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何故現代兵器をファンタジー世界へ持ち込んではならないのか?  作者: ウォルギリウス
第七章

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谷底に響く悲鳴

谷底のキャンプファイヤー

「あーららぁ、だから普通は分かりやすいあんな街道を縦隊で走るのはやめろって。士官学校で耳にタコができるくらい教育されんのになぁ」

「お陰様で、眼下で吹っ飛んだ敵戦車の火災の灯りで夜も明るいぜ」

「おかげで本も読めるが、明るく照らしてくれるせいで寝にくくて仕方ねぇよ」


夜が更け、冷たい山風が吹き抜ける塹壕。

欠伸を噛み殺し目をこすりながら立哨しているダヌビウス合衆国の山岳兵と高地の国国防軍兵士達は眼下の谷底に広がり煌々とした光を放っている『かつてブルグント軍の機甲師団だった残骸』を眺めていた。

手にしたタバコをふかしながら見下ろすこの光景は開戦から半月程毎晩のように繰り返され、高地の国の国防軍から派遣された増援部隊の兵士たちもまたこの一方的な蹂躙の光景にすっかり慣れきっていた。


塹壕内で喫煙することは本来なら自身の位置を敵に晒す行為で有り夜間戦闘における自殺行為の1つで有った。

しかしブルグント軍の内部で上方の塹壕に向けて正確な反撃を行える者や活動的なブルグント側の狙撃手は今や一人も存在せず、ただ高地の国の陣地から一方的に届く攻撃に怯えきり雪と泥濘に伏せているだけだったのだ。


ファルケンシュタイン山道やゼーフェルト峡谷の中を通る狭い街道ではあらかじめ幾重にも地雷原が設置されていた。

随伴歩兵を展開せずに突撃してきた戦車部隊の先頭が吹き飛び、それに気付いた後続が慌てて停止する。

しかしこれらの車両は険しい隘路の為欄座した車両を避けるために横に逸れて陣形を展開することもUターンして後退することも出来ず、完全に立ち往生したまま街道上に展開させられた。


高地の国の本隊が到着し始め緩やかに、しかし確実に死の包囲網で締め上げられていたブルグント軍は今や完全に攻勢限界点を迎え、具体的な打開策もなく絶望的な守勢に回らされている。


そこを山肌に陣取ったダヌビウス兵が撃ち下ろすL16迫撃砲やスパイクLR対戦車ミサイルが雨あられと降り注ぎ、ブルグントの誇る機甲師団は文字通り『蓋をされたびっくり箱』として壊滅したのである。


つまりこの戦場に有るのは激しく損耗し限界が近付いているブルグント軍だった群衆とほぼ無傷に近い状態で余裕を保ち高地に陣取る国防軍達である。

要塞線は突破出来ず谷底に死体や車両の残骸が積み重なるだけで崖上に展開し塹壕内のダヌビウス合衆国は全く損失を出さず敵に消耗を強いていた。


そのあまりにも悲惨かつ軍事の基本すらわきまえていない拙い戦術を見て恐らくヒムラーが直接前線に介入していると見た伍長は呆れ果てたように呟いた。


「…全く、どうしてあ奴はこの世界に来ても軍事的センスが皆無なのだ。どうせならフェーゲラインも居たら…いやあれが向こうに居たらもっとブルグント軍は善戦していたか─」

「お呼びですか伍長」


隣からかつての覇気を完全に喪った、すっかり窶れ見窄らしい姿のヘルマン・フェーゲラインが弱々しくぬるりと現れる。

その変わり果てた姿に在りし日の野心家だった彼を知るアドルフはギョッと驚き、すわ敵兵か幽霊かとたじろぎながらも目の前の元・義弟に対し声をかけた。


「!? フェーゲライン、貴様何故此処へ…」

「お懐かしゅう御座います閣…伍長、フェーゲライン特務二等兵、偉大なる陛下のご命令により伍長殿の指揮下に入るよう指令を得て参上いたしました」

「に、二等兵!? 一体貴様に何が有ったのだフェーゲライン!?? というか、その格好は何だ!!」


彼が過去に身に纏っていた武装親衛隊の制服を着せられていて階級章も確かに二等兵の物を襟に付けており彼は武器としてスコープの付いてないKar98kとMP40を装備している。


