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何故現代兵器をファンタジー世界へ持ち込んではならないのか?  作者: ウォルギリウス
第七章

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山を見て死ね

そして少し戻り

時間は君塚の元へアナスタシアが届く、少し前のことである。


ダヌビウス合衆国議会では、今まさに騒然とした論戦が繰り広げられ、そしてその怒号と喧騒は収まる所を知らなかった。


「何故、我らの敵にあのような強大な国家を作らねばならないのですか大統領!! 敵の戦闘機は我らより遥かに多く、戦車も地平線を覆い尽くすほどの数です! 敵に回すくらいなら、靴を舐めてでも恭順した方が身の為です!!」

「もう決まった事だぞコンラート議員!! それに、奴らへ屈したらどうなるか、火を見るよりも明らかではないか!!!」

「やかましい、このタカ派の売国奴め!! 無責任に開戦の口実を与えおってからに!!! そもそも宣戦布告の受諾には議会の承認が必要だろうが!!!!」

「向こうから勝手に攻め入ってくるというのに、一々議会がどうとか手続きをしている暇が有ると思っているのか!?」

「有る!! ああ、大いに有るとも!!!」


原因は、東方に突如現れた狂信国家『親衛隊騎士団領ブルグント』からの攻撃的な通達があったためである。

国境付近での武力衝突を、宣戦布告代わりの奇襲と見るべきか、それともこれは誤爆であり、きっと話し合いで解決できる事故であると主張するハト派の者も居た。


国家元首であるヴェナート大統領は、コンランツィ首相共々、うんざりした表情でハト派議員達の怒号を睨みつけていた。

既に政府としてブルグントには「国家としての拒絶の結論」を伝えたが、彼らはそれを翻そうと必死なのである。


ダヌビウス合衆国は元々は『オストマルク国家高等弁務官区』として高地の国に併合されていた地域であった。

しかし、この地はかつて『諸民族の檻』と呼ばれる程猫の額のように狭い領域に多種多様な人種・民族・そして言語がひしめき合っている複雑な土地柄だった。そこを単一的かつ単一民族的なドイツ式行政区画で統一しようとしたのが、高地の国における間違いの始まりだったのだ。


自治を望む小さくも多数のユンカー(地方貴族)達がそれぞれ領地を持ち、それらが乱立して、言語も方言レベルから全く違う言語体系等を有している。

それを強引かつ暴力的な手段で人工的に全てを区画整理しても、結局は行政の混乱と現地の反発が激しくなっただけであった。


それならばと、女帝エリカは彼の地を独立させ彼ら自身の議会と代表で統治させる方がまだマシかも知れないと思い至り、結果として人工的な国家『ダヌビウス合衆国』は誕生した。

そして、現地に統治総督として派遣されていたアルトゥール・ザイス=インクヴァルトは本国へと召還され左遷……と言うよりは、より重く厳しい降格処分となり、彼は今、首都ノイエベルリンにあるフォルクスハレ(国民大会堂)のしがない衛兵をしている。


