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何故現代兵器をファンタジー世界へ持ち込んではならないのか?  作者: ウォルギリウス
第七章

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山脈は赤く染まる

山をいくら攻めようと

ダヌビウス合衆国の要塞線は今猛烈な砲火を浴びせかけられ、山は燃え上がり、木々は吹き飛ばされ、山肌は火傷をしたように焦げた土が剥き出しに成って居る。


塹壕ではダヌビウス合衆国軍の兵士たちが安全な退避壕の中から敵の広範囲に渡る絨毯のような砲爆撃をやり過ごそうと息を潜めていた。


一方、ダヌビウスを制圧するブルグント軍の隊列は速やかに構成され一列に進軍を開始していた。渓谷の谷間を秩序正しく、BPDM-2装甲偵察車やバイク部隊を先頭に不気味に光るルーン文字が刻まれたT-55A戦車やT-72M1戦車が続き、その後方にはBMP-1歩兵戦闘車やSPW-70装甲兵員輸送車が続いている。


国境線へと向かうその理路整然とされた隊列は一見すると圧倒的な威容を誇っていたが、部隊の隊員達は決して良い顔をしておらず、眉を顰める者や浮かばない表情をしている者が多かった。


「…はぁ、何でこうなるんだろうな俺達は」

「ため息をついても仕方ないですよ同志マックス。上がそう言うならそうなのでしょうから、政治将校ならよく分かっているでしょうに」

「今からあの山を見て、それに殺されるのが運命だと思うと、思想とか捨てたくなる……。それほどまでに無謀な侵攻の気がしてきた。だいたい、戦車に描かれたこのルーン文字が一体何の役に立つと?」


それらブルグント軍の誇る長大な車列を野戦双眼鏡から見送るヴィンツェンツ・ミュラー中将は、酷い不安に襲われてしまい胃袋がギリギリと締め付けられる感触がした。

いや、常人なら自軍の送られる先について不安にならざるを得ないだろう。


(ああ、とうとうこの戦争が始まった。我が軍の保有するソ連製兵器は、構造上、高所に対する攻撃を極めて苦手とする兵器が殆どだ……。まともに対抗できるのはZSU-23-4シルカの対空機関砲程度、それでも歩兵なら何とか出来るかもしれないが……もし狭い谷底に我が軍が押し込められた上で、高所から最新鋭の戦車が来たらもうどうしようもない。一方的に仕留められるしか……)


ミュラー中将には、ダヌビウス合衆国の雪深き山に呑み込まれていくブルグント軍の姿がまるで悪魔アザゼルに生贄へと捧げられた哀れな子羊のように見えた。

魔法的防御や攻撃魔法が使える様に成って居るらしいが、あの切り立った山脈を見てどれだけ効果が期待できるかなど分からないのである。ヒムラーが実証実験を許さず、オカルト的な効果に対して盲信しているのだから仕方ない。


「願わくば、その呪われし非科学の力が、我らの軍をお守りくださる事を……」


スターリングラード戦後唯物論を叩き込まれてきた元国防軍人で共産主義将官であるミュラー中将は、今作戦、そして高地の国との戦争が無事終わる事を皮肉にも神やオカルトに願わずには居られなかった。


ブルグント軍の攻勢計画は、東側ドクトリン特有の全前線からの同時攻撃を行いつつ圧倒的火力を用いた縦深攻撃を想定していた。

しかしダヌビウス合衆国軍は強固な要塞線─グロース・グロックナー要塞線で持ち堪えており、攻勢開始から3日経ったが未だに国境線付近の山嶺を突破出来ていなかった。


ブルグント軍の偵察部隊は冬季・山岳用のスノーモービルを保有しておらず、徒歩で山頂付近に近付くと何処からともなく放たれる塹壕内のL16 81mm迫撃砲の砲撃に晒され敵軍の防御網に彼らは全く耐えられなかったのである。


正攻法での山岳地形への攻勢の限界を悟り、ヘリボーン部隊を中心とした空挺部隊の降下を実施し、敵後方に降下した降下猟兵達は陣地を速やかに築き、補給線を寸断する事に成功はしていた。