「これには少々深いわけがございまして…陛下のご命令では有るのですが…」

「…話したくないならもう良いぞフェーゲライン特務二等兵」

「ありがとうございます…」



フェーゲラインはとある件でつい君塚を「アホの猿が知能が劣っているコミュニストとつるんでいるのは笑いの種だ、陛下も一度付き合う相手を考え直したほうが良い」と宴会でつい不用意に侮蔑する発言してしまった事を密告されその件で激怒したエリカは彼から師団長の役職を剥奪、そして階級の大幅降格処分を断行した。

ついでにその場で「コミュニストも仕えるべき主が居たら強盗は辞めたようですな」と別の不適切発言が発覚したゲーリングは3ヶ月の減俸処分が行われたが階級並びに役職の剥奪は無かった。


「フェーゲラインよ、私は貴様に久しぶりに会えて良かった。この見知らぬ泥沼の戦線で見知った顔が1つでも見れて良かったよ」

「私も嬉しゅうございます、伍長殿」


そう二人は塹壕内で身を潜めながら言葉を交わし、眼下の敵兵達を見る。

ブルグント軍は潰走した部隊と狂信的に抵抗を続ける部隊との2部隊に分かれていた。

ミュラー中将の率いる部隊の内まだ1個旅団相当の戦力が山肌に張り付いて絶望的な抵抗を続けており、それはブルグント兵の精強さを物語っていると同時に上に恵まれなかった彼らの深い悲哀を感じさせる場面であった。


「ヒムラーの奴は何を考えているかは知らんが親衛隊騎士団領ブルグントとは確かに構想として有ったが…ここにはブルグントも無ければ、武装親衛隊の要員は我が軍にほぼ属しているのに、何故あれは親衛隊を名乗れたのだろうな…この世界にはユダヤは居ないのだが」


伍長が一人ヒムラーの大いなる夢を見せられ困惑している中フェーゲラインはタバコに火を点けブルグントのある方向を見ながらふと帝国に仕える者達を振り返りながら言った。


「私の前で喫煙はやめんか貴様。受動喫煙というハラスメントで陛下に訴えてやろうか」

「これは失礼しました伍長。……死んだ後も狂い続けられる者の考えなど我々には推し量りかねるものですよ、伍長殿。我々も死後、このような帝国を築きそして我々の望んだ『完全な帝国』が完成したからこそ狂気が薄れ、必要悪を考えなくても良くなり、次第に狂気を無くしていったのですから。今更あれのような血みどろの執念を抱く必要が無いからです。牙を抜かれた犬が狼に戻れる訳が無い」


フェーゲラインは折角火をつけたタバコを地面に落とし軍靴の足で消した。

高地の国は伍長が文句の付けようがない大帝国として君臨しており、前時代的で非文明的な現地の生贄や村落での口減らしの風習を断ち切り国家そのものを高度な文明社会へと強制的に進化させた。

その辿り着くであろう果ての凄惨な犠牲を覚悟していた彼らだが、思いもよらない事にエリカという『怪物的な為政者』による近代化はほとんど代償を伴わずそれらを達成し、近隣諸国との間に圧倒的な文明レベルの格差を見せ付けることに成功したのである。


その結果帝国は西方世界の中核を成す列強国家として存在し、今も尚その丁寧にカットされたダイヤの如き輝きがくすむ事は訪れる事はないであろう。

その繁栄を妬むかのように、そして因果応報の概念が体現したかのように現れたのは騎士団領ブルグントである。

そして高地の国は己の過去の亡霊との決別の為に、来たる正義の使徒達として彼らを迎え撃っているのだ。


「ヒムラーの奴は何を考えているかは知らんが、親衛隊騎士団領ブルグントとは確かに構想としては有ったが……。我々の『真の帝国』がここにあるというのに、あんな血と泥に塗れた紛い物を作ってどうする気だ? ユダヤ人もいないこの世界で、一体何を…いや誰を迫害しているのやら」

