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【祝10000PV突破】何故現代兵器をファンタジー世界へ持ち込んではならないのか?  作者: ウォルギリウス
第八章

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華が咲き誇る

厚い壁に覆われて

君塚悠里は国内軍の最高幕僚会議の後、王国全土へ配備させていた兵力を『龍の国方面』へ大規模かつ大量に動員し圧倒的な縦深陣地と防衛線を構築させていた。

その一方で『低地の国方面』にも重機を投入して強固な塹壕と要塞線を掘らせており、万が一の奇襲が有れば主力部隊が帰還するまで耐えられるようにしていた。


塹壕の中に籠る前線の地上部隊だけが備えているわけではない。広大な平原の国に点在する飛行場に配備されていた軍用機も全て整備されて機体の状態は万全となり毎日制空戦闘、或いはSEAD(敵防空網制圧)訓練を盛んに行なっている。彼らは空軍総司令官の命令でいつでもあの『ソビエト』――彼らの知る偉大なるソビエトの名を汚し、辱め続ける狂気のファシスト国家――を空から徹底的に攻め滅ぼせるように刃を研ぎ澄ましている。

海軍はアドミラル・クズネツォフ級を中心とした空母機動部隊が艦載機(Su-33等)の発着艦やキーロフ級、スラヴァ級による対空対艦戦闘の演習を沖合にて連日行いながらソビエト海軍の残存艦隊との『Xデー(開戦日)』へ備えている。


だが潜水艦隊の動きは海上艦隊とは異なっている。

現在ヤーセン型やタイフーン型といった原子力潜水艦や通常型であるが静粛性に優れるラーダ型や改キロ型等による潜水艦の群れは大量の巡航ミサイル(カリブル等)を装填し深海で静かに待ち構えている。そのミサイルの指向は敵の首都『クラスノグラード』へと固定されており、いざという時はいつでも圧倒的な報復の雨を降らせる為に撃つことは可能である。


そして現在国内軍が各地に展開して兵力が配備されている重苦しい状況が進行しているが、そんな中仕事が終わった君塚は亡国の姫君アナスタシアを連れて王都ズラトポルの市街散策に出ていた。

君塚の右腕には護衛兼秘書のナディアが寄り添い左腕にはニケが嬉しそうに絡みついて居るという、端から見れば非常に羨ましくも胃の痛くなる状況だが君塚は何とか平静を装って自分の足で歩けていた。


「ねぇねぇ、悠里っち〜! あそこの屋台のケバブ屋に行こうよ〜!! 美味しそうじゃん!!」

「ニケ、わかった。引っ張るな。……おい大将、ケバブを4つ。いくらだ?」

「おお、これは『国父』様ではごぜぇませんか! 恐れ多くもあなた様からお代をいただくなんて、そんな罰当たりな事出来ませんよ!!」

「だが大将、商売である以上お代を払わなくては……」

「お代は本当に結構でございます! でもどうか、美味しく召し上がってくだせぇ! それが俺たち平民のせめてものってやつで!」

「……ありがとう。なら、厚意を頂こう。ほらニケ、ナディアも。どうぞ、大将からの奢りだ」

「わーい! ありがとうおじさん! いっただきま~す!!」

「ありがとうございます大将。では早速……ん、美味しいですね」

「ん〜! 肉汁とか焼き加減が丁度良いねこれ! やっぱアタシの目は狂わないのよ!!」


「……」

「……行かれますか? ソコロワ大尉。あなたも一つどうですか」

「いえ、結構であります。私はまだ貴殿の護衛任務中であります故」


そんな両手に華を取り揃え屋台のケバブを頬張っている君塚の隣でアナスタシアは彼を少し軽蔑しつつ見つめていた。そして彼女へ付けられている――低地の国での戦役以来大尉として王宮の警備兵を勤めていた凄腕の狙撃手――護衛のエレーナ・ソコロワ大尉が最新鋭のA-545アサルトライフルをコンシールメント(隠匿)して携え油断なく警護している。


エレーナは久し振りに君塚へ呼び出されたと思えば「亡命してきたアナスタシアのお守りをさせられる」という任務だったので内心少し不服であった。

かつては『共産党の統治していた現実のソビエト連邦』の誇る狙撃兵であったのにも関わらず、今やその打倒したはずの帝政ロシアの最後の皇女と全く同じ名前の姫君を警護せねばならず自らのイデオロギーとアイデンティティに対して酷く石を投げられたような複雑な感覚を抱いている。


アナスタシアは人の多いお祭りの空気にすっかり緊張しておりあちこちに怯えるように視線を動かしていたが、エレーナは動じる事なく冷徹な視線で周囲を落ち着いて監視していた。

