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【祝9000PV突破】何故現代兵器をファンタジー世界へ持ち込んではならないのか?  作者: ウォルギリウス
第八章

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皇女は救いを求める

皇女はすがる

「はぁ、はぁ、……くっ、ひ、ひいいっ! 血が、ちが……いや、いやぁっ……ひぐっ……ぐっ、ち、近寄らないでぇ……っ!」


耳を劈くような銃声の直後飛び起きた亡国の姫君アナスタシアは肩で激しく息を切らしながら涙を浮かべていた。

彼女は己の白く美しい顔から滴り落ちる君塚悠里の体液(生温かい血液)をシーツで必死に拭いながら、目前に立つ彼からベッドの隅へと後ずさり、距離を取ろうと必死であった。


「っつ、……痛ぇ。やり過ぎたか」


苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる君塚は己の蛮行による姫君への『精神的ダメージ』を考えて起こすには少し、いや大変強引過ぎた事をしてしまった件に深く悔いていた。(だが、後悔しているのは『姫君への配慮』についてのみであり、自分の右手を吹き飛ばした事そのものへの後悔は微塵もない)。


「はい、間違いなくそうです。悠里、今回は完全にやり過ぎでした。もう少し他に『穏便な』手段は有ったかと思われますが、何故ここまで中々強引に進められたのですか」


愛する人兼仕える主のとびきり最大級の愚行へナディアは心底呆れ果てた顔で君塚の右手の処理を行う。

彼女の治癒魔法でみるみる内に手が再生していくが、「ゴキゴキ、グチャッ」と鈍くグロテスクな音を奏でながら失われた肉体が一から生えてくる様は最早冒涜的なそれであり人間の摂理からとっくの昔に外れてるように見えている。

ひっ、とアナスタシアはまた怯えていた。


「ご主人様、やはり私どもでアナスタシア殿下に対してアクションしたほうがよろしかったのではないのでしょうか? 無用に怖がらせてしまったようですし……」

「ご主人様の行動の意図には一部理解はしますけど……それでも今回については、流石にやり過ぎだったような……」


メイドのつむぎも美羽も、心底主に対して呆れており、そして主の過度なアナスタシアへの『精神的拷問めいた起床方法』に対して疑問符を抱いている。


「大丈夫? もし何か欲しいものやしてほしい事があったら言ってね、アナスタシアさん」


繭はそっと彼女のギフトで作り出した清潔で柔らかいハンカチを取り出し、精神的に打ちのめされ続けて限界寸前のアナスタシアの顔と身体を、優しく拭っている。


「あ、ありがとうございます……。お名前は?」

「私は繭。君塚繭よ。よろしくね……その、ごめんなさいね。私の主人がこんなにも無理やりで、乱暴な人で」


申し訳なさそうに微笑む繭にアナスタシアは率直に驚いていた。まさか、この強引で血も涙もない冷酷な摂政の男に『妻』が居るとは聞いていない。もし居るのなら、彼女のような心優しく美しい女性が一体この男の何処に惚れたのかと。


「そ、そうなんですか。え、えと……そちらの方は既にご結婚されていたのですか。これは失礼いたしました。すごくお若くて美しい方なのですが」

「いや、俺は繭と結婚した覚えはないぞ。まだ残念ながら独身さ。それとその娘の名前は『綾錦繭』だ。この屋敷の服飾担当だ」

「むぅ……悠里さんのいけず……」


即座に君塚は訂正していたのだが既成事実の作成に失敗して不機嫌になる繭の鋭い視線が君塚の背中に突き刺さる。


「ふ、ふえぇ……一体何が起きたんですか皆様……! さっきの大きな銃声もなんなんですか……?」

「あら、来たのねゾフィー。ご主人様が自分の右手を銃で吹っ飛ばしたのよ。おかげでそちらの鷲の国の皇女殿下が血まみれに成ってるわ」

「あ、え? えぇ!? 何で!?? 手は切っても生えませんよ!??? それをこちらのお姫様相手に!?? ご主人様、一体何を考えているんですか!!!」


あんまりな軽率過ぎる暴挙に状況を全く理解していないゾフィアは屋敷の中に響き渡る程の大声で普通に驚いていた。


君塚は「流石にそろそろ謝らないと不味い」と確信し行動に移すことにしたが、しかしどうやってこの交渉における『主導権』を握り続けられるか、頭の中で高速で計算していた。


「……それでは。先ほどの殿下の尊きお顔へ私の血を撒き散らす行いについては大変申し訳ございませんでした。アナスタシア殿下。念のため、お互いの自己紹介から始めてもよろしいでしょうか?私は平原の国摂政の君塚悠里でございます」


