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何故現代兵器をファンタジー世界へ持ち込んではならないのか?  作者: ウォルギリウス
第八章

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悪は弱者とは限らない

しかし弱者は悪と嘯く者は居る

「……なんつーか、なぁ。すやすや寝てやがるよこの皇女様。凄い安らかな顔で寝てる。透のやつは一体何を考えてこれをわざわざ放置してたんだろうか」

「ええ、ご主人様。とても良い寝顔です。目覚めていると伺っていましたが、これでは……。まぁ、閉じ込め症候群(ロックドイン症候群)かもしれませんし、あの方のチート魔法ならそれすらも感知可能なのかもしれませんが」

「もしかして……うん、でも」


君塚悠里は夕食中に究極の愚弟(君塚透)から投げ込まれたメモを見て大慌てでアナスタシア殿下が寝かされている地下室に駆け込んで来た。

だが、その悲劇の姫君はまるで世界中の全ての苦難から解放されたかのように穏やかに寝息を立てて寝ていた。

深いため息をついて彼女の姿を眺めていると、護衛の為にメイドのつむぎと美雨が合流する。

あの異常なまでの君塚至上主義にしてヤンデレ総主教である透がすでに彼女の素性を確認しているだろうが、万が一アナスタシアに主たる君塚に対して害意が有るならばこの『保護』という名目は破綻しその場でこの小娘の息の根を冷徹に止めねばならないだろう。


「ね、念のため、心を読める魔獣を出して、彼女が本当に寝ているのか、気が付いて狸寝入りをしているのか確認してみます。ちょっと……虫ですけど」

「わかった。やってくれ。この寝坊助姫君が、虫嫌いで飛び起きてくれるなら尚更良しだが」

「わかりました」


美羽が指先を光らせると虚空から人間の腕ほどの太さがある『巨大な芋虫のような魔獣』が出現した。

それは粘液を滴らせながら彼女の身体に巻きつきそのグロテスクな顔と口吻を美しき皇女の額へとピタリと当てる。

正直、この悍ましい虫を『鷲の国皇室唯一の生き残り』へとのしかからせた件で後々何らかの国際問題や人権問題に発展した際には君塚が最高責任者として全面的に対処する予定である(胃薬と共に)。


「……思ったよりグロい絵面だったな……」

「うぅ……申し訳ございません。こんな事に成るなら、もう少し可愛い見た目の魔獣に……」

「大丈夫だ美羽。さすがに今回は俺に確認の責任が有るから何が有っても俺が被るよ」


そしてつむぎがアナスタシアの全身へ見えないほど細く強靭な糸を絡めるように展開し物理的な暴走を封じ込める。

そして美羽が展開している芋虫の魔獣が対象の脳波と精神波を探る。

これらの強固な手段で今眠るアナスタシアの反応を徹底的に探っていた。


「……念のため脈なども確認はしていますが特に変化はございません。息についても乱れるような事はなく、完全に落ち着いています」

「脳の反応も確認してますけど、何も出ませんでした……。そんな事なんてあり得るんでしょうか……? こんなにも重くて不気味な魔獣が顔に吸い付いてるなら、仮に寝ていても多分何かしら『不快感』の反応が有ると思うんですけど……つむぎちゃん」

「ええ。アナスタシア殿下は、とても優れた『女優』かもしれないわね。ただの可哀想な悲劇のお姫様と思っていたけど、それは間違いだったようね。ご主人様、この方は油断なりません」


メイドの二人組は自身のチート級のギフトを用いても決して尻尾を掴ませようとしない目の前の強靭な精神力を持つ皇女に困惑しつつ、主に警戒をするよう促している。


「……少しだけ、強制的な起こし方に心当たりが有る。すまないが美羽、魔獣のポータルでナディアを呼んで来てくれ。俺も今から寝坊助姫を起こす準備をするから、少し離れる」

「かしこまりました、ご主人様」

「つむぎ、警戒を続けてくれ。もしかしたら俺が今からここを少し離れてる隙に勝手に目を覚まして歩き回られるのも……ほんの少し、困る事になるかも知れない」

「かしこまりました」


メイド二人に指示を出した後君塚は邸宅の奥に備え付けられている武器庫へと向かう。

巨大な銀行の金庫のような武器庫の鍵を差し込み、ダイヤル錠で解錠すると多数の銃火器や防弾チョッキ、無線機等が陳列された棚が目の前に広がっている。

AK-12、A-545、PKPペチェネグ、VSS狙撃銃、6B45防弾ベスト、6B47ヘルメット……その他、ロシア製の最新軍用装備が所狭しと詰め込まれている。

君塚はその中から迷いなく、暴徒鎮圧やドアブリーチングに用いられる『KS-23』大型散弾銃(23mm口径という、もはや小型の大砲レベルの代物)を取り出し、対人用のシュラプネル-10(バックショット弾)を弾倉内に1発ずつきっちりと詰め込んだ。

