下策のマッシュルーム
干戈を交えた後
「そうだ! どんどんと彼奴等を追い詰めてやれ!! ガツンとな!!! 水平線の彼方まで追い込むんだ!!!」
天道輝艦隊の旗艦、巨大空母『ジェラルド・R・フォード』。
艦載機は次々と帰還しては弾薬と燃料を補給する発艦の準備を進めて再度出撃して電磁式カタパルトから次々と打ち出されていく。離れた所にある天道の『アドミラル・クズネツォフ級航空母艦』もMiG-29Kの絶え間ない発艦を行う様子が見て取れる。
甲板の上で怒鳴り叫んでいるウィリアム・“ブル”・ハルゼー提督は艦橋の口うるさく甘ったるい小僧とその狂信者の気味の悪いメイドの小娘たちから距離を取るためにわざわざ轟音が響く慌ただしい雰囲気のこの場所へと逃れたのだ。
あのバトルメイド隊を筆頭とした親衛隊の存在は大半のまともな海軍軍人が気味悪がっていて、しかもその指揮権限は時に彼ら一般部隊や将官を上回り時に海戦の作戦行動そのものへ悪影響を及ぼす程だ。
煩わしい連中でありこの作戦の際にもふざけた事に「総統とメイドのための高級な紅茶や菓子類」、そして「衣類や女性用の下着」さえ大量にフォードの限られたスペースに詰め込んでしまいそのせいで航空弾薬や予備部品の物資が削られた。
結果、あまりこの沖合へ長期間滞留出来ないのだ。その上で本来空母艦隊に随伴すべき補給艦やタンカーは存在せず、ミサイルが尽きれば母港に戻らなくては補給・整備もままならない。一撃離脱の短期決戦や防衛・迎撃なら理解出来るが長期的な侵攻・制海権確保には全く不向きで偏った艦隊編成であった。
その結果ハルゼー提督は焦りに焦っている。もしここで敵艦隊を取り逃したりしたら今後の作戦は完全に破綻し、全艦撤退の後再度攻撃の為に天道に何処かの国を落としてもらわなくてはならなくなる。更にその攻略支援に自分達の艦隊を動かさなくてはならない。泥棒を捕まえて縄を綯うようなまどろっこしくてややこしい話が襲いかかってくる。
「ああ、くそボケが! 艦隊に補給艦とタンカーさえ十分居ればこんなに焦らなくても、そうでなくとも余裕を持って挑めると言うのに!! あのバカ小僧がロジスティクス軽視をしやがって……っ! ああ! 焦れったい!!! もし敵を取り逃がせば、俺が責任の所在で他のやつからネチネチ責められる!!!」
天道艦隊は敵の潜水艦隊は取り逃したり、敵の軽空母艦隊の防空網に手古摺りこちらにも損害が発生し、更にそこへタイムリミットの「敵空軍機襲来の可能性」が重なる。
もし鷲の国沿岸までもしくは低地の国領海内に彼らに逃げ込まれれば平原の国の強大な地対空ミサイル網に嵌るか、或いは空軍機が大量に襲来し、最新鋭のジェラルド・R・フォードでさえもただではすまない。
「提督! 提督!! 大変です!!!」
「どうした!? とうとう奴らが潜水艦の魚雷でも差し向けてきたか?!」
「もっと最悪です! 側面から敵艦隊の新手です!!」
「……やはり来たか!! 上がった機体は全てそっちに回せ!! それと! 総統閣下へ報告しろ!!! 余計な事は言わずにな!!!!」
一方、平原の国・国内軍第1艦隊。
ニコライ・クズネツォフ提督はご機嫌なまま敵空母艦隊の側面に自艦隊を完璧な陣形で展開する事に成功し、鼻歌さえ歌っていた。ソビエト海軍の軍歌『艦隊への道』は高らかにアドミラル・クズネツォフの艦内に流れていて艦橋から見て目の前には空っぽのスキージャンプ甲板が一望できる。既にMiG-29KもSu-33も全て発艦した後であり発艦後全ての機体は空軍から提供されたIl-78空中給油機から燃料を受け取り、A-50Uのデータリンク管制の下一目散にCAP任務に就いている。
「はっはっはっ! いや愉快愉快、愉快だ!!! あのファシストか資本主義者か知らんがこの日の為に創設した我が大洋海軍は漸く輝くのだな!!」
