鉄の冠はきっと貴方のために
革命は成される
同志よ、恐れるな! 君たちの背後には我ら『赤軍』がいる!!
同志よ、我らには失う鉄鎖しかなく得るべき全世界があるのだ!
我らの進軍は歴史の必然である!
時代遅れの王冠も、血統という名の妄想も、我らの流した血と汗の前には無価値である!
悪逆なる専制君主と宗教という『阿片』で人民を欺く者どもを討て!
支配者どもが神の威を借ろうとも、我らの鋼鉄の規律と連帯を砕くことはできぬ!
ならば我らの出番だ! 労働者と農民の真の軍隊が解放のために原野を駆け抜ける!!
搾取なき世界こそ唯一の救済! 階級なき世界こそ我らの至上命題!
万国の同志よ、今こそ立ち上がれ! 真の平等を、我らの手で勝ち取るのだ!!!
ズトプラトフ中将はこの稚拙で幼稚で不愉快かつ滑稽なラジオの電波を使ったプロパガンダ放送を聞いて心底反吐が出そうになる程呆れ返っていた。
確かに古代ローマ帝国や中華帝国にこの思想を持ち込み優位性を確保しつつ立ち回れば間違い無く天下を握れたであろう。
そしてファンタジー世界でも同様、文明が未発展で奴隷が多数存在し搾取される対象が多数存在して貴族と言う分かりやすい搾取する対象が期待出来てしまうからまさに劇薬である。
だが今回の世界では共産主義について知識の有る人物がその蔓延に対して対策を取れるように出来ているのでまるで赤子の手を捻るように今なら対応が可能であった。
君塚から提供された過去ログのデータを参照して国内軍の将兵の中から怪しい人物達を炙り出しそして尋問した。
その結果平原の国国内での共産主義プロパガンダを行う地下組織、ズラトポル共産党の存在が露見した。
後は簡単で彼らを一網打尽にして捕縛してしまえばもう君塚以下政府首班は作戦翌日以降枕を高くして寝られるはずであり、ズトプラトフ中将は早速人員と装備の選出を行う事にした。
念の為初の議会での立候補をしている社会主義系左派政党についても調査を開始した所白黒半々である。
何としてもこれ以上の超量跋扈を阻止せねば前世でのシベリア送りよりも洒落にならない、いや自分達は全て行動や言動、ましてや思想まで管理されている以上もし、もし失敗したら?
何処かで、例えばウラソフやトゥハチェフスキーが反乱を起こしたら?何処かのバカタレな将軍達が物資を横流しして新倉の赤軍に利得させてしまったら?
もう既に国内軍だけでなく平原の国全体にとっても背水の陣になってしまったのだ。
ならするべき事は明白で王国内に蔓延させようとしているがん細胞を効率良く切り落として予備軍を監視し続ける事である。
幸い共産主義と言う概念自体この世界由来では無く転生者の新倉が持ち込んだ概念であるから彼ら視点で影響を受けたであろう者達を密告させる事は容易だ。
そしてついでに諜報部門として中央政府に対して反抗的思想の保持する限界集落等を極秘裏に処理し反乱分子が流れ着きそうな場所を粗方洗浄した。
もし赤軍と結び付いて抵抗勢力に加担するような真似をされたら
そしてそれらについて手を付けたが問題が起きた。
どうカバーシナリオを描くかでありこれに失敗すると恐らく政権にとって致命的なダメージを負わされてしまうのは確実である。
「まあ今すぐは思い付かなくても粛清に成功して世間に公表するまでに何か考えていれば良いか、それよりもこの海賊放送をどうにかする方から手を付けるとしよう」
海賊放送ラジオ局への作戦遂行の指令へと署名した後、この非合法の作戦を行う事に対して何も躊躇いもなくとある村の殲滅の書類にも署名した。
0130
龍の国上空にてIL-76が2機編隊で家屋の上空に飛来していた。
無論この作戦は非公認かつ非合法極まりない作戦であり領空侵犯を犯していたがそれを確認し避難出来るようなレーダー設備は龍の国政府には存在しない。
IL-76の扉が開きグリーンライトが点灯するとスペツナズ隊員達は無言で降下を開始、今回は非常に小さな作戦エリアの為車両は持ってきてはいない。
そして降下した後散り散りになっていた部隊は予定ポイントで集結した。
そして四方から取り囲み龍の国国内に存在している
0145
徒歩で各地の通信局を囲み、着実に一つ一つ虱潰しに破壊していく。
扉をこじ開け中に手榴弾を放り込み残敵を掃討して罠を仕掛けているなら逆にブービートラップに敵を追い詰めて吹き飛ばしたり落とし穴で絶命させたり、そして掃討が完了した後は新倉の関与を示す証拠品を集め本国へと持ち帰る用意をする。
敵の装備は夜間戦闘に向いておらず哨戒の兵士のAK-74はろくに敵に向けて発砲出来ないまま交戦してしまい中には同士討ちさえ起きてしまった。
