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【祝10000PV突破】何故現代兵器をファンタジー世界へ持ち込んではならないのか?  作者: ウォルギリウス
第八章

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侵される

平原の国の普通の警官であるフェリックス・ヤコブレフスキーは、国内軍の憲兵隊と共に、検問所で王都ズラトポルへの主要道路の警備の為に動員され、折角の非番を台無しにした『正体不明の悪党(敵対国の工作員)』への恨み言が募る一方である。


「すいません、車体の下部を確認させてください」

「良いけどよぉ、俺ら急いでんだぜお巡りさん。積んでる野菜が傷む」

「ああ、ご協力感謝します。あとそれと、免許証と通行許可証も」

「はぁ!? っち、ほらよ」

「ありがとうございます」

「ったくなんだよもう……急にこんな物騒な事をしやがって。昨日まではこんな面倒な手続きは無かったのに」


国境線を突破した所属不明のヘリコプター一団の目撃情報が相次ぎ、国内軍は止むなく本格的な戒厳令とまではいかないものの『非常事態宣言』を発令した。現在、王都周辺ではヘリコプターの捜索や、国内に極秘裏に潜伏したであろう敵軍工作員(スペツナズ)の捜索、及び撃滅作戦が鋭意展開されている。

王国は数多くの検問所や移動制限で混乱に包まれながらも、それでも市民たちはいつも通りの日常へと回帰はしようとしていた。

たとえ王都の上空で、軍用のMi-28NM攻撃ヘリコプターが威嚇するように飛び交い、地上には重武装のT-90M戦車やBTR装甲車がエンジン音を轟かせて走っているこの異常な光景が続けられていようが、大衆には「目の前に血を流す戦争が直接来ていない以上」関係ないものであった。


新倉の特殊部隊によるゲリラ・コマンド攻撃(斬首作戦)に対して過剰とも言えるこの検問所や警備。トラックであろうと馬車であろうと荷物の奥底まで徹底的に確認し、そして書類上問題が無いかを国内軍の憲兵が二重三重に正確に調べさせる。

敵(ソビエト軍)の主力部隊による本格的な軍事攻勢も、隣国である龍の国への侵攻を通じて行われる可能性が極めて高く、その進軍には彼らが国家の総力を持って攻撃をかけてくるのは、少なくとも平原の国指導部には分かりきっていた。

そんな物々しい警戒の中君塚悠里自身も検問に引っ掛かったので自ら運転する車両の検査を大人しく受けていた。


「申し訳ございません摂政閣下! これも非常事態宣言に基づき行われておりますのでご協力お願いします」

「ああ、全く問題無い。ほらしっかり確認してくれ。警備ご苦労様」

「ありがとうございます!」


君塚が免許証を差し出すと、警官がトラバント(君塚悠里の愛車)の下を爆発物探知用のミラーを用いて、車体の下部を念入りに確認している。

君塚悠里は今日は遅めの出勤となり、ただでさえニケの一件やソビエト社会主義共和国への対応、龍の国への軍事通行権の外交調整等で胃を痛めるほど急いではいた。しかし、ここは己が統治する平原の国。近代的な法治国家であるが故の法の下の平等を示すための、やむなしの協力である。


「確認終了しました。ありがとうございました、閣下!」

「ああ。無駄に緊張させて済まなかったね。引き続き頼むぞ」


トラバントが甲高い2ストロークエンジンを再始動させ、車体をガタガタ揺らしながら国内軍の総司令部である巨大なビルへと、専用の地下通用口から入っていく。

壮麗で重厚な建物に入っていく中、後部座席で身を潜めていたニケは、徐ろに口を開いた。


「ね〜悠里っち〜……アタシ、本当にここに来て良いの?」

「うん? ああ、むしろ居てくれないと困るんだよ。何せ今から参謀本部の将軍たちに『運営(システム)』のことを説明するのに元・担当官であるお前が居ないと誰もこの理不尽な状況を正確に理解出来ないだろうからな」

「そうかな〜、悠里っちだけの口から説明した方が……でもわかった。悠里っちがそんなに言うならアタシも行くわ。あんたの優秀な部下達にも今回の厄介な裏事情を伝えた方が絶対良いだろうし」

「ああ。あとニケ、降りるのは少し待ってくれ」

「?」


ニケは重厚な地下駐車場へ駐車された君塚のトラバントからドアを開けて降りようとしたが、君塚に手で静かに制止される。

そして彼は運転席から降りると、ニケの居る後部座席のドアへと回り込み、そのままガチャリと紳士的に扉を開けた。


「どうぞお嬢様。お足元にお気をつけくださいませ」


君塚は恭しく、愛すべき『元・担当官(ニケ)』へ手を差し出してまるで大切な深窓の女性をエスコートする様なスマートな行動を大切な『元・担当転生者(君塚悠里)』は取っていたのである。


