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何故現代兵器をファンタジー世界へ持ち込んではならないのか?  作者: ウォルギリウス
第七章

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赤く燃える海と締め上げられる胃袋

戦争は続く

恐らく総司令官同士が前線で直接殴り合う海戦なんてそうそうないであろうとは思うのである。

少なくとも20世紀中盤以降は総司令官は安全な後方の司令部にこもり戦争勝利の為に参謀本部にてどう動くかを決定する立場であり、実際の戦線は現場の艦隊司令官が指導するのである。


今時元帥は決して前線には出てこないのだ。そう、書類や手続き上の問題で仕方ないとは言え作戦に基づき戦闘中の軍艦の中に最前線で放り込まれた悲しきレーダー提督は何かの間違いであると思わなくてはならないのだ。


この海戦の戦略目標は、簡潔にまとめると以下のようになる。

・ブルグント側:制海権の確保による、高地の国への奇襲上陸攻撃の為の航路の確保。

・高地の国側:そのブルグント側の目論見の、完全なる粉砕と阻止。


「急げっ! 回避が終わり次第、全艦直ちに隊形へと戻れ!! 散らばれば奴らの餌になるぞ!! 死にたくないなら応射の用意だ!!!」


数隻のミサイル艇が炎を上げて沈んでいくのを見たブルグント海軍総司令官ヴァルデマール・ヴェルナー提督は、急ぎ回避完了が出来た艦艇から随時隊形を立て直すように命じた。

被弾して轟沈していく軍艦から生き残っている水兵達が何とか海面に飛び出て友軍艦艇まで泳ごうとしたが、ブルグント海軍の艦隊は救助どころではなかった。


我先にと対艦ミサイルを撃つ準備をそれぞれ個別に行っていて艦隊は混乱しているが、高地の国国防軍艦隊は構わず単縦陣を崩さず冷徹に攻勢を継続する。


何故か両国の『海軍総司令官』がこの海域にて自ら艦隊を直接率いて攻撃し合っているが、現実世界の海軍関係者が見たら冷笑しているだろう。

『お前の国の海軍は、前線を任せられる将軍が足りてないのか?』と。

それはある意味当たっている。そして本人たちは悲しそうな目で他国の海軍関係者を見つめるか、愚痴るだろう。別に減らしたかった訳では無いし提督職を務められる人物は居るのだ。

だが今までは『不必要』だった。ただそれだけなのだ。

ブルグント海軍はヒムラーの軍事センスの欠如と権力バランスの都合上、高地の国国防海軍はエリカの省人化と効率化の目的で、それぞれ同じ様に海軍将校の大規模降格と再編を強引に進めた結果であり、どちらも提督職の極端な削減を行った結果総司令官が前線に出ずっぱりにさせられる過労死体制に成っているのである。


「良い感じに敵陣形が砕けたようだ、よしよし。なら次は何をするべきか分かるだろう諸君! ミサイル攻撃だ、斉射しろ!!」


レーダー提督は機嫌よく全艦に命令を発した。命を受けた艦長達はすぐさま一斉射を命じ、各艦の砲雷長は艦長からの命を受け急ぎ発射ボタンを押した。


高地の国国防軍艦隊はそのまま前進を続けており、敵が潜水艦の撹乱攻撃によるダメージから立ち直る迄に距離を詰め、敵のミサイル攻撃よりも先にエグゾセやハープーン対艦ミサイルを一斉射で叩き込み、壊滅させようとした。

――ちなみに、最新型のNSM(海軍打撃ミサイル)は今回の戦争では費用対効果の観点から使用されず、旧式の対艦ミサイルの投入が決定されている。実際の所、敵艦隊の装備や防空システムの観点から「旧式の装備でも十分に突破可能であり、恐るるに足らず」と言う評価が下されていたからだ。今回の海戦の様相からしてその評価は強ち間違いでは無く、消費期限が危うかったハープーンやエグゾセの在庫処分にはうってつけの相手であったようだ。


しかし、無音潜航している潜水艦隊の雷撃により混乱の中に突き落とされていたブルグント艦隊側も反転攻勢の準備を終えていた。

オーサ級ミサイル艇が燃え盛る中、ブルグントが誇るコルベット艦隊は反撃の為に一気に3M24『ウラン』対艦ミサイルを放ち国防軍艦隊の放った対艦ミサイルを回避すべく転舵する。


「やはり来たか。全弾迎撃しつつ回避機動を取れ!! そして潜水艦隊に再度雷撃せよと命令をせよ、このまま主導権を握らせるな!!!」


国防軍艦隊へと飛来しようとした対艦ミサイルはザクセン級フリゲートの強固な防空システム(SM-2およびESSM)に次々と迎撃され叩き落とされる。一方でブルグント艦隊も対空火器で迎撃している艦艇は居たものの大半は防空能力の低さから回避機動を再度強いられている。