更に寝ていた兵士達も起きる事も出来ず手榴弾を投げ込まれて目を覚ます前に宿舎にて命を落とし戦闘さえままならなく
0155
龍の国プロパガンダラジオ局は崩壊の危機に瀕していた。
各地の前哨基地と通信中継局との交信が途絶え怪しいと思った警備兵が確認の為に派遣されたが国内軍のスペツナズ部隊によりアッサリ撃破され応答が無かった為指揮官のベリャシキン大尉は迎撃を命じた。
だが彼らには全く暗視スコープのような物は支給されていない、東方世界の魔法使いなんて当然居ない、もう手詰まりである。
「もう駄目だ!奴らはすぐそこまで来ているぞ!!」
「何処に居るんだ!?俺には何も見えんぞ!!」
「くそ!味方の悲鳴だけが良く聞こえるぞ!!」
暗闇で正気を保っているのはひとえにベリャシキン大尉の準備のお陰だがそれでも見えないから次々と売れた柘榴が弾けるように頭部が喪われる隊員が続出していた。
余りにも後手後手かつ一方的な攻撃に痺れを切らしたニリシキン少尉が独断で名を発した。
「照明弾!照明弾を迫撃砲で放てっ!!」
「し、然し大隊司令部からは何も命令は来ておりません!同志ニリシキン!まさかこのまま司令部を無視して」
「無視だ!何か言われたら俺の名前を出せ!政治将校だって俺が口で言い負かしてやるから!!」
「り、了解!照明弾装填用意!」
「照明弾半装填!」
「撃てっ!!」
司令部の家屋の据え付けられていた迫撃砲から照明弾を打ち上げられ四方から迫りくるスペツナズ部隊が確認出来た。
だが、確認出来ただけだ。
指示を出す前にすぐに狙撃兵が頭部を撃ち抜かれた、その後機関銃銃座やグレネードランチャー、対戦車ミサイル陣地等の高価値目標へ敵襲は更に精密な射撃を加えられ続ける。
この場合迫撃砲から生み出された照明弾は敵ではなくむしろ自分達をよく照らしてしまったのだ。
VSSやASVAL、A-545の静かな銃声のオーケストラは彼らの死でもって奏でられスペツナズ部隊は地雷原さえ避けて通りスルスルと放送局へ接近した。
ニリシキンはもはやこれまでと腹を括ってベリャシキン大尉に一方的な通信を入れた。
「司令部!こちらラジオ局東部哨戒部隊!!もはや当隊の戦力での防衛は不可能と判断、よってこれより敵部隊へ向けて銃剣突撃を実施する!!さらばだ同志よ!!真に平等なる社会へ栄光あれ!!!!」
ベリャシキン大尉の通信を無視してニリシキンの部下の兵達は着剣し彼の部隊は突撃の準備を整える。
ぞろぞろと家屋の外へ打って出た後全員で襲歩の速度でスペツナズ部隊が居るであろう方向に向け突撃を開始、PPKなどで弾幕を張り突撃している兵士達の援護をしていたが突撃した兵士達は夜間戦闘で暗視装置を付けたスペツナズ隊員に事務処理のように撃たれ呆気なく銃剣突撃は失敗しラジオ局東部に大きな穴が空いてしまった。
0157
「勝手に迫撃砲を撃ち勝手にこちらの兵士達の位置を暴露した挙句勝手に玉砕だと…?おのれ…おのれ、ニリシキンめええええええええええ!!!!!地獄に落ちろ酒飲みのバカのグズなロクデナシのイワン・ニリシキン!!!!!」
ベリャシキン大尉は絶望的な一方通信に発狂し、なけなしの予備戦力を投入したが中央総司令部は増援部隊を向かわせずここで座して死ぬしかなくなった。
恐らく敵は非正規作戦遂行が任務であり、こちらも非合法の作戦を実施している、このラジオ局の部隊は降伏さえ叶わないだろう。
ニリシキンは間違ってはいなかったのかもしれない。
0200
ベリャシキン大尉は総員に命じて玉砕の準備を行った774人の残存戦力に対して着剣を命じそれぞれ正面の敵部隊への突撃を命じた。
戦況は絶望的だったら1200人ほど居たのにニリシキンの誤判断で今やそれだけしか残っていない。
カラシニコフ銃に着剣した兵士達が整列しベリャシキン大尉による突撃の合図を待ち構えていた。
ベリャシキン大尉がホイッスルを口に咥えたその瞬間激しい空爆が彼らの家屋を襲った。
そしてMi-28NMヘリコプター4機が大隊の残存戦力を削り取るように機銃掃射を実行しホイッスルが口から離れて尻餅をついたが悲鳴と銃声がこだまする中彼はとうとうカラシニコフ銃を捨て地面にうずくまりただ赤子のごとく現実から目を背け無様に無情に泣き叫ぶだけしか出来なく成ってしまった。
0210
スペツナズ部隊の脱出用のヘリコプターが到着後ベリャシキン大尉はそのままスペツナズ隊員達に猿轡を噛まされて拘束され、本国へ捕虜として連行された。
戦闘の起きた建物も鷲の国にて活動している赤軍の関与を示す証拠を集めた後爆破して今回の件を秘密裏に終了させた。
そしてこの作戦で目障りなプロパガンダ海賊放送ラジオ局を潰して王国内の秩序は危機を免れたがまだズトプラトフ中将にはやるべき事が残っている。
