冷たい世界
やっとメインヒロインの片方出せた
君塚悠里はよりによって際どいマイクロビキニを着用して神堂への冒涜的な舞踊を舞い踊って気分を害させた為地下牢に投獄されていた。
冷たい地下水が滴る暗闇の中黄金のビキニ姿でうずくまるおっさん。
その光景はシュールを通り越して一種の現代アートのようだった。
【君塚っちー、何であんなバカな真似したのー?変態の中の変態の一人に成った気分ってさ、どんな感じー??】
脳内にニケの呆れた声が響く。
「…そうだな、寒いよ。まるでこの地下水が滴り落ちてくる時に気温が奪われていくのと似たような…」
【しっかりしなよ君塚っちー…アンタがしっかりしないと弟さん?が助けられないのよ?】
「…まだあいつが弟、透と決まった訳では無い、アイツと同じような存在が平行世界から呼ばれて聖剣にされたただのそっくりさんかもしれない」
【それも要するに弟さんじゃんか、ゴチャゴチャとした言い訳無用よ君塚悠里。】
「…そうだな」
君塚はニケとの会話で正気を保っていた。
そうでもしないと正気を失いかける程に夜は寒く暗い空間であり、恐らく他の何かやらかした下級妃と思われるすすり泣く声があちらこちらから聞こえて来て君塚の正気は削られていった。
「だが神堂とやら、透かもしれない女性や桂木、雨宮だけでなくこんなにも女を泣かせているとは…つくづく度し難い輩だな。」
【硬派ぶってもそのマイクロビキニ姿を見て渋いオジサマとか誰も思わないし逆にハーレム要員に渋い顔されるだけだよ君塚っち】
「そんな悲し…余計な事は言うな、ニケ。俺は今過去からの逃避がしたいだけだ、お前に叱って欲しい訳では無い」
【過去どころかついさっきじゃない、認知症発症したの?ボケたの??】
ニケの指摘にもう不貞腐れてしまった君塚はそのままマイクロビキニ姿でそっと壁際にもたれ掛かり身を切るような冷たさの地下水の雫さえ気にせず時間が過ぎる事を願っていた。
すると遠くから地下牢の扉が開く音が聞こえて来て君塚は警戒した。
一定の時刻になると来る地下牢の巡回に来た下級妃なら良いがもし神堂から命を受けた上級妃や神堂本人が聖剣を携えて処刑に来ている可能性が有る。
その場合は覚悟しなくてはならないだろう。
そしてニケとの会話を無理やり終わらせて息を殺して様子を伺っていたがそこに現れたのは神堂や上級妃ではなかった。
最上級妃であり、君塚透の疑惑を持つ聖剣である。
「…何のようだい、最上級妃様。俺のマイクロビキニ姿をあの時みたいに笑いに来たのか?悪いが今は腰を痛めててね、後で好きなだけ踊るから待っててくれないか」
君塚悠里は彼女に対して皮肉を言おうとしたが流石に元気も余裕も無かった、もし神堂が何処かに潜んでいたらそれこそ一巻の終わりだからだ。
しかし彼女は豊満な谷間から鍵を取り出して無言で解錠した。
そして扉を開くと君塚悠里に勢いよく抱き着いた。
「兄さん…!会いたかったよ兄さん…!!」
「…やはり透だったか、心配したぞ。あんなぐちゃぐちゃなメモよこしやがって」
悠里はそっと透を抱きしめ返した、すすり泣く君塚透 「だった」女性は悠里の胸の中で泣きじゃくり家族との再会で安心しようとしていた。
悠里は透の身体から神堂の汗と脂の臭いがした。
例え前世で偉そうに振る舞い人気者だった大嫌いな弟だろうと家族を不幸にするような輩は長男として許しておく道理は無かった。
(どうやら一度神堂龍牙には一度キッチリ「お話」しておく必要が出来ちまったな)
「兄さん…怖かった…怖かったよぉ…!兄さん、私、アイツ、アイツに…」
「大丈夫だ、お前の兄は此処にいる。心配するな」
「兄さん! もう……私、ダメかと…もう一度兄さんの家族に戻れる?」
「大丈夫って言ってんだろ、透。もうこっから先はお兄ちゃんに任せとけ。」
「うん…うん…!」
悠里は透を宥めすかすと何故このような事態に陥っていたのか尋ねた。
「それにしても透えらく美人さんに成ったなお前、何でそんな姿になっちまったんだ?しかもあんな奴のギフトに成っているなんて」
透はその胸は勿論のこと、髪の毛も透き通るような銀色の髪の毛が地に付いていて毛並みも整っている、顔立ちの美しさは今まで見てきた中で群を抜いていて君塚透の原型さえ留めていなかった。
事前の話が無ければきっと誰か分からなかっただろうと悠里は思っていた。
「うん…兄さん、私ね。兄さんとは別の大会に参加したの。それで大会で優勝したんだ。」
「ほう、成る程。ん?でも大会優勝者は確かこの大会と同じなら」
「でも……運営に裏切られたの。『君の剣の腕を見込んで特別なギフトにしてあげる』って……こんな身体にされて、それで、それでさ」
透の瞳が暗く濁る。
優勝者としての栄光と権利を剥奪され人格と尊厳を踏みにじられた絶望。
「わかった、それ以上は言わなくて言い。よしよし兄ちゃんが居るから安心しろ」
泣き出しそうな透をまた宥めて落ち着かせていた。
そして問い質すべき人物がまた一人増えた。
「おいニケ、聞いてるだろう?どういう事だ、お前らが裏切ったと俺の弟が言っているぞ」