艦隊はお互いに回避と防御を取らされたがブルグント海軍が劣勢である事は火を見るよりも明らかであり、既にパルヒム型コルベットが4隻沈んでいる。

他にもオーサ型ミサイル艇が一隻、損傷が激しく国防海軍へ向けて特攻めいた回頭を見せ奇跡的に無事だった最後のミサイルを撃ち尽くすと乗組員は退艦し他の軍艦に救出されていった。


「……まぁ、やむを得んな。まだ戦力が有るうちに撤収だ。全艦へ、本国まで撤退するぞ! 全滅しなければ、負けていない内はまだ勝てるかも知れんのだからな!! 希望は捨てるな同志諸君」


これ以上の抵抗が無意味な消耗を招くと悟ったヴェルナー提督は後退を命じた。命令が発せられ、艦隊は速やかに撤退の準備を始め秩序だった撤退戦が開始されている。


「こんな所で逃がしてやる者が居るか! ここで年貢の納め時だ、憎たらしいコミュニストの海軍め!! 追撃だ、地の果てまで追いかけろ!!!」 


国防海軍はレーダー提督の命により追撃を開始したがヴェルナーは小型艦艇に散開を命じたので一隻一隻への追撃が難航し、更に「この先は敵空軍のエアカバー領域に入る」という件について参謀から指摘された。飛来して来るであろうSu-25やSu-22M4の対艦攻撃から逃れる為、レーダーはやむなく追撃を諦め引き返した。


こうして高地の国国防軍と騎士団領ブルグントの海戦は国防軍側の圧倒的勝利として幕が降り、高地の国はブルグント海軍の揚陸艦隊を自身のシーパワーのみで完全に封じ込める事に成功した。

今や海は高地の国のA2/AD(接近阻止・領域拒否)ラインと化しており、ブルグントは海にゴミを捨てる事さえ出来ないのである。


そしてヴェルナー提督から敗戦の報せを受けたハインリヒ・ヒムラーは、ガタリと椅子から崩れ落ち、その際に手に持っていたコニャックのグラスを床に落としてしまった。

ショックのあまりデスクに広げていた『粛清する者のリスト』が酒でビショビショに濡れ、名前が滲んで読めなくなり彼の脳内からも「誰を、何処の民族を粛清し、どの国を次に攻めるか」の計画がもう分からなく成ってしまったのだ。


「……こ、これは本当に、本当に本物の報告かね? こ、このような馬鹿げた不忠なる報告は聞いたことがない。や、やはり、やはりコミュニストの旧東ドイツ軍人など信用――」

「閣下、申し訳ございませんが不忠なる報告ではございません。現に我らの軍港にいらっしゃれば我が海軍に何が起きたか、無残に傷ついた艦艇や傷付いた将兵の姿を閣下の目でご覧いただけると思われます」

「馬鹿なことを言うなぁ! こんな……こんな事が……あぁ!!」


取り乱しているヒムラーは目の前の絶望的な敗北の報告を心で受け入れられず、何とか否定できる証拠が欲しかった。

だが、取り乱しているヒムラーを宥めるように空軍を掌握しているハインツ・ケスラー上級大将が進み出て救いの一手を提案した。


「全国指導者閣下、私に一つ現状を打破する策が御座います。どうかお聞きいただいてもよろしいでしょうか?」

「な、なんだケスラー。案が有るなら言い給え。私は今忙しいんだ、手短にな」

「はい。なら、奴らの艦隊を我が国の領海内に引き込み、我らの空軍で『飽和攻撃』を仕掛け物量で押し切ってやれば良いのです。最新の軍艦といえど、同時に対処出来るミサイルの量はたかが知れています。まだ旧式のMiG-21は余りに余っており、これを100機爆装して飛ばせば奴らの艦隊は間違いなく沈められます」

「……そうか、なら君に任せたいが、出来るかね?」

「お任せを。奴らの艦隊を、歴史的用語に変えてみせます」


ケスラーの力強い言葉にすっかり機嫌を直したヒムラーは軍高官たちに対して態度を軟化させつつ、自身から発せられる嫌な汗とアルコール臭を消す為に香水を振りかけた。


「分かった、ではヴェルナーと共に具体的に内容が決められたら私の所に来たまえ。他には報告はないかね?」


そう聞いたがその場にいた全員が提案や異議、質問をすることなく、そのまま解散した。

だが、会議室を出た直後、将軍達はケスラーに向かって勢い良く詰め寄っていた。


「一体どういうつもりだ同志ケスラー! 我が軍の航空戦力がダヌビウスの山岳戦で大いに損耗している事は私も知っているさ!! あんな実現不可能な大見得切ってどうしたいんだ、我々全員をあいつに銃殺させたいのか!?」


ヴェルナー提督はケスラー上級大将に向かって激しく詰問する。

彼は自身の艦隊戦力が奴らの艦隊の餌にさえ成れない程磨耗した状態であり、提案した「空軍の支援下での作戦」などなけなしの艦隊を送ることさえままならない自殺行為であることは明確であった。


「分かってるよ同志ヴェルナー。あのオカルトファシストのクソ眼鏡に、有能な提督である君の首を切らせない為に庇い立てしただけさ。だが君にとってこれは『貸し』だ。後で返してもらうぞ」


