会戦
意外とあっさりめ
廃王カジミエシュ8世は手勢を率いて王国軍へ果敢に突撃する。
「行け!者どもかかれ!!怯むな、我らの敵は丘の上に居るぞ!!」
彼の率いる民兵や騎士たちは砲撃に晒されながらも鬨の声を上げて隊伍をやや乱しながらも王国軍の陣地に突撃していた。
しかし王国軍は冷徹に敵軍の接近に対して冷静な面持ちの士官が大半であり誰もその場から離れる気配は無かった。
「敵兵、やや近距離に接近確認。ぶどう弾装填、装填次第撃て」
「了解、ぶどう弾装填」
と既に近距離に詰め寄られていても大して動揺せず訓練通りの対応をしていた。
更に野砲部隊や戦列歩兵よりも後方の位置に居る榴弾砲部隊も
「上2°修正、左1°修正」
「了解、修正します。」
と野砲隊以上に冷静沈着に砲撃を継続しカジミエシュ率いる反体制派の攻勢をくじきつつあった。
「騎兵が来るぞ!方陣に組み直せ!!」
「図体のデカい馬を狙うんだ!人には当てにくいから馬だ!!」
「前時代の勇者達に鉛の手向け花を贈りつけてやれ!!」
更に馬に乗り槍を持ってしごきながら突撃した騎士たちは丘の上に駆け上がると勢いを削がれた上で歩兵達の方陣に絡め取られてしまい、戦場の華であり勇猛果敢な騎士達は物語にさえ出てこれない筈の無個性な群れである歩兵連隊の剣山の如き銃剣を前に悲鳴を上げて倒れざるを得ず英雄譚は新たな形で綴られる事を世界はこの一戦で認識せざるを得なかった。
何回も斉射されるマスケット銃の銃口はこの世界でも時代を変えて終わらせる致命的な一撃に成っていたのだ。
「父上!!」
最前線で指揮を執っているカジミエシュの隣に居たアレクサンデルは父を馬上から突き飛ばすと彼の頭へ野砲隊の砲弾が直撃しそのまま抉られるように消えてカジミエシュの顔を血肉がべっとりと付着した。
「あ、あっ、アレクサンデル!アレクサンデル!!我が愛しき子にして後継者よ!!!ああ、そんな!!!!」
アレクサンデルは愚かにも未来の無い彼以上に愚かな父を庇い死んだ。
そして父であり、玉座も王太子も失ったカジミエシュ僭称王はアレクサンデルの戦死により心が折られてしまった。
「て、撤退だ!撤退だっ!!今すぐ、今すぐここから離れるぞ!!!」
カジミエシュ率いる部隊は総崩れを起こしそして丘を駆け登っていた部隊が敗走した姿を見て連合軍も敗走を開始、王国軍は果敢に攻めかかり次々と敵兵士を刈り取っていき大損害は確定したも同然だ。軽騎兵隊は次々と馬上からサーベルで切り捨てていき、落伍した雑兵達は重騎兵と歩兵隊の戦果に成り果てていく。
この戦いはこれで幕が下りたかと思われた。
「ぐあああああああ!!!」
「何だ!何が起きている!?」
しかし敵陣へと突入して切り崩した王国軍の騎兵隊が敵敗残兵の殲滅の為に追撃していると、突然悲鳴が聞こえ始めた。
「皆、頼むから俺から今すぐ離れてくれ!!!それと大尉殿!お願いします!私を、私をこの細くて長い「糸」から解放してください!!」
「何だ見えにくいこの糸はサーベルどころか斧でも切れんぞ、何で出来ている!??」
「後退だ、後退しろっ!これ以上被害を出すな!!」
それは敵の悲鳴ではなく王国軍騎兵の悲鳴でありその後続々と首をねじ切られたり、何故か王国軍同士での同士討ちを開始したり、戦場で突然起きた混乱に動揺した王国軍は対応出来ずやむなく被害を抑えるために後退を余儀なくされた。
そこにはこの戦場では似つかわしくない扇情的な服を着た2人の少女が立っており、彼女達はそれぞれのギフトを行使して王国軍と交戦している。
「何だあれは?生死をかけた戦場にファッションショーの様な露出度の高い服を着て来るたわけなんて見たことないぞ」
以前、その二人と変わらない程度に肌を晒して戦場で舞っていた隣のナディアを見て咳払いして誤魔化しました。