【…アタシにも分かんないわよ。君塚透の参加していた大会の情報は有るけど君塚透は『帰還済』として但し書きも無く処理されているわ】
「…お前、本当に」
【本当に何も知らないわ。資料が無いもの、まぁ君塚透の担当官ならこっちでは確認取れたけど。】
ニケは調べた限りの情報を悠里に教えてくれた。
悠里はその担当官について尋ねた、そしてそれは非常に有益な情報でもあった。
【その担当官だけどさ今は神堂龍牙、つまり透の人生を絶賛めちゃくちゃにしてる奴の担当官に成ってるのよ。】
「ほう、面白い情報だな…なら今大会で弟の担当官の面子に泥を塗ることは?」
【やっちゃいなさい悠里、アンタとアタシなら出来るわ。それにあんな女の敵を叩き潰せるなら喜んで支援してあげるから感謝なさい】
有益な情報と強力なバックアップでテンションの上がった君塚悠里は少し失言してしまった。
「ありがとうニケ、愛してるぜ」
【!!!!】
【べ、別に感謝なんて今更よ、それと悠里!】
「何だ?」
【…絶対に勝ちなさいよ、あんなクソ男よりアンタの方がよっぽど男前なんだから!】
「はっはっは、そうかい。ならレディのご期待には何としてでも応えなきゃな」
【ついでにあのクズ男の鼻っ柱へし折るヒントもあげるわ、聖剣君塚透はギフトだけどこれは聖剣として君塚透を行使している契約に基づくものよ!能力が行使されたから聖剣化出来たのよ!!わかったらさっさと脱出なさい!!以上!!!】
そうしてニケとの会話は終了した。
そしてそれはとても有益で濃厚な情報だった。
弟の救出に算段が付いたからだ。
「…兄さん、今誰と話していたの?愛してるとか言っていたけど」
透は目から光が無くなり虚ろな目で兄を見つめていた。
「いや、俺の担当官と話をしていただけだよ。彼女のおかげでお前を助ける見込みが高まってきたんだ」
「ふーん…兄さんまた女の子と親しくなってるんだ、へー。」
透の鈴の転がすような声は底冷えする吹雪のようなトーンに変わっていった。
「いや透、彼女とはそんな関係は無いしそもそもアイツとはビジネスライクってやつだ。協力者なんだからな。」
「へー…兄さんがライクの感情を向けてるのか…へぇー」
不味い流れに成って来たのでそろそろ悠里は無理やり話題を変える。
「だから透、しばらく待っていてくれ、すぐ俺が助けに行くから。その時まで少し時間がかかるが必ず部下と共にお前を助ける!必ず待っていてくれ」
弟に対して希望を抱かせる事から悠里は始めた。
透は悠里がマイクロビキニ姿で王宮内に入り込むまでは絶望していたのに今彼女に希望を抱かせなくてはきっとまた心を閉ざし神堂の最上級妃として生きる事を余儀なくされる可能性が有るからだ。
「…兄さんが言うなら良いけど。でも兄さん、私は今も兄さんの所に行きたいんだ。でも…アイツに縛られているから、さっきだって鍵を手に入れる為にアイツのお母さん役をさせられてその後…ううん、それよりもここから兄さんを出せたら兄さんは助けてくれるんだよね?」
透の縋るような問いかけには悠里は即座に返答した。
「勿論、あんな奴より俺の方がよっぽど強いって事を見せつけてやるさ」
「わかったよ兄さん。なら私が安全な道で脱出させるから離れないでね。」
そして二人は王宮内で安全な道を進み下級妃達の監視網を掻い潜って無事王宮の裏門まで逃げてきた。
「それじゃあ兄さん、待ってるから絶対迎えに来てね。約束だから。」
「わかってるさ透。必ずお前を助けてあの野郎を懲らしめてやるさ」
するとまた透が谷間から紙を取り出した。
「それと兄さんこれ、宮殿の見取り図でこの一番奥が私とアイツのいる部屋だから真っ直ぐ此処に向かって来て。他の部屋だと上級妃や下級妃に見つかって面倒な事になるから」
「わかった透、ありがとう。これならお前をすんなり迎えに行けそうだ」
兄弟は別れて兄は救出する為に拠点に戻り手勢の準備を整える為に平原の国へ走り出し、弟は悍ましい暴君の閨にて頼もしい兄が迎えに来るその日を待ち望んでいた。
そして悠里は軍に動員を発令した。
メレツコフ元帥は突然の失踪からの龍の国国境への実弾使用を伴う動員に困惑したが命令が発令された以上動かさざる事は出来ない為兵を国境沿いに展開した。
そして悠里は前回の暗殺未遂で意気消沈していたソコロワ中尉と警備部隊、そして君塚の護衛として志願したナディアを君塚連れてMi-26が龍の国へ飛んでいた。
作戦概要としてはまず入り口までMi-26が飛んでいきそしてナディアを下級妃希望の転生者、そしてバラクラバを付けている君塚達は護衛として入城してそのまま神堂の制圧と君塚透の救出を行う作戦である。
この作戦の際上空にはMiG-29S 24機が上空に待機しておりヘリから無線で脱出の連絡があった際に空爆して王宮側の攻撃に備えさせる備えを整えていた。
神堂龍牙はまだ知らない、君塚悠里の触れてはならない逆鱗に触れ続けていることを知る由もなかった。
難産シナリオだったかもしれない




