尋問
ヒロイン加入イベントとは
「では君たちの名前、所属、血液型……は、まあ先ほどメディカルチェックで採血したからいいとして。あとは、言える範囲で構わない。組織での階級や役割を教えてもらえるか?」
君塚はプラスチック製の白い尋問室の机に肘をつき、薄暗い電灯の灯りを頼りに目の前の二人の少女を見据えた。
まず冷たい水色がかった銀髪の少女がアンダーリムの眼鏡を指で押し上げながら口を開いた。
「……葛城つむぎ。19歳。龍の国を統べる神堂様の後宮所属、階級は下級妃。役割は遊撃および衛生、そして戦闘よ」
「やけに尋問に素直だな。こういうのはもっと、捕虜らしく抵抗するものかと思ったが」
「ええ。どうせこんな状況で抵抗しても無意味だもの。それに……」
彼女は一瞬、隣の弱気で小柄な少女を見て言葉を濁した。
「……なんでもないわ」
「そうか、なら助かる」
想定していたパターンとは違い、意外とあっさりした従順かつ協力的な態度に君塚は内心で拍子抜けした。戦場であれだけ派手に暴れたのだからもう少し罵詈雑言の一つでも飛んでくるかと身構えていたのだが。
彼女──つむぎは露出の非常に多い、普通の女性ならまず着るのを躊躇う程の扇情的な衣装を着てはいるがその容姿から放たれる美貌と知的な雰囲気は隠しようがない。
彼女の豊かな胸部も本来なら白衣やスーツの下に隠されていた方が逆に色気が出そうだ、と君塚はセクハラ気味に眺めている。その視線を気にしてかそっと隠そうとした彼女へ君塚は申し訳無さそうにした。
(こんな美麗で知的な女性にあんな品性を獣に変える露出狂みたいな格好をさせるなんて……神堂とやらは女の趣味以前にセンスが壊滅的だな、話は絶対合わない男だろう)
君塚はまだ見ぬ敵のボスに対し、既に自身とは思想信条、そして嗜好がねじれの位置に存在し理解し合えない「残念な男」という評価を下した。
「神堂とか言ったな、そいつが今の龍の国を仕切ってる転生者か?成る程分かった、その男について……例えばフルネームとか年齢とかの詳細は後で聞くよ」
桂木への話を一旦終わらせてからもう一人の少女に対して話しかけた。
君塚は視線を速やかに隣に移し、室内での話題の中心を移す。
「で、そちらの君。先程の桂木と同様の事を今から聞くぞ、名前と所属を言えるか?」
「あ、ぇえ……とその、私は、うぅ……つむぎちゃん……怖いよこの人ぉ……」
頬が少し痩けていて小柄な少女は手入れの行き届いていないのだろう、桃色のボサボサ髪を揺らしながら隣のつむぎの腕にしがみついた。
眠たそうな垂れ目と不健康な目の下の隈。そしてつい守りたくなる小動物のような挙動とは裏腹にその胸部には暴力的な質量の果実が実っている。
「大丈夫よ美羽、この人は多分……そうね。そこらの下級妃よりは話が通じそうな人のようだわ」
「その、まぁ。話せば基本は理解するし妥協はしても良いぞ?尋問に対して報酬与えても多分うちの主は怒らないし」
つむぎが美羽を庇うように、そして慰めるように優しく慈しみながら背中をさする。美羽と呼ばれた少女は戸惑いながら君塚の事を弱い草食動物のように観察していた。
「そうか、分かったよ美羽。怖がらせるつもりは全く無かったけどこの部屋と俺が怖がらせてしまったならすまない。もし君が無理なら答えられる範囲のみ答えて良い。無理強いはしない。」
「あ、ありがとうございますぅ…」
「気にするな、君達には保障されるべき基本的人権が有るからな。我々は平原の国の政府の人間なのだから当然だよ」
しかし不可解な事に、二人ともしっかり君塚悠里の居る方向を見ているはずなのに焦点がまるで定まっていないのだ。
そう、まるでこの部屋に入った時点で最初から定まっていないし、ここではないあらぬ方向へと向かっているように思えた。
彼女達を拘束した兵士が残した報告書にも目の焦点が合っておらず虚ろな目をしていて君塚は気が気ではない。
尋問で得た情報への信頼性が薄められる可能性が高くなって今行っているそれが戦略的な価値を喪う恐れが有る。
(心理学に心得のある奴による洗脳か、依存性の高い薬物か、あるいは単純に過酷な環境による精神的な摩耗か。何れもギフトなら可能だろうな)