君塚は恭しく、しかしどこか白々しく頭を下げ、鷲の国の姫殿下に対する非常に失礼な行いを謝罪した。


「……私の名はアナスタシア。アナスタシア・セルゲイヴィチ・オリョーラ。父セルゲイの末娘にして、鷲の国の嫡流です。以後お見知りおきを、君塚悠里摂政閣下」


地面まで届く長い金髪、そして深い碧眼。可愛らしいフランス人形を彷彿とさせる幼さと王族としての優雅さを上手く保っているその容姿はもし何事も無ければ彼女には『お姫様』としてのそれなりの幸せな人生が有ったのであろうと思わされる。

しかし、新倉結菜のエゴイズムに轢き潰され今や鷲の国は彼女の「狂った理想郷」の第一歩として、廃墟が広がり各地は焼け野原である。


「では、失礼ながら私も。平原の国で君塚摂政の秘書を務めております、ナディアと申します。先ほどは我が主のお見苦しい暴挙を止められずお見せして申し訳ございませんでした。平にお許しくださいませ」


ナディアはアナスタシアへ最大限配慮した丁寧な態度を見せながら、しかし『透』の警告を無視する訳には行かず目には一切の油断はなかった。


「美羽、ゾフィー、並んで」

「う、うん」

「はい!」


そして身分高い客人故、一列に整列してから殿下へ最敬礼し、君塚家のメイド達は彼女の一挙手一投足の動きを見ていた。


「アナスタシア様。私がこの屋敷のメイド長を仰せ仕っております、桂木つむぎでございます。そしてこちらが雨宮美羽、それとゾフィアです」


紹介された美羽は再度改まってお辞儀し、ゾフィアもまた彼女へ続いた。


「……宜しくお願いします、皆様。この度は無理やり摂政殿の邸宅へ押し掛けるような真似を致しまして、大変申し訳ございませんでした。そして――」


そう言葉を一旦区切るとアナスタシアは君塚の方へと顔を向けていた。

その瞳には先ほどまでの怯えが嘘のような強い光が宿っている。


「私がこちらへ参った件でございますが、君塚殿。大体察しはついてらっしゃいますでしょうか?」

「ええ、まぁ。ソビエト社会主義共和国の件で今回いらしている事は理解しております。我が国もあの新倉という狂人には散々に弄ばれましたのでね」

「左様でしたか……。それは大変でしたでしょうね、ゾフィア姫『殿下』?」

「……っ!?」


突然、アナスタシアが猛禽類のような鋭い目つきに成り名指しするとゾフィアは咄嗟に身構える。


「……お分かりでしたか、アナスタシア様」

「たとえ今その輝きを喪おうと『黄金の鷲』の情報網を侮らないでくださいまし。新倉がけしかけた旧貴族による平原の国の内乱、その神輿として担ぎ上げられたゾフィア『殿下』。そして反乱鎮圧を行った君塚摂政の国内軍。我が国は奴の侵攻前にこれらの関係性は全て調べ上げましたので、大方のご事情は察しております」


そしてアナスタシアはつらつらと述べた後に君塚の目を真っ直ぐに見て、真摯な態度に直してから己の要望について述べた。


「そして君塚摂政閣下、貴方の軍事力と手腕については、かねがねお噂を聞いております。どうか、お力をお貸しくださいませ。祖国・鷲の国の解放と復興に、貴方の軍隊をお貸しください」


亡国の姫君は深々と頭を下げた。

平時なら他国の軍隊を祖国解放のためとは言え自国に引き入れるなど即座に拘束され大逆罪とか不敬罪で打首になってそうな事をしでかした平原の国摂政へ己の全てを賭けて懇願したのだ。