赤軍の一部の部隊が既に平原の国国内に潜入しているという情報が有ったからだ。
目的も明確であり、それを達成されると非常に困るのでズトプラトフは急いで国内に兵士達を戻し国内軍の他のスペツナズ部隊の動員について各所に要請した。
報告書を見た君塚はまだ平原の国の赤化を狙っている新倉の執念深さと愚かさに呆れつつ舌を巻いていた。
そして部下達の監視は今後も徹底的に実施する事に成り聖女教の正教会についても危険思想や内通者の炙り出しを進めて監視の目を行き届かせていた。
そんな中、11歳の誕生日を迎えたヤドヴィガに呼び出され、今まで摂政としての君塚は驚きの余り腰を抜かしてとうとうヤドヴィガまでもがファンタジー化の毒牙にかかったかそれとも血統によるものかを疑わなくてはならなく成った。
丁重にノックをして彼女の寝室に入室した。
「お入りください、君塚様」
「お誕生日おめでとうございます、お呼びですか殿下?」
彼女はどうやら内密に話をしたいらしく琥珀の色の瞳が不安そうに揺れるナディアも説得して部屋の外に待たせることにした。
ついでに透が何処からか飛んでくる可能性が無いこともついでに祈りながら己の主君と向き合い相談に乗っていた。
「君塚様…実は私…最近妖精が見えるように成りまして…それで…」
「…それで?」
何やらおかしな単語が出てきたようで聞き返したく成ったが無視する事にした。
突っ込んだら恐らく話が脱線するかもしれないし妖精が見えるなんてきっと彼女を一人にし過ぎて寂しい思いをさせすぎた結果作られたイマジナリーフレンドだろうと思い申し訳なさを感じた。
「ほう。妖精さんですか、それは可愛らしいものでございますね。その妖精さんは今どちらに」
「君塚様。考えている事は妖精さんを通じて私に筒抜けでしてよ?ふふふ、まさか私が寂しく思ったが故の妄想の中の存在だとお思いなんて…お可愛い話ですね」
一体何の話かと思い驚いたがこれだけでは済まなかった。
「それに、ほら。君塚様のお望みの妖精です。可愛らしいでしょう?」
ふわふわと小さく柔らかな光の玉が降ってきて手のひらで君塚は受け止めた。
「…これが仰られていた妖精でございますか?成る程、確かに私はこの光の玉を視認し触れることが出来ました」
「驚くのはこれからでございますよ君塚様、私の力をまだお見せしていませんから」
ご機嫌なヤドヴィガはガチャリと窓を開けると両手で四角の枠を作り狙いを定める動作を行いながら鼻歌を歌っていた。
「ふんふーん♪ふふ、準備完了しましたわ。それではご覧下さい君塚様!」
その手許に居た小さな球体が勢い良く窓へと向かうとヤドヴィガの見ている方向へと高速でゴウッと言う音共にレーザーを照射したのだ。
「…殿下…今のは…」
「はい!こちらが私の目覚めた魔法でございます!!それともう一つ…」
胸のあたりのボタンを幾つか外し急いで君塚ははしたない格好にさせないよう抑えようとしたがアッサリ弾かれバッと胸元を君塚に見せびらかした。
そこには色鮮やかな色彩を放つ紋章が首元から胸の上半分までを覆い輝きを放っていた。
「いかがでしょうか?私も聖女に成りましたからもう守られるだけの存在ではございませんよ、君塚様」
君塚はヤドヴィガからのとんでもないカミングアウトにより一回目を瞑った後現実を把握する為もう一度開きそして再度呻きながら目を瞑った。
様々な思考の逡巡を経て意を決めてヤドヴィガの目を見て話した。
「…殿下。私は貴女様がここまで成長された事を臣下として、そして貴女様の後見人として嬉しく思います」
「ありがとうございます!」
「いえいえ、滅相もございません。これらは殿下ご自身の努力の賜物ゆえ。ただこうなると殿下の身柄等を狙ってくる輩が増えます故これからは私の方から護衛の兵士を直接お付けします。それに侍従等にも監視を行い殿下のご即位まで継続させていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
ヤドヴィガはこれから聖女として膨大な魔力を用いた戦闘が可能に成るだろうしその妖精とやらを率いて一人で首都ズラトポルの航空優勢を必ず確保する戦略兵器になるかも知れない。
なら戦略兵器に対して厳重に管理して万が一の備えをしておくのはこの国の実権を握る存在として最低限の責務である。
そしてヤドヴィガを守るのは君塚悠里の役目なのだからこの点についても当然であった。
「…ですが…分かりました。君塚様がそうお考えなら無碍には出来ません」
「ありがとうございます殿下」
そして君塚悠里は摂政として国内の議会政治の整備を整えて王国内の不満に対処する準備を始める。
幻想は加速せよ