とにかく偉大なる司令官の両腕にそれぞれナディアとニケが絡みつく中、エレーナは一先ず自分側の膠着した空気をかき乱す為そして純粋な軍事的懸念から君塚に話しかける。


「同志閣下。確かに閣下やこちらのアナスタシア殿下の御身を狙う不届きな輩がこの国に潜んでいるのは私も良く存じております。が、今この様な『護衛の薄いお忍び散策』などされますと敵が絶好の機会と見て狙って来るかもしれませんが」

「それはわかっているさ、レーナ。だから敢えてこうして隙を見せて誘い出しているんだろう。今、敵のスペツナズ部隊もこちらを監視しているしお祭りが行われるなら向こうも人混みを利用して動きやすいだろうからな」

「同志。私はあなたのような偉大なる指導者こそ下級工作員を釣るための餌にするべきでは無いと思いますが……」

「奴らの標的は俺なんだ。うちの優秀な将帥の誰でもなくな。だから俺が最上級の餌になってやるんだよレーナ。それにスドプラトフ将軍の防諜能力が有能なのは言わずもがな。既にズラトポルの中に奴らの逃げ道は無い」

「……どうせならダメ押しに同志雨宮の『魔獣使い』のギフトで鳥やネズミを出して周辺を徹底的に偵察させてみれば、よろしかったでしょうに」


エレーナにとって君塚邸のメイド達(特に美羽やつむぎ)は単なる使用人ではなく、戦力の一部であり極めて重要な戦略的資産として考えていた。

それ故に彼女らの保有するチート級のギフトはそれこそ重要な戦術的手段であるから最大限有効活用して新倉の潜伏させた武装勢力を安全に掃討させるべきだと考えていた。


「そうだな、それは俺もそうなんだが……少し問題が起きていてな」

「と、言いますと?」

「奴らも俺も全く同じ事を考えていてな。俺が美羽に放たせて偵察させた事は何度か有った。だが奴らは隠密行動において一枚上手だったようでな……全くもって後一歩が掴めん。魔獣で場所を特定して突入すればもぬけの殻で逃げられるか、足止めの少数の部隊が死兵として玉砕するか。そうでなければ全貌が掴めない。一切情報が掴めない『スリーパーセル(不可視の地区)』が有ってその中に籠もっているのは分かっているが」

「成る程。新倉の放った工作員が王都の何処かに居るのは分かっているがそれを根絶やしに叩くことはまだ叶わないという事ですか。全く、あのファシストめ……」


赤き旗を掲揚しながら実態は憎たらしい程のファシスト国家『ソビエト社会主義共和国』の潜入工作員達を完全に捕捉できていない現状へエレーナは不満を露わにしつつ、だが目立つ民間人の損害が出てないのが幸いであると割り切って考えるようにした。


そんな中、ふとアナスタシアは口を開いた。


「あの、摂政閣下。少しよろしいでしょうか」

「何でしょうか、アナスタシア殿下?」

「今回行くこの『お祭り』とはどのようなものなのでしょうか?」

「ああ、これは昔、初代平原国王と結ばれた『聖女ヤドヴィガ』の偉業を讃えるお祭りでして。沢山の花火とか今食べたケバブのような出店とか……まぁ、一般的な建国祭というやつですよ」

「まぁ。今も昔も有能な君主や伝説の人物にあやかる名付けも多いという事なのでしょうね。まぁ、先王の縁者が今の女王陛下に名付けたんでしょうが」

「私も、昔聡明だったという伝説の姫君から名前をあやかって付けられたものでしたし、そこは理解出来ます。(セルゲイ)が名付けたのです」

「さようでしたか。私としても聡明で美しい響きの良き名前であり、そして我が国にとって幸運な殿下に相応しいものかと」

「……ありがとうございます、君塚閣下」


アナスタシアと君塚は穏やかに会話しつつ祭りの中心部にある広場へと歩いていた。祭りの中で初代国王と聖女ヤドヴィガが悪魔を束ねた魔王へと戦いに挑む『建国神話の演劇』が行われているからだ。

国内軍の一般兵士達も警備に参加しており最新のAK-12を装備した兵士達がテロを警戒して緊張した面持ちで警備に当たっている。が、一方で非番の兵士達は私服で外出してこの祭りに一般客として参加して羽を伸ばしていた。

そして、そんな非番で楽しそうな兵士達が上番(勤務中)している兵士達と目が合うと、勤務中の兵士達が「なんで俺だけ」というような嫉妬と憎悪の視線を送っている光景が見かけられる。