赤旗艦隊は現実世界にて果たせなかったそのハリネズミのような3M22 ツィルコン、P-800 オーニクスを筆頭とするミサイル群が既にVLSのハッチを開け、発射する体制が整った上で――
「我々のドクトリンは無駄ではなかった。こんな極超音速ミサイルの雨に打たれて耐えられる軍艦は世界に存在しないだろう。それに、奴らはまだ罠にかかった熊だと気付いてさえいないのは最早悲劇……いや、傑作の喜劇じゃないか!」
ははは、と破顔し笑いが止まらない艦隊司令に感化されたのか他の将兵達も余裕の笑顔が広がっていき、艦隊全域に笑い声が上がる。それはまるで鬨の声のように勇ましく、そして太陽を見る時の眩ささえ称えて。
ふとクズネツォフは腕時計を確認した。
「さて、諸君。時間だ。全艦、さっさと撃て」
「了解しました司令官。全艦、極超音速・超音速ミサイル斉射。死ぬまで撃て」
「そこは『敵が死んでも撃て』だろう? フハハハ!」
海戦の喜劇はキーロフ級やスラヴァ級、アドミラル・ゴルシコフ級等のVLSや傾斜ミサイルポッドから噴き出す大量の白煙と炎から始まり、次々と打たれて行く数白発の矢の雨はこれからの出来事が「勝利の明日」だと確定させるのに相応しい趣きである。この瞬間、JTF・ソビエト・平原の国連合艦隊は戦術的・戦略的勝利を確定した。
反対側に成る北東からも回り込んだ平原の国の潜水艦隊からオスカーII型とヤーセン型がグラニートやカリブル等の対艦ミサイルを斉射し、海中の近くに居たJTFのバージニア級からも対艦仕様のトマホークミサイルが一斉に放たれた。
白い絶望が全方位から取り囲み、天道の空母機動打撃群は電子戦の視界不良の中これを打ち破らされるのだ。
天道艦隊旗艦ジェラルド・R・フォード。
「艦長どもが騒がしいぞハルゼー! 一体これは何だハルゼー!?」
「閣下! 側面から敵襲です!! 敵の機動部隊です!!」
「敵襲!? 新手か! なら迎撃はもう命じたんだろうな!?」
「既に!!」
「ご主人様!」
「メリル! 大丈夫だ!! 俺のこの艦隊の最強のイージスシステムの守りをそう安易に突破出来るわけがない!!!」
だがその過信は防空戦闘によって無惨に打ち砕かれた。
今度は天道の空母機動打撃群が圧倒的な物量でミサイルを消耗させられていた。アーレイバーク級や45型駆逐艦からSM-6やアスターミサイルが頻繁に発射され、飛来する対艦ミサイルを防いでいたがあまりにも敵の数が膨大であり、四方八方からの飽和攻撃が極めて効果的に効いた。
迎撃システムが処理能力の限界を迎え、次々と極超音速の着弾が始まり強襲揚陸艦トリエステやタイコンデロガ級に致命的な被害が発生した。それだけでなく天道のアドミラル・クズネツォフも多数被弾し、飛行甲板を粉砕されて炎上・轟沈した。フリチョフ・ナンセン級も2隻沈んだ。もがみ型護衛艦も26型フリゲートも次々と轟沈し防空網から脱落していく。更に平原の国のタイフーン型やボレイ型が魚雷を発射しあたご型護衛艦や45型駆逐艦へと直撃の被害を強要した。
自慢の無敵艦隊が次々と炎に包まれるのを見て天道は屈辱と恐怖の中、決断を下した。
「……やむを得ない! 艦隊を撤退させる!! 逃げるぞ!!」
「し、しかし総統閣下! それでは作戦が大きく予定が狂います!!」
「案ずるな! 陸上にはまだ俺の送り込んだ特殊部隊が居る……!! 奴らが王族や指導部を暗殺や誘拐して、それで出鼻を挫かれた事を帳消しにしてやるっ!!」
同日。キャンプ・フォードにて。
ヤゾフ元帥らソビエト指導部は全員集合し、君塚悠里に対しソビエト社会主義共和国としての『無条件降伏』を正式に宣言した。
これにより平原の国の地上部隊も怒涛の勢いで進軍・侵攻し、各地で赤軍の武装解除を迅速かつ丁寧に進めた。北部からも同盟国である高地の国の地上部隊がルントシュテットやレープ、ロンメル等の名将の指揮の下に迅速に突入し部隊を次々と投降させた。順調すぎるほどの終戦。問題が有ったとしたら――