「……!! なら、会議室の部屋までエスコートお願いするわね悠里。そんなに私のことを思うなら私の手を絶対離さないでよね」

「こんな美しいレディの手を離すなんて勿体ない。最後までしっかりとエスコートさせていただくさ、ニケ。……俺のこの手を離すなよ。運営から狙われてるんだからな」


そしてニケは少し頬を赤らめながら君塚の腕を絡ませ、そして肉体を密着させ、互いの吐息が聞こえる程近づく。


「当然よ悠里。アタシだけを置いていったり神々に負けて勝手にくたばったりしないでよね」

「わかってる。今は離れるな」

「大会が終わるまで、ずっとでしょ?」

「そうだな。今大会が終わるまでずっと側に居ろ」

「むー」


言葉の裏の「大会が終わったらどうなるのよ」という不安に少しだけ可愛らしくニケの頬は膨れるが、君塚は彼女の不安を覆い隠すように優しく一回抱きしめる。

そして司令部専用のエレベーターの中に入ると中では階層を移動する忙しそうな軍の参謀や人員が大量の書類を抱えて同乗してきた。彼らは主である君塚摂政の姿を見ると一斉に敬礼し隅へと避ける。


「ねぇ悠里っち〜。いつもこんな堅苦しいルートで通勤してるの〜? 何か、権力者って専用の地下の隠し廊下とかでびゃーっって誰にも会わずに最上階とかに上がってくイメージだったけど……」

「そうでもない。俺はただの俺だ。そもそも無理矢理ギフト使ってこんなバカでかい建物を建設させたんだぞ。この国の首都のインフラにこれ以上の無理はさせられんさ」


そして目的の階(最高作戦会議室)に到着して重厚な廊下を歩き、将軍達が既に待機していた会議室へ二人が入室すると、居並ぶソ連軍の英雄たちは一斉に起立し、そして完璧な敬礼をして君塚はそれに答礼した。


「よし、主要な幕僚は全員揃っているようだな。これから少し面倒の話をする事になる。平原の国の危機ではなく、俺個人に関する盤外の話だが」

「同志閣下。今は平原の国にとってすべてが面倒な時期です。今さら何を聞かされても我々はもう驚きはしませんよ」


アレクサンドル・ヴァシレフスキー元帥は、半ば諦めているような、しかし覚悟の決まった目つきで、自分達の指導者が恐らく『またとんでもない厄介事』を持ち込んだのであろう事を聞かされるため、深く息を吐いた。


「では、差し支え無ければですが同志閣下。そちらの、いささか軍の司令部には不釣り合いな、可愛らしい私服のお嬢さんとは、閣下といつ『お知り合い』に?」


ニコライ・ヴァトゥーチン上級大将は、今回の最高会議に初めて参加するニケの派手な存在を見て、「自分達の摂政閣下の何番目の愛人(お手付き)なのか」と内心で気になり、しかし彼女がどのような重要人物なのかを問うために、あえて軽い口調で話を振った。

「紹介しよう、同志ヴァトゥーチン。こちらは今大会における俺の、今は元だが担当官……つまり、今回君たちも部下として巻き込まれて参加している、このイカれた世界デスゲームの『運営側』だったニケだよ」

そう紹介されると、ニケはそっと無言で一礼をした。彼女からしたら、この場にいる者達(史実で数百万の軍勢を指揮した本物の化け物たち)の方が、圧倒的に凄みに勝り、軍人としての重圧と存在感を強く保持していたからだ。

「……成る程。やはりそうでしたか。閣下がこんな最高機密の場所に、民間人の女性を連れてくる時点で何となく察してはおりましたが」

「信じたくないが、神秘(魔法やシステム)というものがやはり実在するのだな……。まぁ、私達のような過去の亡霊が、こんな異世界でこんな作戦会議をしている時点で、幻想の中のことと同じようなものか」

