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何故現代兵器をファンタジー世界へ持ち込んではならないのか?  作者: ウォルギリウス
第六章

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気持ち良かった

敵を知り己を知れば

君塚はクラーケンに襲撃されているクズネツォフ提督の艦隊を無人機の映像で確認しこの珍妙なる海戦を絶えず見守っていた。


艦隊は対潜戦闘を順調に進めていたが徐々に両者共に決め手に欠けていた。

クラーケンを操るエンリコは旗艦であるアドミラル・クズネツォフを諦めて艦隊から孤立気味の艦船を狙うもそこには40機程の対潜哨戒機が手ぐすねを引いて待ち構えており景気よく対潜魚雷を投下して撃破を狙うがこれもすり抜けて逃げ回って回避に成功していた。

だがクラーケン側は接近せねばダメージを与えられず逃げたり躱すのは容易だがクラーケンは締め上げ海底に引きずり込んだり口で食い破るなら出来るが遠距離攻撃の方法は存在しない。


このように両陣営共に千日手のような様相を呈したがふとした事からこの本来の世界ならあり得ない海戦は転換点を迎えた。


「同志閣下、海軍機より報告が来ました。何やら沖合にて不審船が存在しているそうです。いかがされますでしょうか?」

「不審船か、成る程。なら無理やり臨検しても文句は言われなさそうだな。もしかしたらクラーケンの件について何か分かるかもしれない。だが撃沈はするなよ!もし検討違いの民間船舶なら大問題だ」

「かしこまりました。では同志クズネツォフに連絡して臨検させるよう指示を出します」


偵察・哨戒護衛の任に就いていた海軍所属のSu-30SMが艦隊よりも更に沖合で小さな帆船を確認したと報告が有ったのである。

海軍にも哨戒機や戦闘機達の所属する飛行隊用の陸上基地が存在しておりそれらの基地から発進したのであった。


君塚より命令が下ると急いでアドミラル・クズネツォフに搭載されていたKa-29TBの4機編隊は完全武装をしたスペツナズ部隊をギッシリと詰め込み大慌てでクラーケンの攻撃を受ける前に離陸した。

海賊船は油断して碇を投げ込む事をすっかり忘れておりKa-29TBの航続距離内に流れ着かされてしまったのである。

クラーケンは相変わらず艦隊に近寄れず高度を取り一気に近寄って来る敵ヘリコプターの動向を掴む事も妨害する事も出来ず一目散に飛んでくる海軍所属のスペツナズ部隊を止められなかった。


この海軍スペツナズ部隊は本来搭乗員の救助や敵地潜入し敵指導者ないし幹部の誘拐等をする部隊であり今回搭乗していたのはたまたま実弾演習をする事になり居合わせた部隊であった。

