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【祝10000PV突破】何故現代兵器をファンタジー世界へ持ち込んではならないのか?  作者: ウォルギリウス
第10章

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即位と祭典

戦争が終わらない

鷲の国・帝都オリョール。


かつて新倉結菜が狂信と共に翻した『ソビエト社会主義共和国』の真っ赤な旗は市庁舎や宮殿から次々と引き摺り下ろされ、代わりに速やかに帝国の正統を象徴する『双頭の鷲』の旗が掲げられていた。


各地で反動分子としてクラーグ(強制収容所)に放り込まれていた市民たちが解放され、帰宅の途についている。痩せ細り絶望の淵にあった者たちを平原の国・国内軍のカーキ色のトラック(KAMAZ)装甲車(BTRやBMP)が村や都市へと送り届けている。破壊され尽くした平穏な日常を取り戻そうと市民は瓦礫を退け、再建の土台作りに健闘していた。


だがそんな中で帝国暫定政府には目下の重い課題が存在していた。

帝位の「暫定的な皇帝」としてアナスタシアが存在しているものの首都の混乱に乗じて各地で軍事的野心を持つ『僭称者』達が武装蜂起しており、治安・平和維持部隊が対応を迫られる場面が急増したのだ。


地方では旧軍の残党や有力貴族を糾合した軍閥が起こり、東部ではアレクサンドル・コルチャークやグリゴリー・セミョーノフ。南部ではアントーン・デニーキンとピョートル・ウランゲリ。北西部からはラーヴル・コルニーロフといったロシア革命後の『白軍』を思わせる聞き覚えのある家名の将軍達がそれぞれ現地の軍を私物化し、彼らを率いてオリョールの暫定政府に宣戦布告していた。


彼らは新倉という共通の敵が敗れ去り、新たなる体制へと移行されるのが確定した途端、「共和制への移行」を叫んだり、自身の地域で見つけた『偽のアナスタシア』を正統な皇帝として担いだり、挙げ句の果てには自分が帝位に就くと豪語する者まで居る始末だ。


復興の為旧鷲の国帝国軍を中核に暫定政府軍を立ち上げたアナスタシアだがまだ発足したばかりの弱卒な民兵部隊に過ぎず、平原の国・高地の国による『多国籍の有志平和維持部隊』がこれらに対処していた。


そしてそのような遠心的な分裂の動きに対抗する為に、君塚は「皇帝の権威を盤石にする」決定的な一手を打つことに成る。


アナスタシアが住まう宮殿へと君塚は来訪した。仰々しい装飾の馬車から来賓用の門へと辿り着くと君塚は少し慌てた様子で駆け降りた。なぜなら、門の側にある『もう1台の無駄に装飾の凝った馬車』の乗っていたであろう人物に嫌な心当たりが有るからだ。


「はー、面倒な事に成ってきたな。あいつももう到着していたとは……少し説得が厳しいかもしれん」

「だ、大丈夫ですよ多分……総司令官様の手腕が上手く行かないなんて、そうそう起きませんよ……ははは」

「すまんな、マクレガー少尉。急ぎだったとはいえこんな所に無理矢理連れてきてしまって」

「い、いえいえ! そんな事は無いですよ!! 閣下と共にこうしてあんな綺麗な宮殿へと同行できるなら光栄です!!!」

「そうかい。まぁ……どうしてか、すごく嫌な予感がするんだ……。あんな威圧的で無駄に凝った馬車が既に来ているなんて聞いてないぞ、ったくあいつはこっちに来てから脚が早くなったんだな」


正門から宮殿内に入るとJTFや国内軍の支援により幾らかはかつての栄光と威容を取り戻させることに成功したが、やはり革命騒ぎにより人材が不足気味なのは現実である。そのため君塚が『官僚創造』のギフトである程度補っている創り出された官僚達や旧帝国軍・正規軍出身者達の中でも「正しい帝室へと忠節を誓う一部の帝国貴族や士官達」が慌ただしく歩いているが、君塚たちには一切気が付いていないようだった。