「……アナスタシア殿下。これで鷲の国は一先ず再興はほぼ成りました。新倉につきましては……」
「君塚摂政閣下……私は、あの女に、あの女に全てを奪われたのです。せめて鷲の国の司法にかけて裁くというのは出来ませんでしょうか?」
「彼女の平原の国への亡命が成立しております。それと……あれはまだ『ペリメーター』を完全に解除しておりません。私かあいつのどちらかが死ぬと隠されたミサイルが作動するシステムでして……今処刑して殺せば、世界は文字通り核の炎で滅びます」
「……! わかりました。なら、この件では一度引き下がります。ですがお忘れ無きよう、我が国はあの女の大罪を忘れておりません。そして忘れる気も無いのです」
「心得ております。国王のヤドヴィガ殿下もこの件について心を痛めておいででした」
新倉菜月は鷲の国の大罪人だが彼女は君塚の保護の下、平原の国への亡命に成功していた。君塚悠里との「核の共同管理」の司法取引で彼女は悠々と平原の国へと逃亡し生き残る事に成功した。
そして残された問題は彼女の身柄引き渡しであり、今は何とか君塚の権力で凌げているし、復興のための国際援助等で当面はアナスタシアの不満を凌げる。だが、もし鷲の国が完全に復興しきったら、ある程度は覚悟しないといけない。
ペリメーターを確実に作動させるのは彼女か自分の死であるのだから。
(はぁ……面倒になった。どう考えてもアナスタシア殿下は許さない様子だし、仕方ない事情だし……で、向こうを今更殺すのも無理。手詰まりかなぁ……こりゃ。まぁ、生かしたまま牢獄か何処かの僻地にぶち込むか)
眉間を揉んで顔馴染みの部下達と新たに加わった将軍達が一堂に会した、今後の打ち合わせを行うJTFの司令室に入室した。
一同は一斉に起立し、脱帽して軍の主を迎え入れる。
「楽にしろ」
そう言って彼らを着席させる。室内にはチュイコフやロコソフスキー、バグラミャン、トゥハチェフスキー等の見慣れた国内軍の将軍達とブラッドレー、アーノルド、スミスらJTFの将軍達が居た。スプルーアンス提督は今外洋にてソビエトから接収したポート・ゼネラルにて、戦果の報告や寄港中の第1艦隊の司令官クズネツォフと協議しているため不在だ。
「……さて。色んな事で俺が不在の時を諸君は支えてくれた結果、何とか今回の敵を打ち払えた。平原の国の諸君には感謝したい。そして新たに迎え入れる合衆国より来た同志諸君にもだ。彼らが居なければ、俺は今頃冬の泥濘の下で骨になっていたさ」
「でしょうね。まさか、あんな大胆な事をする様なバカがこんな世界にも居るなんて信じられなかったのですよ。おかげさまで敵味方が本国からでは分からなかったし、閣下のいらっしゃる所も我々には見当が付きませんでした」
「おい……」
トゥハチェフスキーはドブ川かシベリアの原野へデリカシーを捨て去った様な発言をして周囲から白眼視されたが、全ての将軍達は君塚悠里の無事な顔を見て安心はしていた。そして核兵器の強奪の阻止に成功した事についても安堵している。
「取り敢えず、閣下のご無事を祝い、ささやかな勝利の祝杯を用意しましたが、必要でしょうか?」
「無論だ」
「では後でプレハブに成りますが、国内軍関係者だけでの祝勝会を準備致しますのでお待ちください」
「頼んだぞ同志トルブーヒン。まぁ、我が軍の活動については、この国で暫く治安維持と平和維持活動だろうな、国内軍がだが。JTFは既に防空戦闘で激しくミサイルを損耗している以上、無理はさせられん。艦隊も第1艦隊が暫く洋上の警備だろうな……全く」
「で、よろしいですかな同志閣下」
「何だね同志チュイコフよ」
チュイコフは悠然と挙手していた。そして発言を君塚は許可する。
「こちらに帰順しなかった狂信的なソビエト兵士やその『第三勢力』の放ったゲリラ・コマンド部隊の存在は確認されているのでしょうか?」