「申し訳ございません閣下、ですが閣下の下ではあの様な服は着ませんのでご安心を」
「いや謝らなくて良いぞナディア。謝らなくて良いがまぁ、そのだな。大した事情も無いだろうにあんな服を着るような奴なんて異常者って話だよ」
戦狼の国では割と良く有る服装ですし皇帝の娘で聖女ともなればそれなりに露出も多くなります。
今は平原の国の服に身を固めていましたが以前戦争の際に着ていた皇族用の服はいつかの日の「勝負服」として大切に保管しています。
ついでにヤドヴィガ殿下も煌びやかな服が似合う女性に成りたいと思っているそうですが君塚は貞淑さを求めるのであんまり破廉恥な格好は好みではありません。
このように攻撃を受けて後退していく王国軍兵士達にどこからともなく突然現れた狼の群れが現れて慌てふためく兵士達を次々食い荒らして戦線を荒らされてしまった。
「あーこりゃ……間違い無いな、転生者だ。ナディアの言う聖女なら確かにこれだけの魔法は一応可能かもしれんが……なぁ?」
ナディアに確認の為に問いかけます。
「ええ、あのレベルの聖女ならまず何処かの勢力の傘下でしょうが、あの胸元も腕も腹部さえもはしたなく露出してしまうような服を着せる国は存在しません。あのスケベ心の強い神聖皇務庁でさえ修道服にはキチンとした様式が有ります。」
ナディアは対聖女戦闘の訓練も受けていたのでどこの所属の聖女か服装で判断出来るように教育されていた。たとえ庶子だろうと卑しき血だろうとその点では戦狼の国は王族へときちんと教育を施す辺り、まだまだ大国である事を証明する国力の象徴なのであろう。
「と言うわけで早速出動だメレツコフ、やれるか?」
「お任せを」
司令部から報告を受け、この攻撃で転生者が介入していることが判明した為王国軍単独では処理は不可能と判断しメレツコフ元帥の第二軍管区の兵士達に出動を命じる。
「しかしですな同志君塚閣下、私共もあくまで大量の敵陣地なら攻略した事は有りますが……率直に言えばあのような魔法使い相手に対して我々がどこまで太刀打ち出来るかは不透明であります」
メレツコフ元帥は珍しく不安げな声で率直な意見を述べた。
マンネルヘイム線は動かぬ巨大な要塞陣地であり、今回のような小さく動くが強力な抵抗地点には未経験な彼らは上も下も不安が広がっていた。
メレツコフ元帥は何とか兵士達の恐怖や不安を抑え込んではいたが無数の細い糸や動物が襲いかかってくる恐怖にどう対抗すれば良いか分かっていないのに攻めかかるのだ。
「分かっている。分かっているさ、だが彼女達による王国軍への虐殺は止めねばならない。でなければカジミエシュがさっさと戻って来てしまうだろうからあれは何とか仕留めないといけない」
1回ため息をつく君塚、しかしその目にはまだ闘志は有った。
「大丈夫さ、今から君達の得意分野であの魔女達を何とかしてみせるさ」
「でしょうな、ですが砲撃もあの糸であっさり防がれる可能性が高い状況です。……まぁそちらで何かもうお考えになられていると思いますが、お伺いしても宜しいのでしょうか?」
「ああ、たった今ヴァシレフスキーに指示は出した、そして作戦計画は30分で立てれたよ。だが何が有効だと成り得るか不明なので無責任な事には成るのだが後は野となれ山となれだ。人事は尽くした……メレツコフ、多分貴官の出番はそう多くないと思う。強いて言うなら──」
そして即興で組まれた作戦が実行された。
まずは3個師団で2人の少女に対してありったけの砲弾を振り注がせて視界を奪った。
師団隷下の砲兵連隊が弾薬を必死に打ち込み彼女達を制圧して動けないようにしてから近くに寄り付いた兵士達が迫撃砲で煙幕を張り君塚軍の動きを悟らせないようにした。
「ぐっ、この、これじゃ身動きが取れないっ……!ミウ、そっちのお友だち達はどう?魔獣達は動かせそう!?」