窓から見える外は廃墟と化したオリョールが順調に復興させられていく姿であり、解放されてまだ日が経たないのにもう仮設の出店を建てている逞しい市民さえ居る。或いは住民達の為の家具や資材、食料を運ぶ馬車の往来。そして平原の国のBTR-82ATやティーグルMに乗った憲兵隊が再編中である現地の警官隊の代わりに交通整理を行う様が見えた。


空には各地からオリョール住まいの者達を乗せたMi-8輸送ヘリコプターが飛び交い、彼らを故郷へ連れ戻していて平和維持部隊として駐屯させているJTFのF-15EXが轟音を立てて何処かへ飛び去る様も見えた。


「無事、こちらの用件(戴冠式の相談)も済むと良いんだが。どうだろうか……ナディアもレーナも今は居ないし、頼れる連中も今は反逆者の鎮圧にかかりっきり……。どうしたものかねこりゃ」

「は……はは……私では、やっぱりご不安ですよねぇ……私、最近塹壕内で味方に誤射の暴発事故起こしたりしましたし」

「拳銃しか持参してないんだから宮殿内なら大丈夫だろう。それに薬室からは弾を抜いているんだろ?」

「まあ……はい」

「よし、なら気にするな。ただの護衛の『見栄え』だ」


ナディアとレーナは今は天道の工作員であるリフィーネの収容コンテナの厳重な警備に配置されていて、君塚の護衛はたまたま手が空いて残っていたJTFの隊員である『ケーシー・マクレガー少尉』が傍らに居る。


彼女は敵兵との戦闘中に極度の緊張から銃を誤って味方に撃ってしまったと言う事件で前線から左遷され、今はキャンプ・フォードの兵站倉庫の管理者の一人として後方勤務を命じられていた。


取り敢えず暇そうな兵士を探していた君塚の目に留まりそのまま宮殿へと連行されているのだ。


そんな二人はアナスタシア殿下の政務室に辿り着いたが、その重厚な扉の前に最新のG95A1アサルトライフルを携行している高地の国の兵士が立っていた。彼は目深にバラクラバを着用し、手袋も着け、まるで暗殺部隊の隊員かのように表情と身体を隠していた。


「はぁ……やっぱり来てたか、エリカ」

「高地の国の女帝陛下……でしたっけ? それも、総司令官様と『深いご縁』があるとか」

「もう終わった関係だよ。こっちに転生して来る前にな、とっくの昔に済んだ過去の話さ」

「む、貴様は確か……」


立哨していた高地の国の兵士が君塚を咎めようとその言葉が出た瞬間――勢い良く政務室の扉が開かれ、いや内側から激しく『蹴り開けられ』そのまま扉の前にいた伍長は勢いよく吹き飛ばされてごんっと頭を壁に強く打ち付けた。


「ぐえっ」

「まだ終わってなんかいないわよ!! バカ悠里!!」

「うわ出たっ」

「総司令官閣下! 流石に他国の国家元首相手に『うわ出た』は失礼ですよ!!」


怒りの表情で飛び出してきたエリカは君塚の顔を見て一瞬パッと嬉しそうに花を咲かせたが、すぐに「うわ出た」と言われたことに気づき慌てて室内に戻る。哀れな伍長は壁際でのびたままだ。


取り敢えずアナスタシアの様子が気になったので君塚はやむなく速やかに室内に入る。


「失礼しますアナスタシア殿下。後、エリカ帝陛下」

「どうぞお入りになってください」

「私が先に失礼してるわよ。……少しは『私達のために』急ぎなさいよね」


敬礼してからアナスタシアの招きによりエリカがどっかりと高級ソファに座っている執務室内に入る。


「あの外の兵隊は、気絶したままでよろしかったので? エリカ帝陛下」

「あれ?ああ、もうそのままにしといて。それとそんな言葉遣いは気持ち悪いし水臭いから二人きりの時みたいにいつも通りで良いわよ、悠里。それに、そっちの方が話しやすいでしょう?」