フェーゲラインはもう一度取り出したタバコに火を点け、ブルグントのある方向を見ながら呆れたように言った。


「だからやめんかと言ってるではないか!」

「失礼しました。なら何処かで吸ってきますので暫く離れます」


フェーゲラインは肩をすくめ、タバコを吸うために歩兵用のライフルを担いで塹壕の奥へと消えていった。


一方でその後方である親衛隊騎士団領の首都では、ハインリヒ・ヒムラーが『粛清されるべき者のリスト』を几帳面に閲覧しつつ、国内の発電量や核爆弾の開発状況等を示すグラフを確認していた。


「ふむ…発電量はノルマ自体は達成済みか…ならもっとロドモ発電所には頑張って貰わないとな。それと核開発は概ね順調に進んでいると…労働者共はもっと働かせて─」

「失礼します。全国指導者閣下」

「おお、アイヒマンか。例の件、調査は完了しているかね?」

「はい、偉大なる全国指導者閣下。不忠なる愚かな輩の一掃のため適切なルートからの炙り出しが完了いたしました」


入室してきたアドルフ・アイヒマンは独り言をしていたヒムラーに分厚い報告書を携えて来ていた。

その報告書とは騎士団領内に潜んでいる『反体制派の武装勢力』についての詳細な情報である。

これらは高地の国の情報部と手を結び、反乱を起こして奴隷達を解放しブルグントの経済計画を崩壊させようと暗躍している事を正確に把握していた。


ヒムラーは報告書の内容を一瞥し、アイヒマンを見てコニャックを一口飲んだ。

そして、自身に酒を注いだ背後の奴隷の顔面へ空になった分厚いグラスを『事務的な手つき』で思い切り投擲した。

「ガッ!」という鈍い音と共に奴隷が鼻の骨を砕かれて昏倒し、鮮血が美しいベージュ基調の絨毯を汚しても、ヒムラーの表情は1ミリも動かない。


「騎士団領の為にならないようなノロマな奴隷は不要だ。……ところでアイヒマン。このリストの者達はどうする予定かね? 早急に対処する必要が有ると思うが」

「ご安心ください閣下、私は彼らに対して既に対処しています」


満面の笑みを浮かべ自信満々なアイヒマンの姿を見て、ヒムラーはこの側近が提出した報告書に『事後処理』についての記載が無かった事についても確認しようと思った。


「ほう、どのように対処したのだねアイヒマン?このような劣等人種どもに不和を齎して裏切らせあったのか?」

「いえ、むしろ団結させました。彼らの中に反体制派の存在を与え、そして管理者達の中にわざと彼らへと物資を横流しさせて泳がせております」


眉を顰めヒムラーは訝しげに目の前の側近を睨むように見つめる。


「…一体どういう事だ?まるで敵の団結を君が敢えて煽っているように思えるが」

「はい。その通りです閣下、お陰様で奴らのメンバーや思想、そして所在について調べ上げる事に成功しました」

「どうやってだね?敵は憎きあの第三帝国もどきから支援された上で対抗を試みているのだぞ??下手をすれば国内が火の海になる」


アイヒマンは堂々とした態度で、尚且つ分かりやすいワードを選択し己の行った行いについて自らの上官に噛み砕いて解説した。


「簡単な話です。奴らの反体制派の中核に我々の工作員を据えたり、後は反体制派を我々自身で立ち上げました」

「……成る程。それであれば、不満を持った愚か者たちは自ら進んで『我々が用意した反体制組織』に合流し、反旗を翻す準備を整えようとするわけだ。そして、それを我々は名簿付きで把握した上で一網打尽に対策してしまえば後は大丈夫だと」

「さようでございます、閣下。反乱の火種は我々の手のひらの上でコントロールされた焚き火に過ぎません」

「見事な自作自演だ……。それなら確かに、反体制派のコントロールは完全に完了しているから何も問題は無いな。よくやったアイヒマン。これで我らの騎士団領の純血は護られたぞ」