「そうだな、同志ロコソフスキー。本来なら、あんなデカい海軍の艦隊を、この陸軍国であるソビエト(平原の国)が持てたはずが無いからな。システムの恩恵というやつだ」

「おい同志トゥハチェフスキー元帥、聞こえているぞ。我々海軍はいつも、前のソビエトだろうがこの平原の国だろうが、重要な沿岸を守ってきたであろう」

「そうだとも陸軍の同志達よ。我ら海軍は沿岸からの上陸や、君たちの物資を守るのに――」

「はぁ……よし! さぁ同志達よ、そこまでだ!! 陸、海、空、そして空挺軍の兵士全てが、我が国内軍として必要不可欠な歯車だ!!!」

君塚は手を大きく叩いて注目を集め、ソ連軍特有の『軍種間の派閥同士でいきなり始まる不毛な口論』になりかけていた所を強制的に制止し、何とか議場の話題を戻した。

「さて、諸君。まぁまず俺から伝えたいのは、俺は今少しだけ『システム的な立場』が危ういという事だ」

「危ういのは、いつでもそうかと思われますぞ同志閣下。政治的にですか? それとも命が?」

「俺の『ゲームの参加者』としての立場だ。この大会における転生者は本来全員に運営の『担当官』が就いていてその上で進行される。最後まで参加権を保持しながら生き残った奴が報酬として神の権利を総取りしてしまえるというルールだが……これには、『その終了時点まで、担当官が配置されている事』がシステム上の絶対条件なんだ。でないと仮に物理的に勝者となっても、ルール違反で失格になるという事に成っている」

「つまり……閣下は現在、このまま戦争で勝ち残っても勝者には成れないと? では閣下と我々軍隊が新倉を含めて他の転生者達を倒し、最後まで無事勝ち残った場合は大会そのものにはどのように影響が出るのでしょうか」


冷静に軍の存亡に関わる最も重要な核心を尋ねたロコソフスキーにふと「それはそうか」と君塚はニケを見やり、そしてニケはそっと口を開いた。


「……まぁ、その場合であれば私の知る運営のルール限りでしたら『ゲームの無効化リセット』か、それとも『事後的に担当官を付けるかの運営の審議』が執り行われて……まぁ、どうでしょうかね? 今このゲームの主導権を握っているのは以前一番人気であった『神堂』の担当官(エリス)でしたから。彼女は皆様の火力や物量を用いた現代戦でのやり方に対して決して良い感情は抱いてませんから……最悪の場合、ゲーム結果の無効化。そして悠里は失格による退場になり、皆様の処遇もシステムによってその後抹消されるでしょうね」

「……そうか」


それを聞いた瞬間、一部の血気盛んな将校が明らかにがっくりと項垂れたり、机を叩いて不貞腐れてしまった。

今更血を流して新倉達に勝っても勝利がシステムによって消し飛ばされて、更には世界の消滅と共に殺害される可能性が有るのだ。彼らの中に有った戦争への意欲等は完全に消えるまでは行かないが、徒労感で意気消沈とするものは確かに有った。


「ですが、まぁ悪い知らせだけでは無く、良い方向にも――」

〘ええ、間違いなくあなたたちへ、福音を齎して差し上げましょう〙

[無論、あなたたちが私達へ『ちゃんと敬意をもって』接するなら、だけどね]

「!? 誰だ!」


ニケが気を落としていた国内軍将校団へ励ましの言葉をかけようとしていたまさにその時、突如としてどこからともなく『二人の少女の不気味な声』が厳重に防音された会議室内に木霊した。


〘くすくす。ねぇ君塚さん。良かったわねあなた。私達が味方になってあげたからもうそのシステムのルール違反の事で憂うことはありませんよ〙

[ふふっ、小さい人間の小さい悩みはいつも見ていて飽きないわね。どうしていつも身勝手な悩みばかりなのかしらね、ベロボーグ?]

〘人間さんはいつもすぐ死ぬから仕方ありませんよチェルノボーグ。私達よりも儚く散る生き物は私達よりせかせかとネズミのように走るのですから。ふふふ〙


「……閣下。私の耳にもはっきりと聞こえるのですがこれは私達が幻聴の悪魔に話しかけられているのでしょうか? それとも私達が書類仕事で疲れ果てた結果の集団幻覚なのでしょうか」

「バカを申せ同志ヴァシレフスキー。私にもキッチリ聞こえたぞ。この非科学の権化どもめ。忌々しい魔法使いの類か」


ヴァシレフスキーは疲労困憊で何度も眉間を揉み、そしてそれに対してトゥハチェフスキーは同僚を叱責しつつこの得体の知れない少女達の声を恨ましく思い、声のする空間の方向を鋭く睨んでいた。


〘あらぁ、君塚さん? 私の事をどうやら蔑んでる無礼な方がいらっしゃいますねぇ。どうしてぇ…私達の恩恵を受けるべきそんな方が私達に口答えしてるのかしら?〙

[ひどいわねベロボーグ。私達が居ないと君塚は反則負けで、お前たちも消滅するのにねぇ]