メディカルチェックでは何も問題無かったものの精神面で何か問題が起きている可能性があったが、このまま一旦必要事項を再度尋問する。
「では美羽、改めて尋ねるよ。君の名前をフルネームで聞きたい。後年齢とか諸々もお願いしよう」
「ええと、雨宮 美羽です。16歳でつむぎちゃんと同じく神堂様のハーレムに勤めてて、階級は下級妃です。」
「ありがとう美羽。君の名前は綺麗な言葉が並んでるね、親御さんは嘸かし──」
「お話の途中ですが、すいません!君塚さん!!」
つむぎが慌てる様に美羽と君塚の間に入り、鋭く遮った。
「美羽は、その、彼女は孤児院育ち……らしいのでそう言った話は……」
つむぎは申し訳無さそうに友人の事情を告げた。
「ああ、それは……家庭事情に関してはこちらの無配慮が有ったようだね、大変すまなかった。こちらからデリカシーの無い質問をしてしまった。さてこちらの自己紹介もしておこう。私は君塚悠里、平原の国で今は摂政……つまり今はまだ幼いヤドヴィガ殿下の補佐をしている。まぁ、色々有って今は彼女を苦しませているかもしれんがそれでも君達を打ち負かせる程度には戦力は有ると自負している」
君塚は軽く自己紹介を終えると二人に対して質問を開始した。
「いまから具体的な内容に対して質問するが答えられる範囲で良いから私の質問に答えてくれ」
「…はい」
「は、はぃぃ」
二人から同意を取った君塚はまず恐らく君塚が理解し難い世界観であろう龍の国のハーレムについて質問した。
「龍の国に政変が起きたらしい。それは悍ましくも恥ずべき事に我々と同胞である転生者が仕組んだ政変とのことだ。それにより我が国には国境を無理やり突破して多数の政治難民が流入し、その濁流はこの国に溜まり行き場を無くしている。だから君達には今その転生者の不始末について細部でも良いから聞く必要が出来たという事だ」
「…」
桂木はその言葉の意味と背景を理解した上で沈黙した。
「そ、そうなんですか?」
雨宮はその事実を知らなかった様であり、困惑し逆に問い掛けた。
「ああそうだとも。立場のある私がそんなくだらないウソをつくつまらない男のように見えたかね?この国の実権を女王に代わり握る摂政たるこの私がだ。では、まず1つ目だが神堂龍牙が築いたハーレムについてだが下級妃と言っていたね。なら恐らく上級妃もいるようだが合っているか?それと知ってる限りで良いからハーレム内部の組織構成を聞かせてくれないか?」
君塚のそれが丸々1つ目の質問だ。
桂木は答えた。
「…ええ私達よりも上の立場の上級妃は存在するの。龍の国の女王様を除いて基本上級妃も私達と同じ転生者よ。ただ神堂様に役に立つギフトを持ち容姿も優れ、ギフト以外に何か役に立つスキルを持ち合わせている者が任命されるわ。それと最上級妃という存在も有ってそちらは彼のギフトの聖剣が担ってるわ」
「ありがとう。つまり……割と縦割りのピラミッド型社会なのか、そのハーレムは?」
「ええそうよ。そちらも間違い無いわ。私達は戦闘部門の要員で基本は反体制派の弾圧や敵国や敵転生者の排除、そして女性転生者の生け捕りよ。」
「はい……私も良く女性転生者の方を捕らえて神堂様に捧げていましたぁ。」
二人が答えた内容に少しだけ寒気がして鳥肌が立った。理解して行けば行くほど、他の転生者が人の皮を被った化け物の様に思える。
「成る程……俺が女じゃなくて良かったよ。尊厳をロマンやフェティッシュがわからん醜男に散らされるのは我慢ならんからな」
君塚は女でないことを喜びつつそのハーレム軍団の脅威を教えられる。しかしこの転生者サバイバル大会は1人が勝ち抜く大会、ハーレムで仲良しこよしでは優勝者が決まらない筈だ。
「少し待て、それなら君達は最後は神堂様とやらに殺害される形でハーレム契約を終わらせるのか?この大会はサバイバル大会だ、報酬を生き残った一人に全て総取りされる形式だった筈では無いのか」
「それについては君塚さんは運営からの通達を確認してないんですかぁ……?通達に全て記載されている筈ですけどぉ」
雨宮は君塚に運営からの通達を確認するように促した。
「おい、バカ担当官さまぁ?今ちょっくら話しあんだけどさぁ早く来てくんないかな?」
【呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃーん☆愛しの担当官ちゃん登場ー!!さてさて今日は何のようだい君塚っちー☆】