彼の統治は上から無理強いするだけの同化政策であり、無駄に現地の有力者同士の紛争を激化させるだけであった。

無意味に血を流させた件でエリカから直接厳重注意を受けた後、そのような屈辱的な人事を経たのである。


そしてダヌビウス合衆国が建国された後も、現地に駐屯している高地の国の部隊は『ダヌビウス合衆国派遣軍』と名を変え、今も変わらず駐屯し続けている。


現地の駐屯陸軍を指揮するのはエアハルト・ラウス上級大将とユリウス・リンゲル山岳兵大将である。

彼らはレオパルト2A4を主力とする戦車師団と、アルプスのような険しい山岳戦に特化した精鋭の地上部隊を指揮している。

空軍司令官にはアレクサンダー・レーア上級大将が就いており、彼自身が15機配備されているユーロファイターのトランシェ4を装備している飛行隊基地司令を務めている。


ダヌビウスの国土は基本的に険しい山脈地帯であり、尚且つ春でも雪に閉ざされている場所が多い。

更にわずかに残された平野部には多数の集団が自分達の主義主張、そして利権について激しく主張し合っているという為政者からすれば頭の痛い土地である。

このような体制でダヌビウス合衆国は現在最大の懸念である国防を宗主国である高地の国に一任し、浮いた国力と予算をすべて経済発展へと注ぎ込んでいる。


その結果今や巨大な製鉄所から自動車工場、そして自国内での造兵廠を持つなど、重工業が極めて盛んな国となった。

高地の国に比べて人件費や最低賃金が安く従業員を雇用出来た為、高地の国の巨大企業がこぞって工場をダヌビウスに建設したからである。


それ以外にも、風光明媚な山岳地帯を活かして高地の国の国民に向けた観光業で外貨を獲得し、産業の多角化には見事に成功している。


一方でダヌビウスは農地がそれほど多くなく、畜産に必要な飼料を国内で十分に生産出来ない為、高地の国から大量の小麦や芋を輸入して野菜や主食を賄っている。


高地の国はダヌビウスに対し圧倒的な貿易黒字を達成しており、ダヌビウスは高地の国の農産物なしでは自国内の畜産業界を維持できないという、完全な相互依存関係にあった。

議会は高地の国から独立した事でそれなりに健全な運営を開始しており、少なくとも彼ら自身で、列強である高地の国に対等な『同盟国』として扱われている事を大いに誇りに思っている。


少なくとも、議会という平和的で民主的なシステムの元で様々な集団の利害関係の調整が可能に成ったという点は現地の有力者達には非常にありがたかったのである。

高地の国からすれば、ダヌビウスは防波堤となる属国でありライヒにとっての『第一の臣下』という名目のただの金づるでしかないが、ダヌビウスにとっても高地の国は最も都合の良い交易相手かつ軍事の保護者であった。


そんなある意味で平和を謳歌していたダヌビウスに親衛隊騎士団領ブルグントからの使者が訪れ、無血開城と完全な降伏勧告を突きつけてきたのである。


ヒムラーは以前からダヌビウスの議会に対して工作を行い、暗殺を含めたあの手この手で内部崩壊を仕掛けたが、それらは尽く高地の国の情報将校、ゲーレン少将の張り巡らせた防諜網によって阻止されていた。

偽札作戦や有力者への脅迫、ハニートラップ、そして偽情報も尽く逆手に取られ、今では逆に「自分の足元にまで高地の国のスパイや、懐柔された裏切り者が居るのではないか」と、ヒムラー自身が疑心暗鬼に苛まれる始末であった。


「ヴェナート大統領、単刀直入に申し上げるが我が国に降伏されよ。さすれば、我らの偉大なる指導者はきっとあなた方を厚遇し、名誉ある特別アーリア人(協力者)としての階級をお与えになるとのことだ。今日、いや今すぐ降伏されよ。閣下ははそれをお望みである」


親衛隊騎士団領の使者は、ふんぞり返りながら傲慢に言い放った。

使者曰く、騎士団領が保有する戦闘機、戦車、ミサイルの数は、全てダヌビウスに駐屯している高地の国の総兵力を優に上回っているという。全国指導者ヒムラーは、彼らの降伏が速やかに行われれば、二等人種として「配慮」し、命だけは助けてやると伝えてきたのだ。


「……確かに、それはあなた方からすれば最大限に譲歩した結果なのだろう。だが我らは貴様らのような狂信的な差別主義者に屈する程軟な者達では無い。出口はあちらだ。とっとと出ていけ、この疫病神め」

「なっ……! 折角の我らの寛大な申し出を断ると申すか、この愚か者め……!!」

「恥を忍んで貴様らに屈したところで、我らは既に高地の国に経済と食料の生命線を完全に握られているのだ。どうせ我らが裏切り者として殺害され、高地の国の傀儡政権がすぐ降されるだけだ。なら私は、一日でも良いから人間らしく長生きしたいのだよ」

「……そうか、どこまでいっても俗物めが」

「吠えとけ。他人の庭に土足で踏み入る、侵略者の蛮族が」


これに対してヴェナート大統領は拒否を明確に示し恫喝的な降伏を完全拒絶。

騎士団領ブルグントへの徹底抗戦の意思を毅然と示した。

ヒムラーは東方世界から得た魔術書のスクロールを読みながらバラ色の報告を待ち望んでいた、だが彼の思い描くように何時も物事が進むわけではない。


「……何だと? あの山の小国が、我らの降伏勧告を無視したばかりか、この誇り高き親衛隊を蛮族だと罵ったと??」

「はい、全国指導者閣下。愚かで未来の無いヴェナートは我らを拒絶し、高地の国と運命を共にするとの事でしたが、いかがされますでしょうか?」

「……随分と侮られたものだな。なら、答えは決まっただろう。宣戦布告だ」

「……よろしいのですか? 高地の国に本格的に攻め入るなら、ダヌビウスなど無視して北から迂回することも――」

「宣戦布告だと言っている!! 誇り高いアーリア人種を蛮族と愚弄した野蛮人達に、真の文明と恐怖が何たるかを教えてやるのだ!! わかったか!!!」


ヒムラーは自身のプライドを傷つけられたことに激怒し、怒りのまま宣戦布告を命じた。

ダヌビウスを血祭りに上げ、高地の国への侵攻の足がかりとなる攻略拠点の一つにしようと考えていたのだ。

アーリア人への愚弄が彼の怒りの根源であり、許されざる蛮族達への『懲罰戦争』がメインの目的である。

流石にこの無謀な命令に対し、親衛隊としてヒムラーに仕えている将軍達――かつて国家人民軍(NVA)として東ドイツに仕えていた現実主義の軍人達が、必死に止めに走った。