ブルグント軍の攻勢は火力と数に任せた大規模かつ圧倒的なものが行われたが尽く阻止され、各地で爆発音が鳴り響く。

しかしそれらの爆発音の多くは、ブルグント側が劣勢に追い込まれ、撃破されている証拠の音であった。


空では、高地の国のE-3早期警戒管制機(AWACS)が敵編隊の接近をいち早く感知し、戦線上空に待機していたJG6(第6戦闘航空団)のユーロファイターへとデータリンクで連絡した。


《こちらAWACSレーレスネスト、タリホー。敵航空機(ボギー)が急速接近だ……懲りない奴らめ、次もMiG-29Aだ。6機編隊、2機と4機のグループに分かれて接近中。対処せよ》

《こちらロト1、了解した。この大空にアカかクロか分からない奴らにはご退場願おう。フォックス3》


機体からミーティア長距離空対空ミサイルが放たれ、逃れようのない速度で吸い込まれるようにMiG-29Aへと誘導され、容赦なく撃墜する。

火達磨になりながら落ちていくMiGの様はまるで蛍の様で美しく、しかし残酷な航空優勢の差を見せつけていた。

制空権を掌握したユーロファイターの編隊は、MiG-29Aをアッサリ撃墜した後、爆装してそのまま地上攻撃に移った。ブルグント軍の戦闘機が近付こうとすればすぐに本国からJG6のユーロファイターが飛来してきて作戦行動を完全に阻止してくるので、彼らは手も足も出ない。

しかも、爆装しているユーロファイターはストーム・シャドウ巡航ミサイルを景気よくブルグント軍の空軍基地に打ち込み、整備用施設や燃料タンク、そして弾薬庫や宿舎に向けて精密に撃ち込んでくる。そのためSu-25やMiG-23BNといった対地攻撃機は積む爆弾が全くなく、部品も交換や整備も出来ず、滑走路の隅で放置され部品取り待ちの機体が増える一方だった。

だが、彼らとて「デコイ」としてならば効果を発揮させる事は可能であり、無謀な出撃を繰り返していた。

国境線での航空優勢は互角からややダヌビウス合衆国側に傾き続けており、さらに地上戦において、ブルグント側にとても不愉快な事実が戦争開始から判明してしまった。

「アルフレート! 今だ、光線をあの機関銃銃座に居る奴らに撃ち込んでやれ!!」

了解ヤヴォル!!」

T-72M1の装甲に刻まれたルーン文字が妖しく光らせたと思った次の瞬間、戦車の真上に魔法陣が展開され、極太の光線が放たれた。

だが、山肌に築かれたダヌビウス合衆国の陣地はまだ沈黙していなかった。

「奴さんら、何処に向かってあんなレーザー撃ってんだ? まるで明後日の方向に撃ちまくってやがるが」

「さぁ? まぁお陰様でスパイクLR対戦車ミサイルの据え付けが完了するまで時間稼げたし、感謝感謝っと。ほら、さっさと照準よろしく〜」

「あいよ」


ルーン文字を刻まれ、東方世界の魔法を使える様に成って居る筈の戦車部隊は、あまり敵軍に打撃を与えられておらず、高地への光線攻撃も大して役目を果たしていなかった。

そもそも、塹壕内の兵士達からしたら少し頭を下げるだけでかわせるような砲の俯仰角の限界と連携不足による杜撰な照準の魔法では当たらないのである。


そんな見当違いの魔法攻撃をしている間に、トップアタック軌道を描く対戦車ミサイルが高所から降り注ぎ、次々とT-72M1やT-55Aが砲塔を吹き飛ばされびっくり箱に成る。対抗手段であるZSU-23-4シルカも当然真っ先に狙われるので、結局『魔法』という兵器が加わった所で、圧倒的な地形と兵器性能の差を埋める意味が無かったのだ。


そして高地の国本国では、ヨーデル、カイテル、クレープス、ブルクドルフの4名が軍を率いて東方(対親衛隊騎士団領)へと向かっていたが、最高指導者であるエリカは一つの頭の痛い人事に悩んでいる事が有った。