「では簡潔に伝える、何か新規で通達有ったか?神堂とかいう男関連でだ。」
【……あー、あれか。ごっめーん☆伝え忘れてたー♪】
「しばくぞ!!!!」
再びの重要事項説明漏れ、君塚の怒声が脳内に響く。こいつ本当に社会人経験者か?そう思わざるを得ない君塚である。
だが君塚悠里を無視して担当官は尋問室に居た二人の下級妃について声をかけていた。
【てか雨宮と桂木じゃーん元気ー?お久ー。あんたらアタシを裏切ってさぁ?アタシの担当結局この超大穴の君塚っちだけに成ったんだけど……。分かってる?ア・タ・シのピンチはヘタれたあんたらのせいなんよ】
「……!」
「うぅ……ごめんなさい……」
「お知り合いなのかよ、面倒な事に成って来たな」
二人はバツが悪そうに俯いた。
どうやら彼女たちも元はこの担当官の管理下だったらしい。
【ま、終わった話だしもう良いーよっと。それでさー愛しの君塚っちー!今回の通達はー『神堂龍牙のハーレムに入れば彼が優勝すると同等の権利を得られる』って内容だよー☆】
君塚は寝耳に水であり、言語道断な特権である。それは大会参加者が一人だけ飛び抜けて特別扱いされているではないか?不条理なそれに怒りを感じて問いかける。
「あ゛?んだよ、それ、言ってる意味わかんねぇよ。いや何それふざけんなって、何でそいつだけ──」
【そりゃ神堂が一番人気だからだよ君塚っち。】
更に衝撃の事実が雷鳴の如く脳に鳴り響くような情報が来た。
つまりこの大会では君塚悠里は敗北必至で神堂龍牙は勝利に最も近い存在だと言う事だ。
立て続けに担当官はさらりと絶望的な事実を告げた。 神堂のギフト『女性支配』は顔を見ただけで女性を強制的に恋慕させ、性行為を行えば魂レベルで支配し幸福な幻覚を見せるチート能力。
さらに謎の『聖剣』。
まともにやり合えば君塚の周りの女性陣――ヤドヴィガやナディアも一瞬で寝返る可能性がある。
「率直に言えばめちゃくちゃヤバいスキルだな。で、それ以外は?何か他にも持ってるような事言ってたが」
【さっきあの子達が言ってた聖剣がそれね、詳しくは知らないけど⋯あぁ〜別に悪意とかないから、単純に資料が黒塗りされまくっててビーム出る剣としか記載されてないのよね〜。まぁ厄ネタだろうから気を付けてね君塚っち】
「……ありがとう担当官。それともう一つ良いか?」
【んー?何々ー??】
「せめてお前の名を知りたい。担当官だけではつまらないんだ、こんなにも情報を齎してくれた恩人にいつも役職で呼ぶのは少し失礼な気がしてな。」
【……はぁ、分かったよ。じゃあ1回しか言わないからしっかり聞いてね君塚っち】
懐から薄い紙とペンを用意しをメモの準備を完了させた君塚は「どうぞ」と返事をした。
一瞬の沈黙の後、彼女はどこか照れくさそうに、しかし冷静な声ではっきりと告げた。
【じゃあアタシの名前教えるからしっかり聞きなさいよ、『ニケ』。アタシの名前はニケよ。勝利の女神なんて大層な名前だけど負けっぱなしなのよね……覚えた?ならもう切るわね】
「ありがとうニケ、君のおかげである程度敵の予想が出来そうだ。」
【いえいえどういたしましてー☆ ……じゃ、そこの2人の面倒もよろしくー☆ アタシじゃ守りきれなかったから……あんたに任せたわよ】
最後の一言はいつものふざけた調子ではなくどこか祈るような響きがあった。
「ああ、任された。悪くはしないさ」
そして担当官・ニケとの会話を終えた。
「安心しろ二人とも、今回の一件は摂政たる俺が何とかするさ」
二人のために独裁者は悪行を果たすことに決めた、花畑を築けるのは神堂だけで無いと示さんとする為に。
「こうして私達は旦那様と縁を結ぶ事が出来ました」
「うん、ご主人様とここからお付き合いが始まったもんね、つむぎちゃん」
「……旦那様が、人の心と優しさの残されている方で本当に良かった」
「うん。私も同意だよつむぎちゃん」
二人の妻は他の妻と変わらぬ愛を注がれている。
二人の左薬指で輝く金剛石の散りばめられた白銀の指輪。君塚悠里との出会いは彼女達の運命の輪を真っ直ぐに回らせて幸せの方向へと走らせ始めたのだ。
かくあれかし?




