再開と再会
出迎える
滑走路に国内軍のSu-35SとJTFのF-35Aが厳重な護衛についている超大型輸送機Il-76が優しくタイヤを地面に接地させながら着陸する。速やかに正装の国内軍兵士が駆け寄り、レッドカーペットや楽器を携えてせかせかと歓迎の準備を整える。
そして誘導路から駐機場へと誘導され機体が完全に停止し、後部の巨大な貨物室のランプが開く。本当なら君塚はもっと豪華な専用機で二人を鷲の国皇帝戴冠式へ案内したかったが今の装備ではまだそれは叶わないらしい。
機内からヤドヴィガと君塚透が降りてくる。ヤドヴィガは幼いながらも白と赤を基調とした豪奢なドレスを身に纏い、気品に満ちている。まるで平原の国の未来を象徴するように赤く輝くフリルは金色の髪の毛と共に太陽の様な明るさを持ち、彼女の天真爛漫さを表すと同時に王国の絶対的な象徴としての存在感を出している。
一方の透は白と紫を主体とした法衣でその清楚で可憐な顔立ちを表している姿が息を呑むほどの美しさを際立たせている。白いマンティヤを被りながらも、銀色の透き通る程の美しい髪の毛は存在を主張し、紫色のオモフォルとサッコスは決して彼女の肢体のラインを覆い隠さずその芸術品の様な美麗さを醸し出していた。持参してきたジェーズルには二つの聖女像が付けられ、首からは2枚のパニギヤと聖女像の付けられた美しいネックレスが目に映る。
二人は優雅に機内から降りると両側の軍楽隊の勇壮な演奏と共に歩みを進め、愛する君塚が連れ去られてから3ヶ月ぶりに会うため出迎えた君塚の下へと向かった。
一方の君塚も彼女たちの無事な姿に深く安堵し、ゆっくりと歩み寄る。
「ご無沙汰しております、殿下。長らくお会い出来ず誠に申し訳ございませんでした。それと透、元気にしてたか?」
「はい!君塚様とお会い出来ず心配しておりましたがご無事そうで何よりです」
「うん。兄さんの顔を久し振りに見れて、私は嬉しいよ……良かった。兄さんが無事に、生きててくれて……!」
「まぁ」
透は周囲の目も憚らず勢い飛び込み、君塚の胸に激しく抱き着いてしまう。
「うぐっ。と、透……」
「うっ……ごめん兄さん。私が、私が傍にいながら守りきれなくて……兄さんが、兄さんが死んだのかと……ごめん……」
「気にしないでくれ。まさか俺も、あんなアホな女がゴリラ過ぎる力技の戦法で来るなんて想定外だったぞ……ヘリコプターあんなに街中に出してくるなんて……」
「ぐすっ、ううん。私、もう、兄さんしか、ひうっ、家族居ないのに……守れなかったら……私……」
「よしよし、お前の兄はここで元気に過ごしてたぞ〜。ほらほら、泣き止んでくれ透。折角の美人さんが台無しに成ってるから」
「……うん、わかった」
「良い子だ。折角の最高のおめかしが、台無しになる所だったぞ」
「えへへ、ありがとう兄さん」
透の化粧が崩れないよう悠里は胸元の絹のハンカチで涙を優しく拭い、宥めるため額に優しくキスをする。
「お元気そうで何よりでした。我が忠臣にして、頼れる我が最強の矛たる君塚摂政。どうでしたか? こちらの鷲の国は」
「ええ、まぁ。それなりには安定化させられるとは思います」
少し自分だけ除け者にされたようでムッとしたヤドヴィガだが、君塚は彼女へ恭しく一礼し簡単な報告を済ませる。
「ふふ、なら良かったです。何ヶ月も君塚様のお顔を見れず心配しておりましたので……まぁ、こちらの透聖下の方が心配のあまり危ない所になりかけておりましたが」
「そういう陛下も毎夜夢に魘されて、『宮殿に悪魔が湧いた』とか、『悪霊に王国が祟られた』とか、様々な事が陰で言われておりましたよ? 私も良く呼び出されて誰かのイタズラや呪いの線も探りましたが、全く無くって……」
「なっ……! ち、違います! あ、アレはたまたま、そう、たまたま悪夢を見ていただけです!! け、決して君塚様があの後討ち取られたとか、そう言う最悪の事態が脳裏にこびり付いたとかではなくてですね!!!」
(……殿下を俺はそこまで精神的に追い詰めてしまったのか……)
平原の国の王宮では生存の連絡をしたのに相当に二人が大騒ぎしていたようであり、自身の邸宅に戻ればメイド達や居候がどれだけ騒ぐのか想像しただけで胃が痛くなるのは気の所為ではなかった。