無論、ヨーゼフ・ディートリヒ上級大将やパウル・ハウサー上級大将等、かつての武装親衛隊出身者はエリカに今もなお絶対の忠誠を誓っている者が殆どであり、彼女もそれを深く理解してはいたがそれでは済まされないような事態を現在招いている。


高地の国の国防陸軍は、今政治的に3つの派閥に分裂してしまっていた。


古来より続くプロイセンの気風を重んじ、ドイツ国防軍時代を懐古する『ドイツ国防軍派』。

ナチス時代に武装親衛隊出身で、大戦を武装親衛隊として戦い抜いた過去を持つ『武装親衛隊派』。

そして戦後にドイツ連邦軍を創設、もしくはそれに在籍し、焦土の廃墟の中から軍を再建して戦後社会へ無事にドイツを合流させた『ドイツ連邦軍派』。


この3派閥に分けられ、この内最も有力であり発言権が強いのは、ルントシュテット元帥やレープ元帥等が在籍しているドイツ国防軍派である。

キャスティングボードは基本的に彼らが握り、続いて現場に良く派遣され実戦経験は豊富であるディートリヒ上級大将やハウサー上級大将、フェリックス・シュタイナー大将等の在籍している武装親衛隊派が続く。

そして、この中で最も冷や飯食いにさせられているのがドイツ連邦軍派である。


ナチス式敬礼やガチョウ脚行進を今でも伝統として導入させているのが国防軍派と武装親衛隊派であり、現代的で民主的な連邦軍派はこれに対して冷ややかな視線を送っている。


この内、武装親衛隊派は今回の『親衛隊騎士団領ブルグント(ヒムラー)』の宣戦布告により、因縁めいた不穏な疑惑をかけられ、ドイツ連邦軍派からも国防軍派からも「あいつらも裏切るのではないか」と政治的に責められる絶好の機会を与えられていた。 


それ故に南方の龍の国に派遣していたディートリヒ上級大将は疑惑払拭のために部隊ごと本国へ帰還させられ、代わりに国防軍派のエルヴィン・ロンメル元帥が平和維持部隊として派遣される事になったのである。


「……すまないわねディートリヒ。貴方をまさかこのような事で最前線から呼び戻してしまうなんて。けれど、貴方とあのオカルトクソ眼鏡とは今は無関係である事を私はよく知っているわ」

「いえいえ滅相もございません陛下、このような事が起きてしまい……ああもう! あの親衛隊時代の恥晒しめ、臆病者の養鶏家が全く!! 陛下! 今すぐ私があやつを討ち取りに行きたいのですが構いませんでしょうか!? ハウサーの奴めが先陣を切っていることも腹が立ちまして――」

「落ち着いてディートリヒ、それは構わないけどまずは話を聞きなさい」


【ゼップ親父】の愛称で兵士から慕われる彼が親衛隊派の危機に対する激しい憤りのまま軍を動かそうとしたので、エリカは流石に彼を落ち着かせた。

この血の気の多い武闘派集団の手綱をしっかり締めるのは相変わらず疲れると思ったが、同時に彼らは最先鋒として戦力を無駄に惜しまず果敢に突撃していくので、実戦において重宝している以上、無碍には出来ない。

そもそもエリカは何処かの派閥だけを寵愛していると言った事はせず、それぞれの派閥の利害と顔を立てながら妥協を重ねこの強大で複雑な国防軍を維持しているのである。

どれか一つの派閥だけを選択し、偏重してしまえば、この軍隊はアッサリと内戦状態になり崩壊しかねない危険なリスクを常に孕んでいる。


伍長に対してこんなに愉快で多様性に溢れた、しかし我の強い個性を持つ武人達をかつて一人でまとめ上げていた事に対し、エリカはほんの少しだけ為政者としての敬意を表しつつも、このような多種多様な軍人達を立身出世させ派閥争いの隙を与えた彼をやはり憎んでしまった。