「外交の場でそういう訳にはいかんだろ……。後アナスタシア殿下、お身体は大丈夫でしたか? 天道の襲撃の後は」

「はい。ありがとうございます、君塚摂政閣下。私は護衛のおかげで何も無く無事でした。お助けくださった方々は? どうされました」

「ああ。はい、まぁ……そうですね。どちらも今はあの事件の下手人を監視・再教育しております。少なくともあの二人が見ている限りアレは脱獄なんてしないでしょう」

「しかし災難ねぇ、悠里。まさかあのバカ女を叩く美味しいタイミングで第三勢力が横槍入れてくるなんて本当に信じられないわ。うちの艦隊なら絶対に負けてる様な反則の編成だし……」

「どっからその情報を……はぁ。まぁ、同盟国として共有しておくつもりだったし、今回はこちらから情報提供したということで大目に見るが……次回からは勝手なスパイ網の構築の許容は無いと思ってくれ、エリカ」


やれやれと首を振る君塚だが実際、詳細なJTFの海戦戦闘報告については最高機密扱いなのに高地の国へと即座に漏れ出している件については為政者として憂慮せざるを得ない事だった。

少し不愉快な思いをした君塚は本題へと向けて話題を切り出していく。


「アナスタシア殿下。貴女様は今、暫定的な『皇室の正統後継者』であらせられます」

「私は確かにまだ正式に即位している訳ではなく、あくまで唯一の直系皇室だからこの中央政府の暫定的な君主として存在しています」

「だからこそ、地方の白軍や軍閥は権威の空白を突いて反旗を翻してしまった。だから私は思うのです。急ぎ戴冠をすべきだと」

「相変わらずまどろっこしいわね悠里。私はもう、殿下には伝えたわよ? さっさと『殿下』を『皇帝陛下』にしちゃえば良いって。権威を築くのに重要なのは既成事実の積み重ねよ」

「……お前、既に言ってたのかよ。なら俺の準備した台詞の立つ瀬がないだろうが」

「私としても隣国の鷲の国の安定化は安全保障上急務なの。大体、ソビエトなんて馬鹿げた腐った納屋さえ出来なければ私もこんな急造の侵攻作戦を軍に迫らなくて良かったんだけど。あのクソアマ、よくも私の悠里を攫って……!」

「心配ありがとうエリカ。昨日、ほぼ徹夜でこさえた資料がスムーズに手渡せそうで何よりだよ……全く……はぁ。だが、そうだな……取り敢えずご覧くださいアナスタシア様。ただ、すぐの戴冠式は現状の設備と人員では厳しいものとは思われます」

「厳しい……とは?」


君塚が作成していたアナスタシアの皇帝戴冠式の式次第に関しては、ある致命的な問題が存在していた。それは――


「その神聖な戴冠式に相応しい『高位の聖職者』をどっから連れてくるかです」

「……はぁ。そうだったわね……はぁぁぁぁ……コミュニストはこれだから」

「あの、聖職者の方がどうかされましたか?」

「アナスタシア殿下。聖教会の高位の聖職者は全員、新倉菜月の手により反動分子として処刑されました。運良く生き残った下位の者も地方に逃れて軍閥が推戴するアナスタシア殿下の名を騙る『偽の皇族』どもを祝福して勝手に帝位へ就かせています。我が国は当然、それらの愚か者たちを支持していませんが」

「私も正統政府はこの中央の帝国政府と見做しているわ。地方の軍閥ごときに支持を表明するわけ無いじゃない」

「……そう、でしたか。でしたら我々は、一体誰から王冠を授かれば……」

「地方の聖職者達はこちらには靡かず、現地の白軍の指導者を支持しているそうです。ですが一つ私にも考えがございます」

「ではお伺いしてもよろしいでしょうか?君塚閣下?」


君塚には確かに策は有ったし、それを実行する余地は有った。だがそれをしたら場合によっては「鷲の国の宗教的独立」を損ない、政権の求心力を傷付けかねないのだ。


平原の国(我が国)には同じ教義の『正教会』が存在しています。それで平原の国正教会の高位の者を連れてまいりますので、特例としてその者により執り行わせるべきかと存じます。幸いにも必ず来てくれる手筈ですし」

