が高すぎるのかしらね。
どちらにせよ、というかそのあたりの事情はどうでもいいわ。
この子が生き続ける限り、わたしはナイフを振り続ける。
「人生は驚きの連続だね。もっとも、私たちは人の形を模した別事象を参照元にする生命体かもだけど」
「それはまた面白い表現ね。いい得て妙というかなんというか」
「そんな識別方式にこだわらず基軸をぶらさず形成できれば問題ないんだけどね」
「しならせてもだめなのかしら?」
「そのまま折れなきゃいいけどねぇ」
「大丈夫よ。私の軸は歪みすぎてチュロスみたいになってるわ!」
「ふっ、甘いな。私の軸なんて知恵の輪のごとく絡まりあってるぞ」
「つまりそれを実現するために今すぐ絡まり合いたいと」
「やめろ近寄るな絶対関節技極めて行動不能にするだろ」
この子の中の私の像が気になるわね…
温かみがます世界の中で、四人の少女が思いのままに過ごす。
夢を感じられたとすれば、深さを知らないということになるかな。
目標のない生存は、死亡が目的に設定されるからね。