「父母の仇を討ち、祖国鷲の国の平穏と未来を取り戻して全てを元通りにしなくてはなりません! ですので何卒、何卒ご助力いただけますでしょうか!!」


深々と頭を下げ頼み込む。

全ては凄惨な復讐のため、あるべき地位への復権のため、そして悪しき圧政者である新倉菜月から全てを取り戻すため。


「どうか、どうかお願いします!!!」


藁にもすがる思いで彼女は伝えた。



あの日はまさに惨劇であった。

始まりは帝国南部に突然『非常に大規模な武装勢力』が蜂起し帝都オリョールへと猛スピードで進軍しているという信じがたい報告から始まった。


彼女の父、セルゲイ皇帝は賢君であった。

帝国内に内包する諸民族への強権的な支配を諦める代わりに各地域を独立させ、帝国を緩やかな連合体に変貌させ内紛相次ぐ帝国領内へ安寧を齎した。

それだけでなく、農奴達の解放、貴族達の不正や政治的影響力の削減、軍隊の近代化を推し進め、工業化も大規模に実施された。

また、民の為の議会(カデット)を整備して民主的政治にも舵を切り帝国を立憲君主政に導き帝国にさらなる成長を与えた。

外交についてはエリカの手で統一された高地の国と国交を結んで交易を行い、同盟関係まで持ち込む事に成功した。

そして南方の低地の国に対しても彼らの植民地から胡椒やコーヒー、茶葉、ゴム等の遠隔地の産品を輸入し、国内の産業を豊かに発展させていた。

西方世界における『黄金の鷲』はこのように輝きを増していき、大国として偉大な帝国は威厳と存在感を示していたのだ。

そして、そんな偉大な父親の背中を見て「いつかこの帝国の為に何らかの貢献がしたい」とアナスタシアは幼くして思っていた。

だがそれらの希望はいとも容易く鋼鉄の履帯に轢き潰された。

深夜まで続いていた軍議から帰ってきた父はすっかりみすぼらしくなり目の下の隈は取れず、疲弊しきっていた。


「父様、今日も夜遅くになのですね……」

「おお、大丈夫だアナスタシア……。きっと我が軍が敵を撃破するし、最悪の場合高地の国と同盟軍として共同で打ち破るから安心なさい。……それに、向こうの国はお前達の亡命を受けてもらえたからな」


父の優しいテノールの声は、だが内容とは異なり大いに動揺しているのをアナスタシアは察していた。


「父様、私は逃げません! この国に留まり、皇女として示しがつかぬ、はしたなき真似はいたしません!」

「だがな、アナスタシア……」

「私は他の皇族達と同じようにここに留まります!! 留まり、臣民達と共に抵抗し続けます!!!」

「……分かった。好きになさい。だがいつでも危ないなら逃げるようにするんだ。多分、ここはもう長くない……」


そのセルゲイの不吉な予想通りに新倉率いる赤軍は帝都オリョールへと進撃を続けていた。

T-72AやT-80が帝国軍を次々と打ち破り、空挺軍(VDV)が線路の破壊工作や司令部への強襲、村落の掃討等で後方を荒らし回った。

補給も受けられず、降伏を余儀なくされた部隊や徹底的に殲滅された軍も多かった。


そしてその絶望の時がアナスタシアへ降りかかった。

深夜、有事ではあるが臣民は寝静まり返る中、爆音と共に罵声と怒号が宮殿内に押し入り護衛の近衛兵達は次々とAK-74の凶弾に射殺されていった。


「離してっ、離してください!!」

「アナスタシア! くそっ、この狂人どもめが!!」

「やかましい! この反動主義の貴族主義者め!!」


セルゲイは彼らの持っていたAK-74の銃床で頭部を鋭く殴られ、床に崩れ落ちた。


「おやめください! 父様に何を!!」

「うるさい、このブルジョワの売女め!!」


アナスタシアは赤軍の粗野な兵士から容赦なく蹴り飛ばされる。

そして雪深く肌を刺す寒空の下次々と宮殿内から皇族達が連れ出され、その中にはまだ赤子である甥のアレクセイも居た。

そして彼らの目的である皇族達の拉致が完了すると空からMi-8ヘリコプターの爆音と共に一人の女が降り立ってきた。


「やぁ同志諸君、ご苦労であったね。首尾は順調かい?」


兵士達はその女に狂信的なまでに揃った敬礼をした。


「はっ、同志ニーナ。全て順調であります。次のご指示を」


そう述べた兵士は、次の瞬間、マカロフPM拳銃でニーナに頭部を撃ち抜かれていた。


「はっはっはぁ……次のご指示? 期待してもらったのにすまないが、君にはもう『次』は無いよ。しっかり報告は受けてるさ。君がこの宮殿内の労働者の女性相手に『お楽しみ』をしていた事についてだがぁ」


カラカラと狂ったように笑いながらニーナはその倒れた兵士へ弾倉が空になるまで撃ち続け、その後ごみを潰す時のように頭部を軍靴で踏みつけた。


「私は命じた筈だぞ、同志諸君。掠奪と強姦は禁止だと。何故、複数の兵士がこれを実行した?指揮官は何をしていた?規律を正し取り締まるべき政治将校は何処だ!?」


心当たりの有る別の兵士が咄嗟にポケットの中へ手を入れたが、その瞬間ニーナは新しい弾倉を装填したマカロフで素早くその男を撃ち抜いた。


「すまない……同志? だったものよ。何か弁明しようとしたようだが、傍目から見て銃を取り出そうとしたようにしか思えなかったよ。君たちに革命の戦士としての罪の意識なんて有ったのか?」