空軍は既にダヌビウスでの作戦中に部隊はほぼ半壊し、MiG-29Aはほぼ可動機が存在せず、MiG-21もbisだけでなく偵察型のRや複座練習型のUが強引に戦線に投入されるような悲惨な状態であった。もし艦隊をブルグント内に引き込めたとして空軍の性能面では高地の国海軍の防空網を突破出来るわけがないと、ケスラーは冷静に考えていた。


「適当に考えたプランの書類を作って渡して、海空軍が健全に作戦行動を動いているフリをするぞ。私達の命を1秒でも長くするんだ」

「……情けないことこの上ないが、仕方ない。偽装された作戦行動を積極的に行っていくとしよう。これも我らの為だ」


海空軍の命を、そして部下たちの命を無駄に散らさない為に、二人の重鎮は主を裏切り――いや、主を敵に回して、この地獄のブルグントを生き延びることにした。


一方、ヒムラーは一人になった執務室で重度の胃痛が酷くなっていたが、彼は予め用意させていた『怪しげな魔術のポーション』の瓶を口に咥え、それを一気に飲みほして痛みを誤魔化していた。



そんな中ダヌビウス戦線では大きな動きが起きていた。


発端はブルグント側のミュラー中将が戦線の立て直しを行う為に一旦軍全体を後退させ、高地の国陸軍の突出を誘うという遅滞戦術をとったのだが見事にこの罠に引っ掛かって激しく突出した部隊が居たのだ。


ヨーゼフ・ディートリヒ上級大将の率いる武装親衛隊派の師団である。

だがこの部隊は罠と知ってか知らずかそのままブルグント領内へと深く侵入し、激しい抵抗を見せる敵軍に対しむしろ大規模な反転攻勢の姿勢で噛みついていた。


「行けー! 女帝陛下の御名の元に、奴らの薄汚い血で我らの汚名を雪ぐのだぁ!!!」

「『親父』どの! お下がりください!!最前線は危ないですから!!!」

「離せぇ! ワシのことは気にするな! 早う突撃だ、突撃するのだぁ!!!」


航空支援を受けた上で前進しており火力と勢いについてはブルグント側を圧倒していたが、いかんせん後方との連絡線を無視して突進したため高地の国陸軍の他の部隊との連携が取れず、攻勢が当初よりは鈍っていた。

後続の国防軍部隊は分厚いスチームローラーのような機甲師団の歩みに合わせた大攻勢を行っているため、突出したディートリヒ上級大将の師団を今すぐ救出出来るか不明な状態であった。


そんな大混戦の中、とある二人の兵士が最前線の最前線で獅子奮迅の槍働きを見せていた。


「フェーゲライン! フェーゲライン!! 私に遅れるなフェーゲライン!!!」

「はっ! 伍長殿!」


伍長はスパイク式銃剣を粘着テープでぐるぐる巻きにくっつけられたワルサーPPKを2丁携えて、ブルグントの兵士達を次々と薙ぎ倒して……薙ぎ倒して……マガジンを素早く交換して……そう、2丁拳銃で近接戦闘の無双を繰り広げていた。


――いや、何で倒せてるん? そんなナメた装備で、重武装の兵士相手に何で生き残れてるん??

フェーゲラインのKar98kとMP40は歩兵装備としてまだ分かるが、伍長は何なの? 伍長は、エリカから渡されたクソみてぇな極刑仕様の嫌がらせ装備で、何で最前線で大活躍してんだよ。


「フェーゲライン! フェーゲライン!! 私の背後の援護を!!」

「了解であります伍長!!!」


閑話休題(それはさておき)

敵軍の陣地の奥深くに拳銃とボルトアクションライフルだけで吶喊し、殴り込みをかける謎の二人に狂気と恐怖を感じたブルグント兵は激しく動揺しすっかり後退してしまったが、今度は彼らの所属している小隊が完全に孤立してしまった。


だが、伍長たちを包囲している側のブルグント兵はダヌビウス戦線で酷く疲れ切っている者も目立ち、安全な塹壕内で十分な休息を取っていた国防軍兵士達とは疲労度が全く違った。


ブルグント兵は息を切らしつつ手に持つMPi-AK-74Nを寒さと恐怖で震えながら構える事しか出来ず、対する国防軍兵士は最新のG95アサルトライフルを鋭く油断せず正確に撃ち込むことが出来た。


高地の国はただひたすら耐え抜けば勝てる。ブルグントは絶え間なく攻め続けなければ死ぬ。

戦争の理とは、何と非情で単純なのだろうか。



高き地より、敵であるあなた達へ

我らの勇気は、あなた達の狂気に勝った

見よ、我らの兵士達の勇姿を

旧友たちは隊伍を組んで、決死の覚悟で立ち向かう

あなた達の悪意に向けて、冷徹に銃口を向ける

炎に赤黒く照らされたあなた達の野望を、ここで打ち砕くのだ

統治者が望む限り

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