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【祝累計15000PV突破】何故現代兵器をファンタジー世界へ持ち込んではならないのか?  作者: ウォルギリウス
第10章

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縁談について

式は一度終わり

アナスタシアの戴冠式は、日中の間に恙無く終わった。


彼女が皇帝として正式に即位したことで鷲の国の玉座は空位ではなくなり、各地で雨後の筍のように湧き出ていた『偽アナスタシア』や僭称者たちも次第に鳴りを潜めるだろう。正統なる帝国政府はこの日をもって樹立され、各国の支援のもとで本格的な復興計画が策定された。北西の空に、再び偉大なる双頭の鷲が飛翔する日もそう遠くはない。


だが、そんな祝賀ムードに包まれた宮殿の中であまり浮かれていない、沈んだ表情の王が一人いた。


龍の国女王、シグルーンである。


彼女は君塚たちの協力で神堂から祖国を奪還したは良いが、軍のトップから転身した宰相グスタフによる強権的な軍政のもと、独裁的ではあるが国内の治安は改善し、経済も一応の回復傾向にはあった。

だが一方で、復興のために各国から取り付けた莫大な支援のうち、有償のものは当然ながら『返済の義務』が生じており、その支払い期日が冷酷に迫りつつある。さらに、国際的な支援の軸足が「復興の進んだ龍の国」から「崩壊直後の鷲の国」へと移り変わりつつあり、このままでは龍の国は国際社会から放置されるのではないかと、彼女は強い不安に駆られていたのだ。

龍の国の治安回復を名目に駐留していた平和維持部隊も、王国軍再建の目処が立ったため撤収を開始しており、高地の国の部隊は既に大多数が撤兵済みである。

そもそも王国首脳陣には、まだ解決の糸口すら見えない課題が山積していた。

隣の山の国へ神堂政権崩壊に伴い龍の国に対する債務不履行(デフォルト)を強行宣言し、そのまま経済が崩壊して内戦へと陥ってくれたのはある意味で幸運であった。しかし、西方諸国─特に高地の国と低地の国からの支援は有償のものが多くまだ再建途上の王国が耳を揃えて支払えるかと言われれば、極めて怪しい状況だったのだ。


「ならば」と、グスタフ宰相は複数の国難に対する要因を思案し一つの冷徹な結論に辿り着いた。

―シグルーン女王を君塚悠里に嫁がせ、平原の国という巨大なパトロンから半永久的な支援を取り付け続ければ良いのだと。


平原の国からの支援だけでも返済を引き延ばし、あるいは帳消しにできればそれだけで国家の経済的破綻は避けられる。


さらにグスタフにはもう一つの打算があった。

現在の王室に対する支持は国内で激しく低下している。シグルーンを君塚という「英雄」のもとに一時的に退避させ、あわよくば君塚の血を取り込むことで、地に落ちた王家の権威を取り戻すことを望んでいたのだ。


先代であるヘルウィヨトゥル女王の治世は完全に晩年を汚し「神堂政権を台頭させた暗君」として歴史にレッテルを貼られている。さらに彼女の妹たちの一部も神堂の下級妃として後宮に囚われ、飾り物にされていたのだから残されたシグルーンに対する民の視線も厳しいものとなっていた。


確かに彼女とグスタフはあの転生者へ最後まで立ち向かった数少ない軍閥ではある。しかし、国内に踏み止まって抵抗を続けていた他の派閥からすれば、「王党派は他国(平原の国)から支援を得てノコノコと安全圏から戻ってきた売国奴」として見られることも多い。


要するに、想定通りではない今と近い未来にグスタフ以下現政権の首脳陣は焦っていたのだ。

王党派の求心力はどうしようもない程に低下しており、このままでは非王党派や僭称者達の方が民衆から支持されてしまう可能性が極めて高いという現実に苛まれる。


『ですので陛下。何卒、此度の懸案を対処する為に、どうか平原の国の君塚摂政への婚姻を決断されますよう奏上いたします』

『な!? わ、妾にあの変態男に嫁げと申すか、グスタフよ!!??』

『はい。陛下にとっても悪くない婚約関係かと思われますが、如何でしょうか? 既知の仲ですし、何より陛下のファースト・キスを奪われた方にしっかり責任を取っていただくのは政治的にも筋が通るかと』

『そ、それをほじくり返すかグスタフ!? 妾と奴とのアレは不問に付したであろうが!!』


わなわなと恥ずかしさに赤面し、突然自身の婚約について勝手に外堀を埋めようとする宰相への憤慨からシグルーンはプルプルと震えていた。しかしグスタフは冷徹に、何とか無理を承知で承諾させようと畳み掛ける。