「では、お二人の宿をご用意しておりますので此方へどうぞ」
二人が乗るための馬車が用意され、君塚は手を取り二人をエスコートした。荷物は別のトラックが運ぶように成っている。
「はい。では参りましょうか、君塚聖下」
「そうですね、殿下。早く行かないと、式典の打ち合わせもございますから」
そして出発した馬車はガタゴトと車体を揺らしながら発進し、六頭の馬の嘶きと蹄の音が聞こえる車内で二人に君塚のこれまでの近況を尋ねられていた。
左右にはすっかり程よい気候の秋になり、紅葉する街路樹が飾られていて落ち葉を巻き上げ順調に進んでいる。
「それで今は君塚様はどのような状況でしたのでしょうか? あんな【荷物】が送られてきて私は貴方様が完全に勝たれたのは理解しましたが」
「そうだよ兄さん。私達あれ程心配したのに送ってくるのはずっっと軍人さん用の事務的な作戦書類とか連絡用の士官だけで兄さん本人は全く来なかったし……」
「……まあ、何処から話せば良いか全く分からないと言うか……色々有りすぎて今もまた出来事が起き続けているというか……。後【荷物】が無事届いてよかった。あれに逃げられたら鬱陶しさが倍増してしまうからな」
頭が痛くなる報告が度重なって心労が祟りかけた場面が相次ぎ君塚は一度倒れかけていたが、それでも戴冠式までは何とか持ち堪えさせている。
「取り敢えず国内軍へ更にもう一つの部隊が創設されました。彼らは従来の国内軍とは異なり、全く別の体系の装備を用いて面制圧力だけでなく精密な攻撃を得意とする軍隊です。今後の戦争において彼らを使うのは拠点防衛と戦争への発展の抑止がメインとなるでしょう」
「それが、前に言ってた『JTF』、だよね兄さん。所であのアメリカ軍兵士達は一体何処からだしたのさ。今までロシア人の兵士達しか居なかったのに」
「担当官がエリスから代わって別のやつになったが、そいつが別の奴のシステム乗っ取って、俺のギフトをぶっ壊してシステムエラー起こさせた結果らしい」
「ええ!? 兄さんそれって……」
「今は取り敢えずあの……はぁ。担当官の双子が余計な事をしてるから取っ捕まえに部下を向かわせてる。こないだも勝手に空母と艦載機とその護衛艦をポンポン買いやがったし、戦車や装甲車もぞろぞろ地平線から来やがったし、ステルス戦闘機が突然飛来してきてパニックになるわ……全く」
「あはは、大変そうでしたね君塚様」
「ですが殿下とこうして再会出来て幸運の限りです。私もある程度覚悟はしておりましたので、こうして無事戻る算段がついてホッとしました」
君塚は過去を振り返ると頭を振り辟易した表情である。王国南部の僭称者反乱から始まり、アナスタシアを保護してから新倉菜月の強襲で拉致され、鷲の国に流れ着き、赤軍を降してそのまま天道の大艦隊を撃破し、平原の国正規軍による帝政復古を成し遂げた。
各地の内戦も終わりこれから鷲の国の政府は復興していく。
その為に必ず通る道があるのだ。
「……そう言えば、エリカ義姉さん来てるんだっけ」
「あの高地の国の女帝ですか。面倒な方がいらっしゃるようで。公衆の面前でまた君塚様を口説いたり求婚しないと良いのですが」
「他にも低地の国のウィレム王陛下や一応龍の国の現女王のシグルーン陛下もいらっしゃる予定ですし……まあ概ね我が国と親しい国家は鷲の国の暫定政権を承認する予定です」
「大体我が国と既に親交のある国家群ですね。もう西側には敵は居なくなるのでしょうか?」
「そうなります。もう敵は西には居なくなるでしょう。もし未知の転生者達が来て唐突な建国等がなければ、ですが」
平原の国による平和は【ある程度】達成された。
だが一方でその但し書きの意味は非常に重く、そして不規則で無軌道な『ならず者達』が君塚の敷く国際社会の秩序へと挑まない事が条件である。彼らは今西方に比較して発展出来ていない東方世界で暴れているが、もし、いや恐らく近々君塚の築き上げた西方の世界へと挑む事があるだろう。
彼らは君塚のせいで広まり始めた劇的に発展させられる近代的科学文明を嫌い、魔法と実力主義の東方へと逃れ、とある地方のギルドに所属する冒険者であったり、王国を裏から操ったり、奴隷たちを囲いハーレムを形成したり、或いは山奥に隠遁して逃げていたりした。