「か、閣下。恐れながら申し上げますが、此度の戦争はあまりにも我々の準備不足が否めません……その、我が国の機甲師団の展開速度では山岳を越えられず――」

「もう命令は出したぞ諸君! そして決断もした!! ならば、あとは軍人としてやるべき事が決まった後である! それでも尚、私に抗命するかね!?」


そこまで狂気じみた目で詰られてしまえば、不満も有ったがどうしようもなかった。


やむなく、ヴィンツェンツ・ミュラー中将とヴィルヘルム・アダム少将は、軍をダヌビウス方面へと矛先を向ける事にした。

冷戦期の遺物であるT-72M1やT-55Aで現地の高地の国が保有する21世紀を代表する主力戦車のレオパルト2A4に正面から対抗できるかなど、怪しいどころか不安点しかなかった。

だが、もし抗命して「反逆者」として親衛隊に銃殺刑にされれば、それこそ一巻の終わりである。


そもそもあのオカルト狂いの親衛隊全国指導者が、何故元を正せば国防軍出身の自分達に対してああもふんぞり返りながら軍事の命令を下しているのか、彼らには全く理解に苦しむ状況であった。

戦後の自分たちは共産主義陣営の東ドイツ軍の中枢を担った人物であり、ナチズムとは完全に距離を置いて別のイデオロギーを生きてきたはずなのに。

よりにもよってナチズムの極みのような男の一存で、無謀な戦争計画に存在しない無い山岳地帯の侵攻先を作らされてしまったのだから。


「……同志ミュラー。もう、この先の我らの命運がほぼ決まったように私は思うんだが……」

「……同志アダム。奇遇だな。私も全く同じ事を考えていたよ」


軍の幕僚会議の帰り道、アダム少将は重い溜息をついた。


「あの『スターリングラード』が可愛く思えるような、最悪の事態を招かないよう我らは努めたいとは思う。だが、この戦争は間違いなく我々の兵站と兵力を激しく消耗させる泥沼になるだろう」

「ああ、言わずともわかるさ。恐らく――」

あの険しいダヌビウスの要塞線は、我々の保有している旧式の戦車と人海戦術ではどうせ抜けない。

そして、ここで足止めを食らっている間に、高地の国本国は必ず恐るべき反撃の陣形を立て直すだろう。


例え酒の席で失言しても、どうせ後で小さな贈り物や賄賂を渡せば、親衛隊の監視役の幹部連中さえ黙るような腐敗した組織である。


彼らは好きなだけこの先の軍事的な暗雲について語り合い、この狂人がもたらす破滅への直線をどう避けるか、あるいはどうやって自分たちだけ生き残るかを真剣に考え始めていた。


一方、宣戦布告を受けたヴェナート大統領は高地の国の現地部隊が非常時には指揮権をダヌビウス政府へと移譲するという軍事協定の規則に則り、直ちに国家非常事態宣言を発令し全土に戒厳令を布告した。


これにより、ダヌビウス駐屯国防軍部隊は名実ともにダヌビウス合衆国の防衛戦力として配備された。


国境線の急峻な山岳地帯に要塞化された陣地内へ大量の兵器と物資が運び込まれていく。

強固なトーチカにはブローニングM2重機関銃やMG74汎用機関銃が陣地に据え置かれ、分厚い鉄筋コンクリートの内部にはそれらの弾薬が文字通りぎっしりと詰め込まれた。


岩肌には人間が身を隠し、砲撃を耐え凌げるような複雑な塹壕線が綿密かつ周到に掘り進められていく。


「ひひん!」と力強く嘶く馬達は背に大量の弾薬や補給物資を携行して、険しい山道でのトラックの不足分を補うように前線の補給基地へと物資をピストン輸送していた。

他にも小さくとも足腰の強いロバが前線に重たい荷物をぶら下げて登ってくる。

兵士達は有難そうに、少しでも休息の質を上げるためのマットレスや温かい食料品をそれらの動物達の背から受け取っていた。


これらの動物についてもエリカのギフトにより現実世界から創造されている物では有るが、高地の国本国の完全な機械化部隊とは違い、オーストリアの山岳地形をベースとした部隊であり、元々独立した山岳・遊撃部隊として運用されていた名残である。