「……なぁニケ。コイツら、お前の知り合いか? 担当官って、皆多分運営の知り合いだと思うんだけど」

「……知らないわよ。ベロボーグとチェルノボーグなんて名前の神、運営リストのどこにもいない」


え、と言う呆気にとられ驚く声が部屋の歴戦の将軍たちの口から異口同音の言葉として紡がれた。


「私達が運営の管理職として、当然だけど互いの名前を知らない訳がない。だからこうやってシステム端末が与えられてその上で……ほら」


そう差し出されたニケの端末の画面には確かに今大会におけるエリス、ネメシス等の担当官達のギリシャ神話由来の名前がリストとして記載されていたが、その中には『ベロボーグ(白き善神)』と『チェルノボーグ(黒き悪神)』というスラヴ神話由来の名前は一切存在しない。


「つまり正規の運営の人員ではない、か。それとも運営のシステムがハッキングされたか……」

〘ふふ、人間さん。か弱き乙女の秘密を探るのはぁ、褒められた行為では有りませんよ?〙

〔人間。あなたが失格負けにならないよう、私達が特例で担当官に付いてやったのだから地面に額を擦り付けて感謝しなさい。私達へ素性を試すのは止めなさい? 後悔するわよ〕

「ぐぬぬ……この得体の知れない偽物担当官め……」

「ニケ、将軍たちも、ストップだ。今は彼女たちもこちらに協力をするようだし身元はともかく失格を回避できたのは事実だ。まぁ落ち着けよ」

「……わかったわ。でも気を付けてね悠里。コイツらは本当に底が知れないから。エリスの差し金でも無さそうだし何が目的か全く見えない」


警告したニケだがこの傲慢にして規格外の新担当官達の不遜すぎる態度に誰もが未知の不安と苛立ちを見せていた。だが、それよりも今は目の前に迫る物理的な脅威である『新倉結菜』への対処が先決だ。


「取り敢えず、軍情報部(GRU)から最新の報告です。新倉が隠匿していたRT-2PM弾道ミサイル部隊の移動位置は衛星と偵察ドローンにより特定出来ました」

「本当にか!? なら、いつでもそこを先制攻撃出来るのか?」

「はい。既に空軍のSu-34M爆撃部隊は待機中です。そしてマルゲロフ上級大将の空挺軍もそれらを強襲・制圧する為の降下訓練も行なっていますし、何より既にスドプラトフ中将のスペツナズ部隊も現地周辺に潜入しています」


報告書を読み上げるヴァシレフスキーは君塚へ多大なる安心感を与えた。目下の最大の悩みの一つであった『戦略兵器である移動式弾道ミサイル部隊の所在の把握』と、爆撃機部隊の即応体制の確立が可能になったので、戦時下に突入しても何とか核の脅威は抑え込めそうである。


「頼もしい事この上ない。ただ、王都に侵入した敵のスペツナズ部隊の潜入についてだが……」

「それは現在、憲兵隊と国内軍で全力で捜索中です。一部の部隊は検問で接敵したそうですが巧みに逃走し、取り逃しております」

「そうか……。早く市民たちを、この息の詰まる厳戒態勢から解放してやりたいのだがな」

「引き続き、努力致します」


平原の国は1日でも早く平和な日常への回帰を願っていて、国内軍は今それに対して全力で尽力している。



一方でそんな国内軍総司令部の巨大な建物の監視を数キロ離れた廃ビルの屋上から行なっている影の者達がいた。

新倉の率いるソビエト共和国軍の特務部隊であり、彼女達は海からの陽動の隙を突いて王都に潜入している一個大隊程度の精鋭戦力を完全に潜ませることに成功していた。


「同志書記長。喜ばしい知らせです。目標である君塚悠里は現在建物内に居ます。然し悪いことに警備が厳重すぎて、目標は当面建物の外には出ないでしょう」

「よろしい。ならしばらく私は暇だし、このアジトで仮眠するとしよう。それと同志よ」

「?」

「もし予定通り、奴が油断して建物から出て来たら、必ず即座に動ける様に部隊を整えよ。我々に時間は無い。我らには、世界革命のために為すべき事が有る」

「はっ!」


警戒態勢は解かず、ニーナは赤軍スペツナズ部隊に即座に動ける様に命令を出したが彼女自身は簡易ベッドでゆっくりと睡眠を取ることにした。

スターリンであれ誰であれ偉大だった英雄達は須らく睡眠を大切にしていた。一睡の休息を大事にしないようなものは、下らない判断ミスで己を滅ぼすだろう。


「ふぁぁ……さて。次に私が目を覚ますのは、奴の頭に銃口を突きつけて革命の足音を響かせる時か、それとも奴の軍隊に包囲されて弾雨の水をかけられ私が消えるかだ」


狂気の独裁者は王都の闇の中で獲物を待つ毒蜘蛛のように静かに眠りについた。

革命のドラムは響き渡る。

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