そう言うと次々と命令に違反し『反動主義に染まった』不忠極まりない兵士達をニーナは自らの手で射殺した。

そして一通り身内の粛清が終わると殺意の籠もった冷徹な目つきで皇族達へと向き合う。


「……ふう、やれやれ。ねぇ……選抜された忠実なる兵士たるスペツナズだろうと、あっさり欲望に負けて反逆しちゃうのは困ってしまうものだよ。さて、話は変わるが、貴様が皇帝セルゲイか。答えろ」


ニーナは父の頭部を蹴り飛ばしてそのまま首に軍靴で全体重をかける。

セルゲイは必死な形相で睨みつけるが喉に靴底を置かれている状況では言葉を発せられない。

母アレクサンドラが夫の悲痛な状態に対して叫ぶ。


「やめてください! 陛下はそれでは答えられません!!」

「やかましい! 貴様ら貴族達の特権階級がこの国に不平等の反動を齎したのだ!! だからこそ、世界に反動とは何たるか、社会主義による平等によって是正された完璧な社会とは何たるかを、貴様らの死をもって示すのだ!!」


狂気に酔い、己の信ずるゆがんだ共産主義に染まりきった新倉の眼差しは、最早理性の欠片さえ感じられなかった。


「だから貴様らは確実に殺す! 私達の赤き楽園の為に、労働者と農民にとっての理想郷の礎の為に!!!」

「せめて、せめてアレクセイだけでも!!」


そうアレクサンドラは叫んだが最早聞く耳さえなく、周囲を取り囲む兵士達は顔色がバラクラバ(目出し帽)越しにもわかるほど青ざめている状態であった。


「ならん!! 反動主義の血の台頭は避けねばならん!! 根絶やしの皆殺しだ!!!!」


そして、手足を縛られた皇族達は、離宮の側にある深い洞窟(かつての防空壕跡)に突き落とされるように、乱雑に全員投げ込まれた

暗闇の中セルゲイはこっそりと袖口に隠していた小型ナイフでアナスタシアの縄を素早く解いた。


「父様!」

「逃げなさいアナスタシア……。ここから右に行けば、この洞穴の裏口に出られる筈だ……。頼む、早く行け」

「でも、その洞穴なら父様も!」

「私も良く遊んだがあの穴は子どもの背丈なら何とか通れる程度の狭さだ。12のお前なら何とか通れるだろうから生き延びるためだけに行きなさい」

「な、ならアレクセイも一緒に!」

「あの子は……もう死んでる。真っ先にこの洞穴に投げ込まれたんだ、頭からいったようだ」

「な、なら……でも!」

「良いから行きなさいアナスタシア! 私達の為にも!!」

「……わかりました、父様。必ずや、必ずや父様達の仇を討ちますので!」


セルゲイは少しだけ優しく笑うとアナスタシアの金色の髪を撫でながら言った。


「そんな復讐などしなくても良い。お前はただ、幸せに生きなさい。それが私達の願いだ」

「…わかりました、父様っ!!」


そしてアナスタシアは涙を拭い泥だらけになりながら駆け出した。

直後、洞穴の中に激しい爆発音が響き、地面が揺れたがそれでも彼女は振り返らず真っすぐ逃げそして反対側の細い穴から外へ出られた。


穴の中から出た後、そのままアナスタシアは極度の疲労と絶望で気絶しそしていつの間にか――おそらく何らかの魔法の力か誰かの手引きによって――平原の国にたどり着いていた。



そして君塚摂政の邸宅に至ったのである。


その凄惨な過去の回想と、彼女の痛切な願いを聞き終えた後、君塚は少し冷徹な表情で考えると、アナスタシアへこう言い放った。


「すまないが、それは出来ない」

「……!!」


アナスタシアが絶望のあまり反論しようと反応する前に、君塚は続けてこう言葉を繋げた。


「出来ない。というのは少し語弊が有ったと思います。それは摂政である私の一存だけで決められない事です。我が国の最高権力者はあくまでヤドヴィガ殿下です。ですので、ヤドヴィガ殿下にこの件をお話しますから、結論はその後でお願いします」

「……わかりました。ありがとう御座います」


そうアナスタシアは聞くとグッと色々な感情を堪え、再び見捨てられるかもしれないという不安を押し殺して深く頭を下げた。

ただ一つの道へと進む為に

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