「……ソビエト軍の反乱は起きては居ないぞ。奇跡に等しいが彼らは新倉の通信にすかさず降伏してくれたからな。武装が委譲された結果、奴らの居場所も把握している。だがデルタフォースもレンジャーもあの時は索敵に動いていたが、まだ鷲の国全域の網羅ではない。もしかしたら天道の特殊部隊が何処かには潜伏しているかもしれん。任せていいか?」
「喜んでお任せください。同志閣下のお気に召すご報告をもたらしましょう」
「ああ、任せた。所で偵察の結果だが、天道の揚陸艦は存在していなかったようだから恐らく上陸して来ても軽歩兵部隊だろう。だから歩兵師団を中心に治安活動を行わせるように。市街地に戦車を出して逃げられたら目も当てられん。それでアナスタシア殿下でも攫われたら……はぁ」
「大丈夫です閣下。私のスペツナズ部隊は、漸く運動が出来ると大喜びでしたから。完璧に護衛します」
「そうか、なら任せたぞ」
そうして解散し別れると君塚はキャンプ・フォード内で、アナスタシアが居室にしている部屋の建屋に赴いていた。が、廊下の奥で一瞬、『謎の人影』が見かけられたので胸元の無線機のプレスボタンを押し込む。
「……誰かこのフロアに居るか? こちらはキング。キングより各所へ。誰か貴賓室へ向かっているようだが、行く予定の部隊は有ったか? オーバー」
「……いえ、ありません。そちらの警備班を向かわせます。閣下は今すぐ退避を」
「無茶言うな! ここは殿下の部屋のすぐ近く……! ああ! もうこうなりゃ少し俺も運動しようかなっと。もし銃声が鳴ったら敵の工作員が居たという事だ。さっさと兵士を掻き集めて向かわせろ」
「了解しました、司令官」
君塚はこの一ヶ月ですっかり使い慣れたMCXを抜き、アナスタシアの使う貴賓室のある3階建ての建屋に慎重に向かう。
「……はぁ。兵を待つべきなんだろうが、俺一人でも足止め位は出来るだろう。彼女を攫われるわけにはいかない」
鍵はかかっていない。そのまま入室する。
真っ昼間から堂々とした侵入者に舌を巻きかけたが静かに扉を開けて音を立てないように進んでいる。
MCXの弾倉は5つ、腰のM17拳銃は2つ。
基地内が騒がしく成ってきたが、気にせず一室ずつクリアリングしていく。ドアを開けて進んでいく。入室する際にはカッティング・ザ・パイを基本にして、背後を壁に沿わせ怪しい場所は少しだけ距離を取り確認していく。
(一階は今はクリア。次の階は?)
音を立てないように静かに階段を昇る。手すりではなく壁を背にして、大きく回るように昇って行ったが、何かの足音が聞こえる。
(……まだ一階上にいらっしゃるが、奴らの狙いは経路の封鎖か、それとも…俺?)
素早く階段から身を出して確認した、その時だ。
どんどんどん! と激しい銃声が聞こえる。
外ではJLTVやティーグルMが展開して、警備兵達が室内に続々と入室してくる。
「コンタクト! 外から見えるか!?」
「見えません!」
「偵察ドローンは!?」
「今出しました! 敵は……何故か『メイド服』を着た2人組です!! M4カービン装備!! それと、閣下の後方から友軍が近づいています!!」
「ありがとう! ならこの階はそいつらに任せた! 上はどうだ!?」
「4人! 貴賓室の前で突入準備をしています!!」
「了解! なら俺は、このままその大馬鹿どもとダンスに行ってくる!!」
弾は節約出来た。まだマガジンが3つ以上残されている。
階段を昇り3階へと辿り着くと、爆破音が聞こえる。ブリーチングだ。
「不味い事に成った!」
駆け出した君塚は構えを崩さずそのまま銃を向けてくる二人のメイド服の不審者へとすかさず発砲。プロの兵士のようなエイムで急所を抜き、速やかに撃破した。
そして死体を引き摺り、メイドのタクティカルベストに持っていたフラッシュバンをもぎ取り、ピンを抜いて室内へと投げ込む。
「アナスタシア殿下! 耳と目をふさいでください!!」
「は、はい!!」
ばぁん!!