「ええ。マルクス・ヴォルフ等のコミュニストの古い戯言は、我らの崇高な理念からして信用成りませんからね。何が秘密警察か。彼らのやり方より私の策のほうが遥かに効果てきめんでした」

「うむ。君には大いに期待しているよ、アイヒマン。これからもその方針で、対パルチザン工作と『衛生的な処理』を頑張り給え」

「かしこまりました閣下」


こうして、騎士団領ブルグントは(極めて非人道的な方法で)内憂を取り除くことには成功した。

だが、ヒムラーがアイヒマンの報告を聞いて満足している正にその間にも彼のデリケートな胃を激しく痛めつけるような決定的な軍事的敗北が、海上で起きていた。



大陸の沖合に浮かぶ、エーリヒ・レーダー元帥が率いる高地の国の艦隊は、防空フリゲート『ザクセン級』を先頭にした縦長の単縦陣を組み、沖合から侵攻接近して来たブルグント海軍の迎撃に回っていた。


「何で陛下は私だけ提督として現役で残されたのか未だに分からん……。おかげで私がこの様な大艦隊を前線で直接指揮せざるを得ないように成ってしまったではないか……」


提督職はエリカによる徹底的な軍政面での効率化と適正化の為、レーダーただ一人だけでありオットー・シュニーヴィント上級大将は今やザクセンの艦長として大佐階級である。

他にもオットー・チリアクス大将やヴィルヘルム・マルシャル上級大将も軒並み大佐階級へと降格され、フリゲート艦の艦長職を拝命している。


つまり実務的に艦は指揮できる階級は多数居るが艦隊を指揮できる書類上の階級はレーダーしか居ない、そこまで徹底的に効率化されてしまった組織である。

だが艦隊は(ブルグント海軍に比べると遥かに)壮観なる陣容であり、かつてレーダーが目指したクリークスマリーネを体現しているような艦隊である。


「陛下に増強してもらったは良かったが私が海戦の度に呼び出されては身が持たんぞ…艦艇数増やしてもらったし、今は国家人民軍の連中の嫌がらせに対抗出来てるが」


現地人で構成される国家人民軍はグラーフ・ツェッペリン級航空母艦やビスマルク級戦艦といった国防軍が持たない類の巨大なロマン兵器を見せびらかしながら国防海軍を嘲笑う事が有ったがこれなら主力艦艇の数で侮られる事は無いだろう。

ザクセン級をはじめとする最新鋭のフリゲート艦は22隻も居るのだからわざわざ奴らの愚弄を気にせずとも艦隊は悠々と沖合で軍事演習が行える、こんなにも気楽な仕事になるとはレーダーは思っていなかった。


海戦開始直後、艦隊の最前列である海中深くには、AIP(非大気依存推進)を備えた極めて静粛性の高い212A型潜水艦が密かに潜航しており、水上艦隊との接敵までに敵の撃滅を狙い、単横陣で展開しつつ待ち構えていた。


(恐らくデーニッツなら、開戦直後に潜水艦隊の群れ(ウルフパック)を差し向けて、既にブルグント艦隊の半数は殲滅出来ていただろうがな……)


そんな事を考えながらレーダーは潜水艦隊からの報告を一つ一つ丁寧に聞く。

これらの報告は今後の艦隊の機動に深く関わる非常に大切な情報だからだ。


敵はタランタル級コルベットやパルヒム型コルベットといった旧東側の小型艦艇の隊列である。

それらを射程に捉えると212A型潜水艦隊は一斉に長魚雷を放ち、敵艦隊に奇襲攻撃によるショックと回避を強要させた。

静かな海中を切り裂くように進んだ幾つかの魚雷は旧式のソナー網を容易くすり抜け、正確に敵艦の喫水線下へと命中し小型艇を次々と巨大な水柱と火の玉に変えた。

まるで艦隊の艦種だけ見ると中堅規模国家同士が持てる技術をぶつけ合うような、しかしシステム的に見れば近代的な海戦の火蓋は切られたばかりである。

だがしかし、その勝敗の帰趨は両軍の兵器の世代差から見てすでに決まっているも同然であった。

赤黒く海面は揺れる

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