彼らはA-545の装填を確認し静かに騒乱の海を駆け抜け、そして艦隊も最大船速でその帆船を捕縛・拿捕せんと近付いていたが海賊船はその事を知る由も無かった。


そして物見の要員がようやく望遠鏡でヘリの接近に気づいて鐘を勢いよく狂ったように鳴らした。


「お頭ぁ!お頭ぁ!!何か飛んできます!わかんねぇけど多分ありゃ敵ですよお頭ぁ!!」

「何だとぉ!?今すぐ切り込み戦闘用意だ!全員カトラスとピストルを持て!!」

「何だって!?そんなバカな!ここから飛竜で飛んできてもどれだけ時間が掛かると思っているんだ!!」


ガンガン鳴らされる警報に船内は騒然となりクラーケンの操作に集中していたエンリコは驚愕した。

船内は騒然となりカトラスや刀剣、そしてどちらも無い者は瓶やナイフなどを装備して敵の切り込み戦闘に対して備えていた。


そしてヘリコプターが船舶上空に到着すると船舶へ直ちに停止する事と臨検の協力への呼びかけを行う。


「こちら平原の国国内軍艦隊の者である!臨検のため直ちに帆をたたんで停船せよ!繰り返す!直ちに帆をたたんで停船せよ!!」


しかし海賊船はそのまま帆を畳まず戦闘用意を継続していた。


「隊長、本当にこいつらは関与しているんですかね?もしただの海賊船なら…」

「それでもだ、第一にこんな状況でこの海域にただの民間船舶が居るわけが無いだろう。俺達は今演習しているのに」

「それもそうでした、申し訳ありません」

「いや、別に気にするな」


慌ただしそうな帆船の甲板を見てスペツナズ部隊の隊長は憐れみと侮蔑の感情を彼らに対して見せる。


「先ほど警告をしたというのにそれでも降伏しないとは、1個小隊程度であの船を押されられるだろうが機数が少ないからナメられたのか?」

「でしょうね、俺達は皆兵器や戦法を学んでから来ていますが彼らは全くの無理解がこのような事を招いているのでしょう」

「なら分からせてやるしかないな。艦砲射撃を要請しろ、だがあのマストだけを狙ってもらうようにな。丁度射程内に奴らも入ってしまったんだし心を折るには丁度良い」

「了解、万が一船体に当たったらどうします?」

「そんときゃそんときだ」


そして射程内に捉えたソブレメンヌイ級駆逐艦エカテリンブルクが一度だけ射撃を行い見事マストをへし折った。

エカテリンブルグの艦首に据えられたAK-130の130mm連装艦砲が火を噴いた。

レーダーと火器管制システムによって完璧に計算された砲弾は凪いだ海面の上を一直線に飛び、海賊船のメインマストの中央に寸分の狂いもなく直撃する。

弾頭内の炸薬が爆発し分厚いオーク材の巨大な柱が木っ端微塵に吹き飛んだ。

加えてヘリが一旦離れてから低高度をSu-33が何度も轟音を立てて何度も繰り返して飛行するのですっかり船長は憔悴しきり乗組員達も海の男として恥じるべき情けない悲鳴を上げ続けその中にはエンリコも居た。


そしてこんなエンリコの状態であるが故クラーケンの操作が疎かに成って動きがだいぶ鈍く成ってしまっている。


「提督!敵生命体動きが緩慢に成っています!!」

「ああ!ならやるべき事はただ一つだ!!全艦へ告ぐ!ありったけの対潜兵装を全弾叩き込んでやれ!!補給とか予算とか全く気にするなぁ!!」

「了解!!」

「物理が足りぬならもっと物理で対抗してやるまでよぉ!がっはっはっはっ!!」


エンリコの神経とリンクしていたクラーケンが、最後に見た光景。

それは水中で白く光る「対潜魚雷」の無慈悲な軌道だった。

衝撃波が海水を媒介にしてクラーケンの巨体を圧壊させ、RBU-6000の連続爆発が数千年の寿命を持つ伝説の怪物を「ただの肉片」へと細分化していく。

リンクを通じてエンリコの脳に流れ込んだのは痛みではなく、あまりにも膨大な『物理エネルギー』による完全な虚無だった。


そして速やかに帆船に貼り付くように戻ったヘリコプターから降下してきた兵士達は速やかに船内を制圧し船長以下主要なクルー達を連行した。


こうして東方世界からの干渉はこれで2件目であり魔法文明の帝国主義が目覚めてしまった事が原因かと噂されていた。

そして真実はほぼ外れていなかった。

東方の百合の国を筆頭に西方世界へと人口が流出し始めていてそれらを抑止する為に神のお告げという開戦事由を使って西方世界への聖戦を行っているのである。

更に船長曰く貴族達もそれぞれ武器や兵士達を率いて既に平原の国の分割地図を作りヤドヴィガ殿下の身柄を国王に差し出し妾にしてしまおうという国辱も良いところの情報も彼らにより齎された。


その報告を聞いた瞬間執務室の空気が凍りついた。

君塚は表情ひとつ変えなかったが彼が持っていた万年筆のペン先が報告書の上で微かに「ミシッ」と音を立てて歪んだ。

「ほう、10歳の幼子にも欲情するか。東方世界はベリヤしか居ないと見た」

「さぁ、ですがそうなのでしょう。ベリヤしか居ないのかも知れませぬ」

「ベリヤしか居ないなら開戦事由にする事は出来るな」

「世迷い言を仰るなら今すぐ退室してもよろしいでしょうか?」

「まあ待て、流石に表情を出し過ぎたわ。で、他には?」


そしてその平原の国分割は全て百合の国の国王ルイ=シャルルにより認められており貴族の次男三男等の継承権の無い若手騎士達が今回の十字軍の主力として派遣されそれぞれの家もまたこれらの子弟を支援し領地拡大をもくろんでいる。