そして地下室に戻って来るとナディアは夕食後のためすっかり艶やかな寝間着姿ではあったものの美羽の魔獣を通じて瞬時に到着しており、君塚の帰還を待っていた。


「お呼びでしょうか閣下」

「ああ、こんなタイミングですまないが単刀直入に聞く。君の『治療魔法』は具体的にどれだけの怪我を治せる?」


少しだけ悩んだ後ナディアは自身が明確に敬愛し、異性としても深く愛している摂政に向けて淡々と己の魔法のスペックを述べた。


「私の治癒につきましては流石に無から腕を生やしたり、死人を完全に蘇生出来る総主教(あのヤンデレ総主教)様程の治癒魔法ではございませんが……日々の鍛錬のおかげで損傷してすぐなら『千切れた腕を一から生やしたり』『砕けてしまった内臓の完全な修復』『致死性の毒に侵された者の治癒』は可能です。いかがされましたか?」

「分かった。ありがとう。なら、少しナディアには不快な思いをさせるかもしれないが……」


君塚はそう言うとそっとアナスタシアの顔の上に自身の右手の手のひらをかざし、そして左手でその『自分の右手』に向け、KS-23の巨大な銃口を向けてピタリと添えた。


「あの……閣下? いえ悠里? 何をされようとしてるのでしょうか……まさかでは有りますが私の治癒魔法を当てにされてるのは『これ』でしょうか」

「ご主人様、いけません。その様なバカな真似はよしてください。もし目覚めさせるだけなら、私の糸で指の骨でも折って目覚めさせられますから何卒ご再考を」

「え、えと……ご主人様にも何か深い考えがあるのかもしれませんけど、それは……自傷行為で済まないと思うんですが……」


愛してくれている女性達の必死の制止を振り切り君塚はそのまま表情一つ変えずにトリガーを引いた。

「ドガァァァァァァァァンッ!!!」

大口径散弾銃の耳を劈くような爆音が狭い地下室に鳴り響いた。

至近距離で放たれたバックショットにより君塚の右手はぐちゃぐちゃに吹き飛び、その激痛と衝撃に君塚の顔が歪む。

そして、君塚の右手から吹き飛んだ鮮血と肉片がベットで横たわる人形のような美しいアナスタシアの寝顔にビチャビチャと容赦なく降りかかりその白い肌を赤黒く染め上げていく。

流石に自分の顔面に『他人の吹き飛んだ生温かい肉片と大量の血』が降り注いできては、いかに強靭な精神力を持つ皇女であっても「寝たふり」を続けることなど不可能であった。


「閣下!! やはりその様な事をされるのですね!? 全く、無茶ばかりして……! 今すぐ治療いたしますから動かないでくださいませ!!!」

「……ひ、ひひ」

「ぐっ……痛ぇ……。やっとおめざめかな? アナスタシアさ――」

「ひやあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

「ひゃい!?」

「うわっ!」


アナスタシアの甲高い絶叫が、屋敷の中に響き渡った。

同時にナディアは即座に君塚の吹き飛んだ右手への治療を開始しこの深夜の異常な爆音と絶叫に流石に何事かと繭とゾフィアも飛び起きて駆けつけて来るのだが、状況の凄惨さ(顔面血まみれの皇女と、右手が無い君塚)に余計混乱が広がったそうだ。


所変わって、夜間の平原の国・国内軍の総司令部(スタフカ)

その一室ではコンスタンチン・ロコソフスキー元帥が部下の軍事訓練についての報告書が届き、それを一枚一枚鋭い視線で確認していた。


「失礼します、同志元帥」

「入れ」


副官はノックをして入室したが待ち侘びつつも来てほしくなかった書類の到着に内心で冷や汗が噴き出すように出ている。

入室してきた副官の手には彼の最大の懸念事項についてのデータが集められた報告書が来ていたがこの内容というのが極めて厄介であった。


「我が軍のソビエト共和国に対する進軍予定の地帯についてですが、こちらの極秘調査資料をまずはご覧ください」

「……ふむ、こんな時間までありがとう。受け取ったからすぐ帰りなさい」

「ありがとう御座います同志」


進軍する予定のヴォロネジ地区の土壌の極秘調査が完了をしたのであるが内容はあまりよろしくない記載が確認された。


「戦車部隊の進軍に対して、極めてよろしくない泥濘地帯が幅広く広がっており、既に『泥濘期ラスプティツァ』に突入しつつある」という報告である。

これは大規模な機甲部隊の侵攻には全く向かない地帯であり、もし無理に侵攻されれば仮にソビエト軍の防衛線を撃破し反撃する際にも自軍の足が止まり甚大な苦戦が強いられるのがほぼ確実であるのが明白となったのだ。


直接国境を接しておらず龍の国を経由して侵攻する手筈だがもし侵攻すればこの底なしの泥濘に足を取られて装甲車が座礁(スタック)し長大な補給車列がノロノロと平原で立ち往生する光景が広がるかもしれない。


おそらく彼の友人であり猛将であるゲオルギー・ジューコフ元帥がこの報告を見たら、即座に舌打ちをした後「どうすればこの泥濘を突破できるか」自分とか様々な将帥を徹夜で連行して策を練り工兵の無理と圧倒的な物量で攻め潰す強引な作戦を立案しただろうが、残念ながら彼はここには居ない。