だが、現実の長閑なオーストリア軍とは細部の火力が全く異なる。


空の守りにつくユーロファイターの仕様は、本国と同等の最新鋭「トランシェ4」であり、ミーティア・ミサイルによるBVR(視程外射程)戦闘にも完全に対応している。

陸軍の主力であるレオパルト2A4も、整備状態は極めて良好かつ乗員の練度も非常に高い為、旧式戦車で攻めてくる敵にとっては油断ならない、いや、致命的な壁となる。


歩兵達は慌ただしくステアーAUG A3アサルトライフルを携えて塹壕の警戒に当たり、国境線の険しい山脈の頂から眼下の平原から親衛隊騎士団領軍が蟻の群れのように攻め寄せてくる展開を、静かに待ち構えていた。


前方に放たれた偵察部隊からの報告によると、接近しつつある敵部隊には、山岳戦に必須のはしごやロープのような装備の携行は見られず、山岳戦のノウハウと装備についてはやや、いや致命的に不足気味である事が伝えられている。


更にダヌビウスの過酷な冷え込みに対応する為の冬季戦の備えについても全く出来ておらず、戦車120両と戦闘機15機というダヌビウス合衆国の小規模な戦力を自軍の第一梯団のみで突破できると信じているあたりヒムラーはダヌビウスの地形と防衛力をあまりにも小勢であると侮っているようであった。


確かに騎士団領が多数保有するMiG-29AやMiG-23BNを投入し、それらが数で圧倒的に勝るのであれば余裕が有ると思うかもしれない。

だが、それはあくまで自軍と敵軍の兵器の質に差が無い場合にのみ成立する戦理である。

今回は最新のレーダーとミサイルを積んだ近代化改修済みのユーロファイター部隊が相手である。


幾ら優秀なMiG-29Aであろうと20機では不安が残る機数であり、522機も在籍している旧式のMiG-21bisをいくら囮にしても、それでも尚空戦性能とセンサー類の優位性はダヌビウス側が遥かに高いだろう。


戦車についてもレオパルト2A4の複合装甲と120mm滑腔砲は性能面において騎士団領軍が装備しているT-72M1等の全ての戦車を遥かに凌駕している。

ダヌビウス合衆国が構築した要塞戦や狭く限定された山道の突破は攻め手としては非常に厳しい、血の泥沼となる状況である。


ここで手間取ると間違い無く高地の国本国からの主力部隊と交戦することになり、逆襲されて騎士団領軍は後方から崩壊しかねない。

騎士団領軍の将官・首脳陣は頭を抱えて悩ませている。

主の無謀すぎる戦争計画に対して、どうやって結果を出すのか、あるいはどうやって全滅を避けるのかを。



一方でダヌビウス政府には抗戦の覚悟を裏付ける更なる朗報が飛び込んできた。


高地の国本国がダヌビウス防衛のために速やかに増援部隊を派遣することを決定したのだ。

航空優勢についてはあの伝説のエース、ゲルハルト・バルクホルン中将が率いる『第6戦闘航空団(JG6)』がダヌビウス空軍と共に迎撃と制空権確保に向かうとされている。


地上部隊も完全編成された装甲4個師団が現在ダヌビウスへ向けて猛スピードで接近中であり、少なくとも1か月この国境の山脈で持ち堪えさえすれば本国の巨大な軍事力が到着し全ては回復するであろうという確証が得られた。


高地の国本国の女帝エリカは、この乱暴狼藉を働くヒムラーに対して一切の妥協と容赦はせず近代兵器の暴力をもって完膚なきまでに叩き潰してしまう予定である。



山は白く、空は抜けるように青く。

胸に気高き白き花を掲げ、緑がもゆる春の訪れの頃に乙女たちは祖国防衛の歌を歌う。

さぁ兵士達よ! 塹壕の中で乾杯しよう!!

敵を谷底へ追い払い、大河が流れるこの美しき国で。悪を働く傲慢な者達は、決してこの険しき山を越えられぬのだと。

例え如何なる暴君と名将が率いようとて、この山は通れぬ。

そしてまた新しく緑が山肌を覆い、雪解け水が流れる頃には我らの銃弾によってあの黒き悪は消え去っているだろう。

戦端はまた開かれる

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