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救ったはずの仲間が、俺を忘れていた。〜追放ヒーラーは“存在を削る回復魔法”で世界の裏側に立つ〜 ―未記録層と界喰いの神話―  作者: 白銀レン


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第30話 監査局

 それは、町がようやく静けさを取り戻しかけた頃だった。


 空間が裂ける音はしない。


 だが、空気が凍る。


 記録院の転移陣とは違う。


 もっと無機質で、無感情な気配。


 丘の上に、四人の影が現れた。


 全員が同じ灰色の外套。


 胸元に、閉じた目の紋章。


「……監査局」


 リゼの声が、わずかに硬くなる。


 中央の男が一歩前に出る。


 年齢不詳。


 感情の揺れがない。


「監査局執行監、セレム・ヴァルディア」


 淡々と名乗る。


「記録院第七観測部所属リゼ・アークライト」


 リゼが応じる。


 儀礼的だが、緊張が走る。


 セレムの視線が、ゆっくりと俺に向く。


 まるで、物品を見るように。


「境界干渉者アルド・レヴァイン」


 名を正確に呼ぶ。


 背筋が冷える。


「あなたは記録改変の疑いにより、暫定削除対象に指定された」


 町の空気が止まる。


 ミアが袖を強く握る。


 ガルドが大剣に手をかける。


「暫定、とは」


 リゼが静かに問う。


「即時削除ではない」


 セレムは一歩近づく。


「観測ののち、必要と判断されれば実行する」


 言葉は穏やかだが、内容は断罪だ。


「削除、ね」


 俺は小さく笑う。


「得意分野だろ」


 セレムの表情は変わらない。


「削除は世界維持に必要な工程だ」


「誰にとっての世界だ」


「秩序にとっての世界だ」


 迷いがない。


 この男は本気で信じている。


「界喰いはあなたの干渉が原因で活性化した可能性がある」


「逆だ」


 リゼが言う。


「彼は侵食を鈍化させた」


「観測記録と一致しない」


 セレムの背後の監査官が、無言で紙片を展開する。


 灰色の文字が空間に浮かぶ。


 戦闘記録。


 侵食数値。


 削除履歴。


 俺の名が何度も出ている。


「削除因子を保持しながら、削除を否定する存在」


 セレムが言う。


「構造的不整合だ」


 不整合。


 人ではない。


 バグだ。


「だから消す?」


「必要であれば」


 空気が張り詰める。


 ガルドが前に出る。


「こいつは町を守った」


「局地的評価だ」


「世界規模で見れば誤差だ」


 冷たい。


 だが合理的。


「セレム」


 リゼが一歩前へ出る。


「彼は循環の可能性だ」


「証明されていない」


「観測は進行中だ」


「観測対象が世界構造に干渉している時点で問題だ」


 論理は通っている。


 削除は秩序。


 循環は未知。


 未知は危険。


「監査を受けろ」


 セレムが俺に言う。


「抵抗すれば即時削除に移行する」


 静寂。


 町の人々が遠巻きに見ている。


 少年が震えている。


 あの母親も。


 俺は、空を見上げる。


 裂け目は閉じている。


 だが未記録層は消えていない。


「受ける」


 俺は言う。


 ガルドが振り向く。


「正気か」


「ここで暴れれば町が巻き込まれる」


 監査局は界喰いより厄介だ。


 削除の専門家だ。


 均しが通じるか分からない。


「ただし条件がある」


 セレムの眉がわずかに動く。


「言え」


「町に手を出すな」


「観測対象はあなただけだ」


「なら行く」


 ミアが小さく言う。


「アルド」


「大丈夫だ」


 嘘だ。


 大丈夫ではない。


 だが。


 逃げれば削られる。


 削れば界喰いが強くなる。


 ならば。


 削られない道を選ぶ。


「リゼ」


 俺は振り向く。


「資料は隠せ」


「当然だ」


 彼女の目は、揺れていない。


 覚悟がある。


 セレムが陣を展開する。


 灰色の転移光。


「境界干渉者アルド・レヴァイン」


 冷たい声。


「あなたを監査対象として拘束する」


 光が足元に広がる。


 ミアの手が離れない。


「必ず戻る」


 そう言って、俺は転移陣に立つ。


 視界が歪む。


 町が遠ざかる。


 ガルドの顔。


 リゼの瞳。


 ミアの涙。


 次に目を開けたとき。


 そこは白い部屋だった。


 壁も、床も、天井も。


 装飾はない。


 ただ、中央に一つの椅子。


「監査を開始する」


 セレムの声が響く。


 扉が閉まる。


 外界から切り離される。


 未記録層の匂いが、微かにする。


 ここは。


 削除の中心。



本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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