その代わりこの軍には傲慢でコミュニケーションに難があるものの機動戦の才覚は確かなミハイル・トゥハチェフスキー元帥や単純に実務家として頼りになるアレクサンドル・ヴァシレフスキー元帥が居る。

彼らと共に策を慎重に練ってからあの大軍を擁する『汚らわしい偽ソビエト(ソビエト共和国)』へ進路を向ければ良い。そう、ロコソフスキーは思っていた。


だが、もう一つの不安要素が彼らの準備時間を全力で削いでくる。

敵のRT-2PMが中核となる弾道ミサイル部隊の矛先は平原の国へと既に明確に向けられている。

各地の通常のソビエト軍部隊は旧帝国内の「浄化作戦」に投入されているが、このミサイル部隊と冷徹なスペツナズ部隊は常に視線を平原の国へ向けていることである。


スペツナズは通常戦力とは異なり彼らが国境の目を掻き潜って平原の国へ浸透することは理論上可能である。

そして首都ズラトポルを荒らし回って各地方都市で破壊工作を行ない、国内軍の指揮系統を麻痺させるのも一応やろうと思えば可能だ。

敵のスペツナズ部隊はそれなりの規模であるとスドプラトフの情報網から報告が来ているし、何より彼らが国力差故「正々堂々と正面から」こちらに挑みかかってくるような愚行はしないだろう。


だが、開戦時に生じる不確実なリスクを今深く気にしていたとしても意味は無いだろう。

とにかく今は早く開戦した際の作戦計画を練り上げそれから大規模な軍事演習を行なって、ソビエトの防衛線を突破する算段をつけ一日でも早く我々の戦争準備を整えなくてはならない。


起きた時は起きた時だ。


そうロコソフスキー元帥が思考を切り替えようと考えていた時、ふとある嫌な可能性に気づく。


そう言えば、もし敵のスペツナズが『摂政閣下の邸宅』を直接襲撃した場合は我々国内軍の損害や指揮系統への影響というのはどうなるのだろうか?


情報部のトップであるスドプラトフ中将が何か防諜の対策をしているなら良いが、万が一、君塚悠里が無力化、あるいは拉致され新倉の意のままに成るような最悪の事態が起きたなら?


もし国内軍の最高指揮権を君塚悠里の身柄を用いて乗っ取ることが出来るなら、あのような狂気の王国を築き上げる女傑だ。

可能性が少しでもあるなら、やるだろう。


「……こんな事はあまり聞きにくい事は承知の上だがやむを得ん。明日、他の将軍達の為にも一度スドプラトフや摂政閣下にその『最悪の場合』について尋ねてみよう」


後にロコソフスキー元帥のこの憂いはある意味で最悪の形で当たっていて、そして国内軍を激しく悩ませる事態が起きることになる。


「さて、草案はある程度進んだし、そろそろ帰宅するか」

「んっぐぉぉぉぉぉ……すぷゅぅぅぅぅ……」


帰宅のためにロコソフスキー元帥が執務室を出て廊下に出ると、隣のヴァシレフスキー元帥の部屋から見事な地鳴りのようないびきが聞こえてくる。


「まさかな。まぁ、な」


ロコソフスキー元帥は見なかったことにして立ち去ろうとしたが。


「んぐおおおおおおお……」

「ああ、こりゃまずいな。過労死してしまう」


ノックして内部を確認する。


「同志、同志ヴァシレフスキー! 居るか?」

しばらくしてドタバタと書類の山がなぎ倒される音が聞こえてくると、軍服のシワが各所に見られ目の下に深いクマを作ったヴァシレフスキー元帥が出てきた。


「同、同志ロコソフスキー。いかがされたかね?」

「口からよだれが垂れているぞ同志。一体何が有ったというのだ?」

「あ、ああ、失礼。少し面倒なことに成りまして……。まぁ、ソビエトへの侵攻作戦計画において、前線への物資輸送の件で、フルレフ上級大将と激しく協議していたのですが……」

「なるほど。補給線があの泥濘(ラスプティツァ)の地帯を通るなら脱落した車両やスタック等で失われた物資の兼ね合いも計算に入れる必要があるからか」

「ええ。ですので、明日また協議せねばなりません。明日までに、です」


机をチラッと見ると強壮剤のカフェイン飲料や大量のコーヒーの空きパック等が散らかっていて、パソコンの電源はまだ煌々と付いていた。


「私も少し手伝おう、同志よ。これは我々国内軍全体に関わる、死活問題だからな」

「よろしいので? もう日付が変わるかもしれませんが」

「ああ、かまわんさ。それに完璧な資料が出来なくて本番の泥濘で無駄に血を流し苦労するより、今書類の山で苦労する方がずっと良いだろう」


ヴァシレフスキーは少し躊躇ったが、この絶望的な計算量を一人でこなす背に腹は代えられないので、素直に頷いた。


「ありがとう御座います、同志よ」

「さぁ、共に我らの新たな勝利の旅路の計画を練ろうではないか」


こうして二人の優秀な元帥は日付が変わっても眠ることなく、どうにか「赤い帝国」を打ち破るための泥臭い戦争計画を練り続けていた。

そして一歩一歩近づく足音

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