『第一、もう我が国から平原の国へ提供出来る担保は王室の血…それも今も清らかな処女であられる陛下を差し出すしか、最早対等な外交関係を目指せる道筋は無いものかと…』

『は、母上! 母上ならどうじゃ!? 年増じゃがまだ美貌は有るぞ! それに―』

『陛下! 成りませんぞ!!』

『ひっ! ぐ、グスタフ…』

『御母上を差し出すような真似こそ、絶対に避けねば成りませぬ!! ヘルウィヨトゥル様が、現在あのような精神を病まれたご容態であることはお忘れでしたか陛下!!!』

『ぐぬぬ…。じゃが、君塚殿と妾はそこまで親しいわけではない。もしこちらから押し掛けて、あっさり断られでもしたら…』

『その時はその時でございます。陛下の安全な亡命・避難先を探します故、ご安心くださいませ』


「避難先」と言う言葉にシグルーンは大いに憤慨した。何故、自分がまた王都リンドルムから逃げ延びねばならぬのかと血圧が昇りきっていたが、女王としての理性で必死に落ち着こうと努力した。


『…妾は、そんなに臣民から愛されておらぬのか!? グスタフよ!!』

『はい。我ら臣下の至らぬ所ではございますが、民の中には先王の醜態が頭と心にこびりついて離れぬ者も多くおります』

『むぅ…。人の母親を売女呼ばわりし、剰え妾もそのように…愚弄するとは…!! …ふぅ、確かにそうかもな』


やはり自分の家族を愚弄されることには腹に据え兼ねるものがあったが、それでもそれが自国の臣民達の偽らざる意見なのだ。シグルーンは悔しさを飲み込み、一度こらえる事にした。


『じゃが! 母上の事を愚弄するのは筋違いであり、そもそも…分かった、分かった! なら妾はこの国のためにあの男に嫁いでやるわい!!』

『ご英断いただき感謝致します、陛下。我ら臣下も、ご婚約に向けて粉骨砕身努めてまいりますのでよろしくお願いいたします』


そうして龍の国ではシグルーンを君塚へと嫁がせる事が半ば決定事項として進められていた。後は平原の国からの返答を伺うだけだ。

しかし平原の国からの返答は無く、それどころか「君塚悠里が誘拐されてしまった」と言う報せが入り宮廷内は折角立て直し続けていた事業計画も怪しくなり大混乱に陥った。


そんな中、君塚悠里による鷲の国平定の吉報が届いたのだ。

これで縁談について直接本人に対して意思の確認をする事が可能になった。平原の国政府という官僚機構を通すのではなく、やはり君塚本人を通してこの様な一大事を取り決めるべきなのだ。決して平原の国政府が信用出来ない訳では無いが、直接交渉に勝るものはない。


だからこそ、今日の大舞台で彼を何とか捕まえ約束を取り付けねばならないのだ。


戴冠式が終わり、一時間程度の昼食会が開かれた後。

休憩として暫くの空き時間が生じており、それに合わせて要人たちが立食形式で談笑し鷲の国の今後に関する議論を交わしている中、シグルーンは何とか君塚悠里の姿を見つけた。

彼はヤドヴィガと何か親しげに話していたが、シグルーンの熱い視線に気付くとヤドヴィガと別れてシグルーンの方へと歩み寄ってきた。


「君塚殿!」

「ああ、シグルーン陛下。ご無沙汰しておりました。これまでいかがお過ごしでしたか?」

「こっちは心配せんでよい! それより心配したのだぞ! 連れ去られたと聞いて、妾はどれほど不安であったことか…!! 馬鹿者、大馬鹿者…!!」


ドンッ、と胸に飛び込み、シグルーンは人目も憚らず大粒の涙を流した。


こうすれば、あの男は情に絆されて婚約を申し込んでも断りにくいだろう。とグスタフが入れ知恵していたからだ。


「…で、これは何方からの入れ知恵ですか、陛下?」

「…」

「グスタフ宰相閣下ですね。成る程、今回の婚約を結ぶ為に敢えて衆人環視の中で外堀を埋めようとされたのですか」

「…そうじゃ。何が悪い」


悪びれる様子も無く、むしろ当然の様にその金色の瞳孔が君塚の心中を射抜く様に見つめ上げてくる。


「妾は今や、母も妹も神堂のせいで廃人ぞ。何れは王家の血統を護らねばならぬし、その為にも誰か強い婿を取らねば王家は妾の代で途絶えてしまう」

「だから私を? 他に候補は無かったのですか? 私は出自は賤しき異世界の平民の出ですよ、陛下」

「じゃが、我が国を救った英雄であるのは変わるまい。むしろ妾は貴殿のその泥臭い実務能力を頼りにしているから好都合じゃ」


売り言葉に買い言葉。シグルーンはあくまで退く気はなく、むしろここを『決戦の場』と定めていた。彼女の赤い髪がフワリと靡き、ツンと鼻を突くが決して不快ではない高貴な香水が香る。


「しかし陛下は今回の縁談話は本当によろしいのですか? 個人的な感情、そして君主としての心情から鑑みれば、私よりももっと相応しい『良い物件』くらいはありそうなものですが…」