人の姿をした厄災である彼らが今後一切西へ来なければ西方世界は安泰だろう。
そうでない者は西方の文明社会に愚かにも挑み、そして須らく君塚の火力の前に破滅した。
平原の国という王国は今や絶えず文明の護り手であり、全西方聖女教徒の絶対的な護り手なのだ。
「転生者……。ですが、君塚様がこれだけ強大な軍事的示威行為を行ってもまだ挑まれる方は居るのでしょうか?」
「間違い無く居ますよ。狙いは私の首そのもの。であれば、勝利のみを見て被害も何もかも顧みず突撃してくるでしょう。中には私の兵器への対応が可能、または無効化して突撃してくる者もいるかもしれません」
「その時は私が出るよ。私はファンタジー攻撃の担当だし、彼奴等ごときには後れは取らないよ。私には聖剣が有るし魔法も使えるからどんな相手でもぶっ倒せるさ!」
「ありがとう透。俺もこんな大軍を率いてるんだから十分ファンタジーだろうにな……これでファンタジーじゃないなら、一体何がファンタジーだよ。女ばっかりに最前線で戦わせてる情けない奴に成ってそうだ」
つい嘆きが出てしまう。己の使役する軍隊は結局、どれだけ現実離れした数を率いた所でそれが復活する残機になるわけでも、ステータスを底上げしたり、現代兵器への無効化への耐性が出来るわけでもない。
所詮、ただの圧倒的な『軍事力の暴力』でしかないのだ。
「あら今更そのような事を気にされるなんて。度量の小さな方が、私の父代わりになられ、今や私を傀儡にして大帝国を仕切る主になられたのでしょうか?」
「殿下。そのような事ではなく、私はあくまで己の無力さを嘆き、自身の能力の無能さを恨めしく思っているのです。断じてファンタジーに対抗する能力のある者への嫉妬などではございません」
「ふふ、少しからかっただけですよ。ずっと私を放置していた事への、ささやかな仕返しです」
「参りました殿下。今度からは何が何でも必ず殿下の下へこの君塚悠里は無事舞い戻りますのでご安心ください」
物々しい雰囲気の宮殿の周囲には各国の賓客が次々と到着し、市街地は一気に慌ただしくなる。交通整理はより厳密に行われ、封鎖される場所が多くそして主要な地域には必ず装甲車による検問が設置されて物流に悪影響が出ていたがそれでも強行していた。国事であり、そして非常に重要な式典の実施なのだから無論厳しい統制下に置いて帝国の治安を回復させようとしているのだ。
そして、二人と君塚が宿にする豪奢な貴族の邸宅にやって来た。元々はここは帝室の者が保有していたらしいが今は新倉により殺害されてしまったので帝室の財産として接収しているのだ。そしていつかここは平原の国資本の高級ホテルにする予定である。
「わぁ……綺麗な豪邸ですね! まさか紛争地帯にこんな立派な所がまだ無傷で残っていたなんて」
「ええ。まあある程度はこちらでも急ピッチで改修しましたが、それでもまだ原状復帰には程遠いようでして」
「ねえねえ兄さん! プールが有るよ!!」
「そうだな透。だが、今はやめておけ。あそこはまだ掃除中だ。血糊とか色んなが残ってるかもしれないしな、とにかく庭園はまだ不潔なんだ。」
ふと、透は他の女性達の存在を思い出し兄に尋ねた。
「ナディアちゃんとか、後は、ええとニケ……だったっけ? あの子達はどうしたのさ。護衛についてたレーナって人とか」
「ああ、彼奴等なら既に先に入って待ってるよ。ついでに『捕虜』も一緒にな」
「えぇ……捕虜?」
「ああ、捕虜だ。だが安心してくれ、別にもう抵抗も出来んし何なら念の為見せてやりたくて連れてきてるからな」
「わざわざ、ただの虜囚を私達に会わせるなんて。君塚様? その方はそれほど『価値』のある方なのですか?」
「見方によれば、でございます。価値が有るかも知れませんし、無いかもしれません。ただお見せして、それから一度殿下のお考えを伺いたく存じます」
「わかりました。ならその方へお会いしましょう」
三人が泊まる邸宅は再会の一時を迎え再びここから三人の時が始まる。
そして陽はゆっくり傾き、帝都オリョールを紅く染め上げていった。
そして帝国の復興へと一歩進む
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