その後海賊船は重要な証拠品として裁判の際に用いられ犯罪者としてクルー全員現在拘置所にて身柄を置かれている。

だが彼らを片付けたとしてまだ沢山やるべき事が残っており東方世界の情報は勿論新倉の共産赤軍についても対応しなくてはならないのである。


「で、新倉と愉快なクソったれどもの行方がわかったと聞いているが真かね?」


スドプラトフ中将の報告書を前に彼を情報が正しいか確認していた。


「はっ同志摂政。既に鷲の国に逃げ込んで現地で革命を目論んでいたようであります。奴等の軍事基地が既に幾つか建設され軍港は巡洋艦が数隻、スヴェルドロフと思しき艦艇が既に配置されています。他にもMiG-29等を空軍基地に配備している模様であり詳細については添付しております偵察写真をご確認下さい」


ファイルのフォルダー内に添付されていた写真は君塚を驚愕させるものであり何故放置してしまったのか悔いるに余りある内容であった。


航空基地に配備している軍用機にSu-27やMiG-29、陸軍の基地にはT-80やT-72A、海軍の軍港にはスヴェルドロフだけでなくソブレメンヌイ級駆逐艦の存在も確認出来た。


「なんてこった、こいつここまで強くなってしまったのか…。所でこれは何時撮影された物だ?」

「写真については10日程前の写真です。鷲の国の帝室はこの動きに対しては既に征伐の部隊を派遣したとの事でしたが…」

「言わなくても分かっている。モシン・ナガンやマキシムだけで勝てるとは思わんさ、ロシア帝国時代の装備でどうにか成る程ヤワな相手ではなく赤軍の中の赤軍だ。勝てる道理が無い」


鷲の国の帝国軍はこの赤軍に敗走を次ぐ敗走をしてしまい今では無謀な死守命令が頻発する程追い詰められている。


「私の方から何とか奴等の基地や部隊、車列を空爆して阻止し帝国軍への支援を表明して全てを黙らせておくから問題ない。ドミノ倒しは避けられる筈だ」

「まるで東南アジアにおける何処かの傲慢な資本主義超大国みたいだと仰るので?」

「そうだな、まるでやることなす事須らく米国だな」と君塚は自嘲したが然しこの世界に共産主義が広まり自身の軍内部どころか平原の国そのものが共産化したら恐らく君塚は生き残れるだろうが君塚以外については分かりかねるのが実情である。


「取り敢えず奴等の軍港や基地にも空爆は行うし東方世界の侵略にも備えなくてはならない。今は両輪で行こう」

「了解しました同志」


そして一連の話をズトプラトフ中将と終えると

「もう少し残ってくれ同志ズトプラトフ。まだ君に頼まなくてはならない事が有る」


ズトプラトフはその件について心当たりが有るようで今まで以上に厳しい目付きに変わって話を聞いた。

「本来なら、こんな事は頼みたくは無い。だが味方を疑う段階に今は移行してしまっている、別に私はスターリンではないが信用出来る相手と出来ない相手を選別したい。そして申し訳無いがこの選別を君に任せたい。」


ズトプラトフは少し考えるとまず気になる点を君塚へと尋ねた。


「成る程、今度は身内を探れと仰せでございますか。ですが同志。貴方なら思想や忠誠度はすぐに分かるのではないのですか?」

「そうだ。だが誰と会い、誰と会話したかは国内軍同士の人物であればログで分かるがそうでない場合も存在している。つまり我が軍に関与している、関与しようとした外部の人間を調べ上げろ。同志諸君も勿論だがわが国の国民でさえも敵と思い、身の潔白を示させろ」


その目付きはソ連の指導者のような目付きに成り冷たく凍える寒さを帯びた眼差しでズトプラトフ中将を見つめる。


「これは思想戦である。プロパガンダは負けたら相手に好き放題されてしまうから何としても君の手で赤軍の影響を削がなくてはならない。もし負けたら─」


きっと俺はまるでスターリンのように猜疑心が服を着て歩いている存在のようにならなくてはいけなくなってしまうから。


そう君塚は締め括るとズトプラトフ中将は無言で敬礼し君塚の部屋を後にした。

何としてもあのような地獄の時期を阻止せねば自分がやられるだろうと思い彼は早速所管しているスペツナズ部隊を総動員して思想管理の任務を与えた。



労働者達よ!

立ち上がれ!!

ソビエトは君を迎え入れる!!

大いなる怒りを暴君にぶつけよ!!!

我らは尊厳有る人であるが故!!

帝国を叩き潰せ!!

貴族の蒼き血で我らの赤き服を作ろうではないか!!!

万国の農民達よ!!

もう恐れるな!!!

貴族はもう居ない!!

我らが奴等という悪魔を祓ったのである!!!

革命万歳!世界万歳!!共同体に讃えあれかしや!!!!

即ち百戦危うからず

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