「……後で、アイツらにも何か特別手当とか出すか。後、代休の休日もな」

「大変なのですね。何万もの軍を統率されるのは」

「殿下もいずれはそれを為政者として経験されるのですよ? わが国は貴殿の王政復古を支持しておりますので。必ずやかの簒奪者から殿下に鷲の国をお返ししますから」

「そうですね。失念しておりました。摂政閣下の軍が有れば無敵でございますから期待しておりますよ。君塚閣下」


ふふふ、と優雅な笑みを浮かべつつ、君塚へ『祖国奪還』という途方も無い重圧を託しているアナスタシアの圧は直接伝わっているが君塚は決して臆するような事はしない。

ここで彼女の願いを叶えなくてはこの先の平原の国の展望について暗いものが重くのしかかり、戦略的な劣勢が発生しそれを覆せるかどうか分からないのである。


「まぁ、何とか成りますよアナスタシア殿下。もし何とか成らなくてもあれは必ず玉座から引き摺り下ろして見せます。それも命懸けで」

「摂政閣下にはそのような泥臭い事は求めておりませんよ。私が求めているのは、我が軍の将兵が全員生きて、そして全員であの女に『完璧な復讐』をする事です。私の大切な物を全て壊して奪ってしまった卑怯者を果たしてあっさり許してやる事は出来ますでしょうか?」

「それもご安心を。あれの討伐は既に想定されている軍事計画の通りに動いています。むしろ順調な程にです」


そうして広場の中央に辿り着くと女優と俳優が豪華な舞台で演技している場所へと辿り着く。

これが祭りのメインの出し物である演劇だ。ヴワディスワフ王が建国する際、聖女ヤドヴィガを神聖皇務庁の手の者(悪の枢機卿)から救い出すというベタなクライマックスのシーンだ。

君塚は事前に特等席を取っていて隣にアナスタシアをナディアやニケ達は同じ列で観覧させる事にした。


「ああ、ヴワディスワフ! 私はあなたがまだ恋しいのです!! 私をどうかこの平原に押し留めてください!!! 私はあなた様と共に有りたいのです!!!!」

「おお、ヤドヴィガよ! 今参るぞ! 我が愛しきヤドヴィガよ!!」

「ああ、ヴワディスワフ!」

「おお、ヤドヴィガ!」

「な、ならぬぞ! ヤドヴィガ様は法皇様にお連れせねばならぬ! 我は阻むぞ!」

「ならば押し通るぞ枢機卿よ! 我は愛する為に貴様を倒し、ヤドヴィガを娶るのだ!」

「お助けくださいヴワディスワフ様! 私はここに居ます!!」


「……」


君塚がふと劇中に隣を見やるとアナスタシアは感動のあまりポロポロと涙を流して観劇していた。


君塚としてはこの大仰な劇の何が良いのか全く分からない。それどころかついこの間もヤドヴィガ殿下本人に「ヴワディスワフとヤドヴィガごっこ」を寝室で無理やりさせられた所で(そもそも貴女、俺が押し通らなくても勝手に俺のベッドに来るでしょ……)と内心で突っ込みながら木剣で何もいない虚空へ向かってチャンバラさせられた、という黒歴史があった。


(……恥ずかしい思い出がフラッシュバックして蘇るが、何とか堪えよう。堪えないと俺がここで顔を覆って粗相してしまう事になる……)


ナディアやニケといった他の女性陣もロマンチックな劇に夢中で、君塚は一人少し気不味そうにしていたがソコロワ大尉だけは少し冷めた表情で舞台を見ていた。そして君塚の視線にいち早く気付いて、「この馬鹿馬鹿しい遠足から早く抜け出したがっている」のがわかった。


だが、そんな平和な劇の最中。

王都の喧騒の裏側でこの祭りのタイミングを狙って襲撃しようと一般の民間車両に偽装して動いていた車両群が有った。

君塚の誘拐を計画していた新倉の『スペツナズ部隊』であり、彼等はこうやって孤立しやすい環境の彼を祭りのどさくさに紛れて誘拐拉致しソビエトへと連行するのが任務だった。


だが彼等のその野心的な計画はいとも容易く潰されてしまった。

検問を巧みに迂回し続け祭りの会場裏に接近。乗っていた複数台のUAZ-452から続々と降車し、目出し帽を被った一個小隊が展開した。

だが彼らが銃の安全装置を外した直後に闇夜から次々とVSSによる無音の発砲があり、彼等は誰一人として静かに悲鳴を上げることさえ出来ず眉間や首筋を正確に撃ち抜かれて即死した。


その後、襲撃者だった『ただの肉の塊』は次々とゴミのようにトラックへ乗せられ車両も君塚の隊員達により跡形もなく迅速に取り除かれて祭りそのものは何事もなかったかのように安全に進行していた。


イベント襲撃作戦を完全に予期していた、パヴェル・スドプラトフ率いる『GRU(情報総局)所属スペツナズ部隊』がこれらの敵の襲撃を無慈悲に排除しフェスティバルの裏の警護にあたっているのだ。


そして、ズラトポルの片隅で作戦の失敗と部隊の全滅の報告を受けた新倉はギリギリと歯を鳴らして痺れを切らし続けている。


「赤い鉄槌が必ずあの圧政者へと反動的な思想の愚者へと下るのだ」と狂信的に思いながら彼女の怒りと焦燥感はまさに祭りの夜空に打ち上がる花火のように、あるいは全てを燃やし尽くす山火事の如く、鮮やかに黒く花開いているのだ。

花火は打ち上げられる

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