「どうせ平原の国の総主教の『透ちゃん』でしょ? 最近の彼女、貴方にすっかりべったりじゃないの。アレが貴方の頼みを断るなんて天と地がひっくり返ってもありえないわよ」

「……一々、核心を突く余計な合の手を入れてくるな、エリカ……!」

「あら? 私のサポート、お嫌い?」

「お嫌いです。俺の会話のペース、全然作れないもん。前世みたいに大人しくしてくれたら良いんだが」

「ならもっとしてあげようかしら。50年分の、ずーっと放置された愛のストレスも籠めてね」


エリカと君塚の他人が入り込めない熟年夫婦のような掛け合いが行われる中、困惑し話の内容を整理する為にアナスタシアは君塚へと話しかける。


「え、ええと……つまり、平原の国の宗派・正教会のトップである君塚総主教聖下の手で私の戴冠式を執り行うと言うのはわかりました……何か教義や儀式に違いとかはございますか?」

「教義の変更は特にはございません。ただ教会の中心が『神聖皇務庁』か、『平原の国・ズラトポルの大聖堂』かの違いだけでございます。平原の国に宗教的権威を借りる形になりますが背に腹は代えられません」

「さようでございますか。なら安心しました。聖女教の教えの内容が変わらないなら私も受け入れます。……所で、その君塚総主教聖下は今、何処に?」

「今は本国に居ますが、恐らくこれから我が国のヤドヴィガ殿下と共に此方へいらっしゃるでしょうからそれまでの間少しの辛抱かと。それと戴冠式典の予算でしたが、それも新倉から接収した資産から出せましたのでご安心ください」

「宝物庫の美術品などを処分したからでしょうか? なら確かに捻出は可能でしょうが……」

「いえ。新倉が聖職者や貴族を虐殺した際に不当に彼らから奪って蓄財していた『党の隠し資産』の中から回します。国庫への負担にはならないでしょう。それ程までにアレは人民から略奪していましたから。一体、あんな金塊を何に使うつもりだったのやら……」

「……なら、私はこのまま、平原の国からの到着と、その式典を待てば良いと言う事ですね?」

「はい。アナスタシア様、その通りです。もうしばらくお待ちください」

「わかりました。なら君塚摂政閣下。『その時』は……全て、お頼み申し上げますよ?」


少し含みのある、しかし全幅の信頼を置いた言い方で戴冠式について完全に了承し、無事鷲の国再建の一手が打てた。


これも新倉菜月を降伏させ、新たなる侵略者の天道を追い払えたから行える事でもし天道の軍の上陸を許していたらこの様な政治的空白を埋める余裕も行えなかっただろう。


そして、三者の会談から一週間後。

君塚は復興の拠点となっているキャンプ・フォードの併設滑走路に居た。


広大な滑走路には高地の国のA400M輸送機や平原の国の超大型機An-124、そしてJTFのC-17が復興支援物資を積んで素早く離発着を繰り返している。

この巨大な飛行場、そして前線基地は戦役が完全に終了し次第巨大な敷地を活かした国際空港へと建て替えられ鷲の国の貴重なインフラ資産の一部になるのだ。


鷲の国再建の為に高地の国、低地の国、平原の国の三国は多額の資金と物資の支援を実施し、代わりに資源の採掘等を条件に各国の技術者達が派遣されて各国政府の利権が確保された。


そして反旗を翻していた白軍の軍閥達もJTFや国内軍の圧倒的火力の前に次々と降伏するか、最後まで抗戦して物理的に撲滅されて結局追放されるかの二択で対応され帝国の秩序は急速に取り戻され続けている。


そして着々と準備を進める君塚悠里は次の平穏な国家運営の為への皇帝戴冠式(フィナーレ)のタクトを振るう。

終わらせる為の平和な一撃


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