強烈な閃光と爆音の直後、君塚はその場で勢い良く突入した。そして怯んだ1人を撃つ。
だが中々に倒れない。中に居る2人は先ほど倒した兵士とは違い腹部が異様に膨らんでいる為、『胎蔵電池』の影響下にある防御力の高い存在であるのはわかった。
そして彼女たちはアナスタシアを人質に取り、交渉に出る。
「動くな、おっさん。こいつがどうなっても良いのか?」
獣耳の少女がMP5Kの銃口を君塚悠里へと向けたまま後退りする。その後ろでエルフの少女がP226をアナスタシアのこめかみに当てたまま警戒もしている。
「動くな? はっ。もう袋のネズミなのに……どうするんだろうかなぁ……? 動かなかったとして、俺の部下が十重二十重に囲んだこのシチュエーションで俺だけが動かないなら……助かるとでも? 眠いのか嬢ちゃん」
「うるさい! とにかく、私達にはこいつが必要なんだよ!!」
「ヴィーシャ! そのまま警戒させて!! 私は天道様の――」
「あ、すまん。もうお前たちは『詰んでたわ』」
後ろから三階の窓ガラスの割れる音が聞こえ、そして2人の突入する姿が有った。
レーナ達は外からラペリングで突入し、速やかにグラッチ拳銃でヴィーシャと呼ばれた獣耳の少女の首を撃ち抜き制圧して。ナディアはエルフ耳のメイドの首を背後から掴むとアナスタシアから引き剥がしてそのまま床へと強引に引き倒した。
「ヴィーシャ!?」
「エルフめ! 閣下と殿下に何をしようとした!!」
「がっ!!」
「ご無事でしたか、同志閣下!?」
レーナは君塚の下へと走り寄り安全を確保するとそのままナディアは馬乗りになり、エルフの顔面に怒りの拳一発を入れて気絶させ速やかに両手首をワイヤーでガッチガチに締め上げていた。
エルフも大きく腹部が膨らんでいて少し気の毒に思った君塚だったが、それでも普段は優しくて冷静なナディアから憎悪の感情が瞳からメラメラと燃えていることに少し戸惑っていた。
「……ありがとうナディア、レーナ。おかげで非常に助かった。アナスタシア殿下をお守り出来たが……。ナディア、どうしてそんなにエルフ嫌いか『上司として』聞いていいか?」
「閣下。乙女には必ず1つかそれ以上の『深い秘密』があるものですよ……ふふふ。あのクソ種族……ふふふふふ」
取り敢えず下手人は1人生け捕りで確保出来たのですぐに君塚はアナスタシア殿下へと駆け寄った。
「ご無事でしたか殿下。もう駄目かと」
「ありがとう、ございます……。またお助けされました。もう、どうしたらいいか……」
「ご安心を。奴らの工作員はこれで最後でしょう。多分ですが」
「……私は助けられてばかりです。結局私は何もこの手で為せない――」
「そんな事を今考えても仕方ありません。まだ殿下は若い方だ。これからの人生が有る。だから、これから私にその恩義を君主として一つずつ返していってください。それが私から貴方へと頼む恩返しです」
「……そう、ですね。なら私は……少し落ち着いてから、改めてお話しますね、君塚様」
「……かしこまりました、アナスタシア殿下」
君塚は優しく頷きながら、彼女の震える手を握った。
天道の魔の手は退けた。だがこの世界での「覇権を巡る泥沼の戦い」はまだ始まったばかりである。
そして屍山血河は成される
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