「つむぎちゃんむ、むりだよぉ、こんなに大きな音で友だちに私の声が届かないし、作るのも──ひいっ!?」
君塚の兵士から届けられた砲弾がまた直撃したものの2人は無傷でありそろそろ魔力で行う鼓膜防御も全方向から響く砲声により限界が近付いていた。
糸使いの少女──桂木つむぎは糸のドームを作り出して相方の小さな赤ちゃんの狼を抱きしめる魔獣使いの少女──雨宮美羽に対してギフトの使用が可能か確認していた。
彼女達は龍の国の実質的な支配者、神堂龍牙のハーレム所属の下級妃であり、今回の従軍の要請を神堂に直接依頼されつむぎと美羽の上級妃昇格を持ちかけられたので従軍していた。
しかしピエール枢機卿は政治的に主導権を握れず、足並みを乱そうとしてくる彼女達を疎ましいと思いあまり戦線に出さずそしてこのように総崩れした後今更出てきてしまう事に成る。
2人が防戦一方で視界を封じられた結果、外部の状況を完全に見失っている間に君塚軍は確実に包囲網を狭めていた。
平原の国の主力戦車であるT-80戦車の暗視装置とサーマルセンサーが煙幕の中で視界を失い狼狽える魔獣を捉える。
「目標の害獣を確認した、あのクソったれなワンコを排除せよ!」
「榴弾で良い!徹甲弾は不要だ!!」
「機銃掃射だ!機関銃で事足りる!!」
「どんどん威力が下がってってるぞ!?そんなに侮って大丈夫か!??」
車長は大隊長や部隊の指揮官から命を受けると砲手には125mm滑腔砲の使用ではなく、同軸機銃が正確に魔獣たちを射殺していく。
「全く、向こうで死んでから異世界に来て一発目の大仕事が戦車に乗ってそこらを彷徨いて動物虐待かよ」
砲手は愚痴るが車長は逆に鋭く、然し現実的な切り返しをする。
「しかし初仕事がこんな動物虐待みたいな仕事で良かったよ、もし魔法使い相手なら俺もお前も戦車の中で膾斬りされてたさ」
LZの安全が確保されると上空から重厚なローター音が響き渡った。
作戦の簡単な解説はこうだ。
まず砲撃で視覚と聴覚から得られるであろう情報を消してしまった後に戦車部隊が魔獣を排除、そして歩兵部隊を展開してMi-24から降りた兵士達が直接二人を制圧するという極めて単純な物である。
現状無線も通じておりこの場に連絡の齟齬は起こり得ない事を確認した上での判断だった。
しかし歩兵部隊には生け捕りを厳命しており兵士達は難易度の高いミッションに赴いていた。
君塚はこの転生者2人が連携して動いている事に注目して2人を何としても捕らえて尋問する必要が有ると思い最悪の場合を除き必ず生け捕りにするよう求めていた。
そして執拗な砲撃が一旦止んだ瞬間、この戦場逃げる為につむぎは糸を完全に解いた。主からの命令は果たせず、そして負けて帰るのだから相当な折檻が有るのは当然の覚悟で臨んでいる。
だが、その瞬間目の前に現れたのは無数のハインド達であり、そして自分達の周りを戦車や歩兵が十重二十重にネズミの這い出る隙間さえ埋めるように取り囲んでいたのである。
「美羽……」
つむぎはそっと泣き出しそうな美羽を抱き締める。2人は元々面識は無かったが神堂のハーレム入りをしてからは彼女達は親友となり美羽が虐められているとつむぎが必ず追い払ってくれた事が美羽の大切な思い出に成ったのである。
目の前にやって来た平原の国のロシア系兵士1個分隊が2人を拘束した。
そしてその部隊の指揮官らしき男が告げる。
「先程はお二人とも大変素晴らしい連携でしたね。ではその件で私の雇い主殿がお話があるそうです。ズラトポルまで、ご同行いただけますかな?」
その言葉は丁寧だったが、目つきや手元のライフルを見て自分達の拒否権がないことは明白だった。
二人は自分たちの迫りくる運命を予感し絶望に目を閉じた。
何とか復調