そして、今回の戦争での伍長への「無茶振り(八つ当たり)」もここで決まったのである。


ちなみに相対的に穏健派な連邦軍派が冷遇されているようにも見えるが、戦線を確実に維持したり、後方の治安維持活動や帝国軍の中で最も動員が楽な『信頼できる勢力』として手堅く扱われている。


空軍はヘルマン・ゲーリングがしっかりと実権を剥奪され、連邦軍派も国防軍派も調和を取りながら『空軍』と呼ばれる組織を健全に運営している。

ゲーリングが「空軍野戦師団が欲しい」と要望した際には書類上にしか存在しない幽霊師団を創設してやり過ごしたり、彼が不当な人事権の行使に及んだ際には即座にエリカへと報告して暴走を抑止している。


海軍は規模が小さい事を理由にレーダー元帥以外にまともな提督が居ないので対して人事などで苦労する事は無かったが、最新艦艇の増強に伴いやむなく何名か古い提督職への復帰を実施した者が居る程度だ。


情報部はむしろ隠密性が高く、特にこれと言って目立つような階級や有名人がいた方が面倒なので派閥関係なく徹底的な実力主義で人事を行い各国に潜伏させている。


ラインハルト・ゲーレンやヴィルヘルム・カナリスは組織の表に通じる責任者であり、彼らの部下達の全容はエリカにしか分からないだろう。


(つくづく、ヒムラーの狂気には感謝せざるを得ないわ。もしここに、東ドイツ軍(NVA)の優秀な将兵が居たらどうなるか? ああ、考えたくも無いわね。共産主義者とファシストと自由主義者の混在する軍隊なんて、こっちから願い下げよ)


頭の中での振り返りが終わり逆賊討伐に息巻いているディートリヒへ冷徹な命を下す。

「喜びなさいディートリヒ、貴方が私への忠節を示さんとしているのは痛いほど分かるわ」

「ありがたき幸せです陛下! では!」

「無論、ハウサーよりも先にダヌビウス合衆国へと着く便を用意してあげるから特等席から思う存分に遊んできなさい。でも、お残しは禁止だから気をつけるのよ」


そしてエリカは、彼にとっての『本題』を伝える。


「それともう一つ、貴方の部隊に追加する人員が居るのよ」

「? と、おっしゃいますと?」

そして少し顎をくいと動かし、部屋の隅で直立不動で控えていた『伍長』へと注意を向けさせる。


「へ、陛下?」


名指しされた伍長閣下は、嫌な予感しかせず激しく困惑している。


「そこの伍長を最前線へ連れていきなさい。人は一人でも多い方が良いし、アルプスの如き過酷な山々の中に放りこむなら、伝令や士気を鼓舞出来る人材は必要でしょう?」

「は! 陛下のおっしゃる通りかと!!」

「陛下!? 私が、何か私めが気に障るような真似をしましたでしょうか!?」

「なら伍長、ディートリヒに伴いダヌビウス合衆国に向かいなさい。そうして私の為に、あの裏切り者の養鶏家をその手で始末するように。良いわね?」

「陛下のご意思のままに!!」


伍長のレンタル派遣が決まり、ディートリヒ上級大将はご機嫌を完全に直して最前線の派遣の任を勇ましく承諾した。

一方の伍長はかつて自分が率いた男の尻拭いを命じられ、胃が極限まで痛くなった。

「それと伍長、貴方の今回の派兵についての装備ですが……」

「……何か、私めに特別な装備が……?」

「ワルサーPPKに銃剣をテープで巻き付けた物を特別に支給しますので、それでせいぜい頑張りなさい。多分、貴方のことだからどんな地獄でもしぶとく生き残るでしょうが」


下手な死刑宣告の方がまだ納得出来る理不尽な案件を押し付けられてしまった伍長は絶望のあまり無言で項垂れ、ダヌビウス合衆国行きの装甲列車の貨物車両に乗せられ左右に激しく揺られながら派兵された。


ダヌビウス合衆国は、開戦からわずか半月で高地の国本国からの強大な増援部隊を得た。

そしてアルプスの如き雪山で停滞する騎士団領軍に対する苛烈な反撃の狼煙は徐々に燃え上がっていく。

決して通れはせぬ

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