「ふっ、何を逃げ腰な事を言うかと思えば…やはりそう来ると思っておったわ」


グスタフとの打ち合わせで想定通りの君塚の反応に、したり顔に成るシグルーン。


「ならば問おう君塚殿。まさか妾が、低地の国のウィレム王にでも嫁ぐとでも言うのかえ? 彼の者は有名な愛妻家であり、そして次の王として後継者(もね)も指名してしまった後よ。そんな王に押しかけて嫁ぎ、子をこさえてどうする? 低地の国でお家騒動を引き起こして、亡国の悪妃にでもなれと申すか」

「それは…まぁ、確かに。真っ当な男の王で西方諸国となると、最早ウィレム王しか居りませぬから、政治的にはやむを得ない選択かもしれませんが…」

「それに、貴殿が『王』の身分でないという点も問題無い。妾は『共同統治王』として君塚殿をお迎えする予定でグスタフが進めている。どうだ? 妾との婚姻を――」


「ちょっと待ちなさい、シグルーン女王」


シグルーンが後一歩の段階まで外堀を埋めかけたその時、横から冷たく通る声が割って入った。

その凛とした佇まいで女帝としての威厳を放ち、国益に関する話であるが故に一切の油断を見せない、エリカ・フォン・ホーエンハイム帝その人である。


「我が国には貴女のその縁談話は知らされていないのよ。『同盟国』として今回の縁談、流石に我が国とも事前に協議して話し合うべきだと思うのだけど、いかがかしら?」


高地の国としては平原の国(君塚)に他の女がこれ以上必要以上に近付かれるのは、例え現在三国間が良好な関係と言えどいつどの様な展開を迎えるか分からないので非常に困るのだ。


「エリカ殿。これは我が龍の国と平原の国に関する外交と内政に纏わる話じゃ。主権国家として、これ以上介入されるとなると主権侵害に該当してしまうぞ」


シグルーンは最上段に構えた『主権』と『国家の内政干渉』という正論で対抗しようとした。


「ええ、でも我が国としては一度は話を通してほしかっただけよ。でも貴女方は全く我が国には知らせず、極秘裏に進めていた。…もっとも、うちの諜報網では全て掴めていたけれどね」

「…で、どうしたのじゃ? 妾は君塚殿と婚約するのじゃから、これ以上は―」

「その君塚悠里は、既に…」


エリカは懐から一枚の書類を取り出し、シグルーンへと見せ付けた。

それを見た君塚はそっと一瞬だけ目を逸らし、すぐまた戻した。


「……それは、何じゃ?」

「高地の国でも有効な『婚姻届』よ。此処に私の名前と夫である『君塚悠里』の名前が記載されているわ。つまり…」

「は…? 高地の国で、俺はいつの間にか結婚していたって事が起きてる…?」

「はぁ!? き、君塚殿! いつの間に結婚されていたのじゃ!??」


シグルーンは目を丸くして君塚へと尋ねるが、当の本人すら全く知らなかった様子で冷や汗を流している。


「いえ、私も初耳ですよシグルーン陛下。え、エリカ、これは一体…てかそれ、どう見ても『日本国の婚姻届』の書式じゃねぇか!!」

「ええ。でもこの日本国内で発行される書式も、私が法を定めた高地の国では有効なのよ? ね?」

「そんな無茶苦茶な…」


呆れる君塚だったが、確かに『日本国の婚姻届』はこのファンタジー世界ではもう二度と確保できないある種の唯一無二の存在である。偽造も不可能だろう。


「てか、俺書いた覚えが全く無いんだが…でもこの筆跡は確かに俺のものだ…」

「前世で貴方が酔った時にお願いしたら、笑いながら書いてくれたじゃない悠里? 大切に持ってきたのよ」

「心神喪失状態による記載なら法的に無効に出来るはずだ…!」

「あら、もう私のサインも入れて受理されているし、完全に有効になったわよ。見る?」


エリカは悪魔のような微笑みを浮かべ、懐からまた別の書類を出してきた。

そこには『住民票』と書かれている。


「『君塚悠里』と『エリカ・フォン・ホーエンハイム』の間に、夫婦関係が存在する事を此処に公的に証明する…だと!?」


君塚は素っ頓狂な声を上げて驚いた。一国の法と権力を私情第一に私物化して、そんな無法が許されて良いのかと。


「ええ。だから私は今、悠里の正式な『お嫁さん』なの。だから龍の国のシグルーン陛下、貴女は…そうね、悠里の『二番目の愛人』くらいにならなれるけど、どうかしら?」

「ぐぬぬ…! じゃが、ワシはまだ…まだ諦めぬぞ!!」


こうして日中であるにも関わらず、各国の首脳陣が集まる大広間の片隅で女の意地と国家の存亡を懸けた修羅場がこうも容易く勃発したのである。

この恐ろしい冷戦が今日一日中続く事になるなど、まだこの鷲の国に居る女達は誰も知らないのだった。

そして披露宴に向けて舞踏会は始まる


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